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1、珈琲とクソガキ

 相も変わらず、ここの喫茶店は数十分もいれば珈琲中毒になりそうだった。


 貶してはいない。


 熱い思いが店中に広がり、この重い香りに現われている。

 そう勝手に汲み取っただけの事。


 ただ香りが鼻を抜けるたびに、そのうち一日一度は嗅がないと禁断症状が現れるのではないかと心配になるのだ。


 実にくだらない考えである。


 カップにそそがれた液体の向こうにいる自分をみて鼻で笑った。こうして自身の考えにあきれるのも何回目だろうか。数えたことは一度もないが。


「またなんか考えてる……」

「人はいいから、早く食え」

「やだ、ゆっくり食べるのが一番おいしいんだよ」


 ねぇマスター、と発した言葉には食べた砂糖が少し溶けて混じっていた。


 カウンター席、自分の隣に腰掛けた栗毛色の髪の少女――ナオは匙を口へ運ぶ。口端はまたも砂糖に甘やかされている。嬉しそうにツインテールを揺らした。


 それっぽいことを並べただけで、要はコイツは甘味(しあわせ)に触れる機会が欲しかっただけだろう。


 行き場のない退屈が自分の頬を緩ませる。早く食い終われクソガキ、と口から洩れそうになるのを防ぐよう、店自慢のブレンドコーヒーを流した。口の中に残る苦味とコクに口端が締まる。


 手元のスマホを起こすと液晶に22:50と書かれている。店が閉まるのも、約束の時刻もそろそろだった。


 ちらと見ればナオも匙を手放していた。

 自分も底に残った黒い液体を飲んで、ごちそうさまとマスターに頭を下げる。彼女も自分の真似をする。


 財布を取り出していると、ナオは片目を閉じて媚びを投げつけて来た。


「ぜっってぇヤだ。自分の分だろ」

「やだぁーっ!」

「お前なぁ」

「大人なシューちゃんを立たせてあげてるのにぃ!」


 口端がヒクヒクと揺れる。


(クソガキ……)


 払い終えた自分は彼女が財布を取り出すのを見送って一人店を出た。大人のくせに、とぶーたれていたが聞く耳を持たずにその場から去る。


 情けない話ではあるが、自分が持つ金は大事にしておきたかった。なにより、向こうのほうが金は持っていた。なんなら、自分の生命線の手綱を握っているのも向こうである。


 大人を立てたいのであれば、別な人にやらせた方がいい話。自分のようなドクズに求めるのはお門違いだった。


 雪がそろそろくるこの時期。外へ出ると瞬時に肌が凍っていくよう。吐く息は少し凍って闇に溶ける。鼻先の感覚が失っていくのがわかる。


 店の呼び鈴と共にナオが出てきた。マフラーに顔をうずめて出てきた彼女は、寒いと歯をわざとらしく鳴らす。


「いくぞ」

「おー!」


 片腕を上げやる気を見せつけてくる。

 そうして腕を振って軽快に先を行った。


 地面を踏むたびに乾いた音が二つ鳴る。

 空へほのかに浮かぶ青白い光。

 カーテンの間から漏れる暖色をコンクリートは全て吸い込み、町を闇へと招いている。

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