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光と波  作者: 善文 杏南
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0-2

 奇襲を警戒しながら先頭を歩く兵士の後ろに負傷兵を乗せたトラックが続く。

 兵士の歩調に合わせてトラックはゆっくり進む。軽傷の兵士達がトラックを囲んで無言で歩く。

 捕虜を前に歩かせて一人で一番後ろを歩いていた。

 朝から歩き続けて日が暮れ始めている。

 強い光を放つ赤い夕陽を見上げた時軽い目眩がしてうずくまった。前を歩く捕虜の姿はいつの間にか見えなくなってしまったけどどうしてもついていくことが出来なかった。

 日陰で小川の水を飲んでゆっくりあとを追いかけた。

 合流はまだまだ先だろうと思っていたのに暫くすると木々の間に一人だけ立ち止まっている女が見えた。例の姫氏原の女だった。待っていたようで目が合うと女はすぐに横を向いた。

 裾がほつれた泥だらけの服を着て青い頭巾を被っている。

 長い髪の毛が胸の前に一房垂れた。その髪の毛は日に焼けて茶色い。それなのに一度も太陽の下に出たことがないような白い肌をしている。

 女は華奢な手で野生のトリカブトを折って顔に近付ける。花の匂いを嗅いでいる。

 無知なのか熟知しているのかわからない。この山の至る所に咲いているそれは毒草だと姫氏原から聞いたことがある。

 薄紫の帽子のような形をしたトリカブトの花は美しい。だけど根に強い毒があるらしい。

 女がこちらを見た。目が幼いけど鼻が高い。美人である。

 その女と長く目を合わせたのはそれが初めてだった。それまでなんとも思ってなかったのにそれ以来気付くと目で追っている。

 元は富裕層の女だったと姫氏原が言うのを聞いたことがある。

 この国に日本軍の警察機関は多い。無実の金持ちにスパイの容疑をかけて逮捕して保釈金をせびるのが慣例になっているという。一度目を付けられると金を全てまき上げられて最後には監獄に入れられるらしい。

 基地の水飲み場で一目惚れした癖に勇気がなくて声を掛けられなかったので彼女が再び現れるまで何度もその場所に通ったらしい。売春宿で働いていたその女を金で買い取って恋人にしたらしい。

 だけど姫氏原は有名な政治家の長男である。そんな女との結婚を家族が許す筈がない。

 女は姫氏原にしずかと名乗っている。勿論本名ではないだろう。



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