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父親は金持ちで厳格だった。一人息子を戦場に送ったきり何の便りもよこさなかった。
夏の蒸し暑さは兵士達に嫌な汗を掻かせている。
「また奇襲を受けたよ」
本部からの電話に答える姫氏原は涼しい顔を泥だらけにして状況を説明している。
何度も奇襲を受けて怪我人があとを絶たない。死人が出ていないのが不思議なぐらいここ数日戦闘を繰り返している。精神的にも肉体的にも疲労している。
捕虜を引き連れての帰路の途中である。捕虜は十人。老若男女、子供もいたけど捕虜と口をきくのは姫氏原ぐらいである。
捕虜がどうなろうが知ったことではない。友好的な関係を築いても意味がない。
それなのに姫氏原は捕虜の女に入れ込んで拙い外国語でしょっちゅう話しかけている。
敵がいつ茂みから出てくるかわからない生きるか死ぬかという時に捕虜なんかと仲良くしている友人に苛立ちを感じる。だけど好きにすればいい。どうせ長く続かない。
暫くして姫氏原は爆撃で足を負傷した。女なんかにうつつを抜かしているから罰が下ったのだと思った。