第30話 白い部屋
おぼろげだが意識が戻った。手足が繋がられている。指の先に心拍数を計測する装置がはめてある。
辺りは良くわからない。意識もはっきりしていなく、眠気がひどい。自分の下半身を見ると、何も履いてないらしい。陰部には管が繋がられている。管に触ることはできそうだが、気にしていると年配の女性の声がした。姿は確認できない。
「それ取らないでね。血がでちゃうよ」
痛いのは困る。俺は手術経験がないから、管とか良く分からん。また眠気が襲い、意識がなくなった。
目が覚めた。白い部屋。6畳ほどか。ベッドとトイレが隅にある。あとは鉄の扉。
大きな窓がある。日が落ちて暗かった。ショーンは現在時刻を眼球表示した。
[2075/8/917:55]
ここはどこだ。病院?ミネダ先生は病院に行くと言っていたな。陰部の管も取れてる。用を足すか。
ショーンはポツンと置いてある、蓋のない様式トイレで用を足した。
あれ?流すレバーがない。どうすんだ?その時、扉の鍵を開ける音がした。
メガネを掛けた、ピンク色の白衣を着た若い女性だ。看護師か。久しぶりに女性と接して、ショーンは少し緊張した。
「夕食のお時間です。拘束されているので、私が手伝いますね」
「食事か。そういえば、何日も栄養サプリメントだったよ。最近のは本当にすごい栄養だ。だけど、本物の食事には敵わん」
ショーンは脳内PCとばかり独り言しか話してなかったので、自分の声が変な気分だった。やっと会話できた安堵感もある。食事を見ると、日本食のようだ。お米に焼き魚。納豆か?食べにくそうだな。若い看護師は箸で俺の口に食事を運ぶ。俺は口に入れてもらい、噛む。また口に入れてもらう。噛む。この繰り返し。初めて食事の介助を受けた。老人なんてこんな感じか。それにしても何でこんな日に納豆。ねばねばして食べにくい。しかし、看護師はなれた手つきでくるくる箸を巻いて、納豆を処理する。俺はもう何も質問もできない。食事が美味かった。介助で恥ずかしかったが、9日ぶりだろう。食事をするのは。食べ終わると、看護師は退出した。
どうやら酷い目に合うのではないらしい。俺は精神に異常があると思われているのだな。刑務所よりましか。しかし、あの罪では良くて終身刑。悪くて死刑だ。ドラミ!ドラミを起動できるか?ドラミ!
[・・・・・・・]
だめだ。反応がない。テレパシー!
(イラック・・・イラック・・・・)
だめだ。何かテレパシー能力がなくなっている気がする。なにかされたか?
再び扉が開いた。
「薬の時間です」




