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酷く蒸し暑い。深夜だった。敵の奇襲である。爆風に血の匂いが混ざっている。初めて仲間が死んで動揺した部隊は散り散りになった。
真夜中の森で息を殺して逃げながら静を探した。捕虜と一緒に逃げていくのを見た。だけど敵が投げた手榴弾で爆煙に巻かれて見失った。
尖った木の枝や葉が鋭く軍服を切り裂く。
今見つけなければ二度と会えないと思った。
あちこちから銃声が聞こえる。仲間がどこに逃げたのかわからない。
敵がいつ目の前に出てきてもおかしくない。どこに逃げればいいのかもわからない。暗い森の中のあちこちで銃の火花が散る。時々大きな爆発音がして辺りが白くなる。息が苦しい。
女の悲鳴が聞こえた。声のする方に行くと敵の兵士が静の腹の上に馬乗りになっていた。静は顔を覆って泣いている。
激しい頭痛と耳鳴りがした。取り囲む木が燃えている。
別の何かに体を乗っ取られたような気がした。一瞬で頭から爪先まで体中に何かが浸透して制御出来なくなった。
気が付くと右手に持っていた機関銃で自分とは違う色の軍服の男達を撃っていた。
この数カ月戦地で何十回も敵と撃ち合っている。人を殺したことがないわけじゃない。冷や汗が止まらない。全身が冷たかった。
硝煙が辺りに立ち込めている。
倒れている敵兵が血塗れの顔でこちらを見て驚いた顔をしていた。部隊の中で一番年下である。幼く見えるんだろう。十五歳だった。