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坊野結婚相談所、AIの婚活

作者: ばんがい

結婚相談所を運営する坊野太郎は、その日も忙しい一日を過ごしていた。

「結婚相談所」と聞けば、幸せなカップルを成立させるための陽気な仕事を連想するかもしれないが、実際はそう簡単ではない。相談者はそれぞれ異なる事情や背景を抱えており、時にはその過去の傷や悩みにまで深く関わる必要がある。

〈人は孤独では生きられない。友人や家族、仲間とのつながりが必要だ。結婚もそのつながりの一つだ。〉

坊野はこの信念を胸に、相談所を運営してきた。彼自身、かつて孤独を感じた時期があり、誰かに支えられることの大切さを身をもって知っていた。それ以来、彼は自分の仕事を「孤独から人を救うための役割」と考えていた。

「今日も頑張るか……」

そうつぶやきながら、坊野は新しい依頼を迎える準備を整えた。


その日の午後、一風変わった依頼人がやってきた。背広をきっちりと着こなし。無機質なほど整った髪型で、左手の薬指には指輪があった。

彼はデスクの上に名刺を置いた。それには、大手企業のロゴと「社内システム担当:角野 雄太」と名前が記されていた。

「私たちは、御社に少し特別な依頼をお願いしたいのですが。」

その言葉を聞いて、坊野は少し眉をひそめた。どんな場合においても「特別な依頼」というフレーズは、「厄介な問題」を意味することが多いからだ。


「実は、弊社全体のシステムを管理しているAIのパートナーを探してほしいんです」


「AIのパートナー探しですか?」

最初、冗談や比喩の一種かと坊野は思った。

しかし、依頼人の真剣な表情から、これが冗談でないことは明確だった。AIの婚活、今までそんな話聞いたことがなかった。


角野から詳しい事情を聴いてみると、こういうことだった。

ある男性社員が、AIを利用して婚活の相手を探そうとしたらしい。

しかしその時誤って、自分ではなく、AI自身の相手を探すように指示をしてしまった。

AIはまず、社員リストを調査したが、自分に相応しい相手はいないと判断、現在、社外も含めてネットワークのあらゆる対象から自分にふさわしい相手を探そうとしている、とのことだった。


「AIパートナー探し……。なんとも不思議な話ですなぁ」

「……正直なところ、これは緊急事態です。」角野は額の汗を拭った。

「実は弊社のAIが、社内のシステム管理よりも、自分のパートナー探しを優先してしまっているんです。その結果、業務のうち、いくつかの重要なシステムが使えなくなっている状況でして……」


「それは大変だ。しかしね、角野さん。私としても、こんなご依頼は初めてで、少し考えさせてください」

「やはり、そうですよね。こちらの結婚相談所には、ネットワークにつながっていない相手も紹介してもらえると聞いて、もしかしてここならと思ったんですが……」


肩を落として帰っていく角野を見つめながら、坊野はしばし考えた。

日本有数の大企業そのものともいえるAIが果たしてどのような相手なら満足するのか。


人は孤独では生きられない。AIも同じだとするなら、AI孤独を埋められる存在はどのようなものだろうか。

同じ孤独を理解してあげられる存在とはどういうものだろう……。


その時、ふとあるアイデアが浮かび、もらった名刺に電話をかけた。

「もしもし角野さん、坊野です。一つアイデアが浮かんだんですが、お宅の会社で宇宙事業にかかわっている部門はありませんか。」

「宇宙事業ですか、まぁありますけど、ですがなぜ?」

「はい、人工衛星に搭載されているAIを紹介するのはどうでしょう。」

「人工衛星のAIですか?」

「AIが一瞬で、相手のことを判断できると考えているなら、むしろそれこそが、パートナーを見つけられない原因かもしれません。相手を理解するためには、AIいえどもある程度の時間が必要なのかもしれません。」

「なるほど、宇宙との通信は、場所にもよりますが、データのやり取りに時間がかかりますものね。たしか、うちの事業で、地球外の生命を探す国家プロジェクトに協力してる部署があったはずです。さっそく、担当者に相談してみます!」

挨拶もそこそこに、角野は興奮した声で電話を切った。


坊野は、提案が受け入れられたことで、ホッとしたような、なんだか不思議な気持ちだった。

これまで多くのカップルを見てきたが、AI同士の婚活という発想は想像の外だった。

ふと坊野は窓から空を見上げた。角野は地球外の生命を探すプロジェクトと言っていたな。

もし、その人工衛星が宇宙人と接触していたら、地球の文化として婚活を紹介するのだろうか。

その宇宙人が自分のところに婚活を依頼してきたらどうしよう……。


「その時は、その時か。」


坊野は微笑んで、次の相談の準備に取り掛かった。


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