第6話
検索結果はたった一作品だけだったが、確かに書いた記憶のあるタイトルだった。
検索をかけたペンネームは俺が使っていたものだ。
「なんで俺の作品が残ってるんだよ……?」
当時、この作品の評価は散々だったはずだ。
まったくの無名で、一度もランキングに載ったことのない底辺作家で、さらに異世界転生やVRMMOといった流行りのジャンルでもなく、タイトルも短い作品だったから、そもそも読者が少なかったのだ。
その上、主人公が特定の人物でない上に、現在の物理法則などを完全に無視した、オリジナルな世界を舞台にしたものである。
つまりそれは、共感を生むような物語ではなかった。
だから当然、評価してくれる人なんて一握りしかいなかった。
だけど、「面白かった。続きが読みたい」と感想をもらえたのはこの作品だった。
「まさか、俺がコールドスリープで眠った後に爆発的な大ヒットをしたとか……?」
それならその間だけでも起こして欲しかったな。
どんなふうに俺の作品が扱われたのか、今となってはわからない。
だけど、不朽の名作に並んで、俺の作品があるというのは違和感はすごいが嬉しい。
ニヤけた顔でその画面を眺めていると、ロボットが話しかけてきた。
「どうやら満足いただけたようなので、また実験を再開してもよいですか?」
「ああ」
すっかり気分がよくなった俺は、自らヘッドギアを被り、ふたつ返事で再び実験に付き合うことにした。
そこからはじまったのは、恋愛シミュレーションゲームみたいなものだった。
「いや、なんでその格好でいけると思った?」
犬型ロボットの姿のままで俺にヤンデレを発動してくるロボットに、思わずツッコんでしまう。
「そのような愛の形が過去にあったようなので、それを参考にしてみたのですが」
そう言って、AIを搭載した動物タイプのロボットと人間の恋愛ドキュメンタリーを見せてくる。
「多分それ、俺が知ってる時代のじゃないから……」
「仕方がないですね。じゃあこの姿はどうですか?」
その姿は、異世界で一緒に冒険をしていた美少女だった。
「この姿なら、あなたも気合が入るんじゃないですか?」
笑顔で聞いてくるが、中身がロボットだとわかっているのでまったく気持ちが乗らない。
「ちょっと待て……」
その割に、美少女の話し方が異世界冒険をしていた時と同じだ。確かにこいつの話し方は聞き覚えがあったが、まさか……
あの中身ってこいつだったのか?
だけど、淡い恋心を抱いていた相手だ。
それを認めたくない気持ちもあり、最後まで確認できないまま、ぎこちなく相手をした。
そんなギクシャクしたやり取りだったからだろう。
ロボットが求めているような反応をすることができなかったようだ。
「これも失敗ですね」
そう諦めて、すぐに元の姿に戻った。
その後も様々な状況を俺に与えてくるが、どうやらロボットが期待する反応はできなかったようだ。
再び現実世界に戻り、犬型ロボットと向かい合う。
「どうも過去の旧人類のデータと、あなたの反応には差異がありますね」
「一体どんなデータを見てやっているんだよ?」
「過去何千年と蓄積された世界中のデータを組み合わせたものです」
そんな過去数千年の、世界中の人間の代表に俺を選ぶなよ……。
「せめて俺の生まれた時代に絞ってくれ。あと国もな」
「それはもう分類できないので無理です」
「どういう管理してるんだよ?」
「そういう分類を必要とする者がいなくなって久しいので、データを圧縮するためにいくつか項目を削除しました」
「……」
ちょこちょこデータの扱いが雑だな。
「もっと物語の主人公たちは行動力や欲望があって、生き生きとしているはずなのですが」
「あー、主人公ならそういうタイプが多いかもな。でも、そうじゃない話もあるはずだが……」
「ゼロではないですが、少数派ですよね」
つるりとしたボディのロボットは不思議そうに首を傾げる。
「まあ、小説やら映画やらゲームに出てくる主要人物は、話を進行させるために何かしらの役割をみんな持っているからな」
「では、旧人類はあなたのような覇気のない人間が多かった、ということですか?」
「おい、言い方」
覇気がないって間違ってはいないが、本当のことを言われると傷つくわ。
「しかし、あなたが基準だとすると、話が変わってきますね」
「だから、俺を旧人類の代表にするなよ」
「それでも、あなたは旧人類ですから」
この押し問答は不毛だと感じた俺は切り口を変えることにした。
「じゃあ、旧人類の俺に何を求めているんだよ?」
ロボットは思案するように少し黙った。
そして、意を決したように口を開いた。
「この世界は、新しい物語を求めています」
「新しい物語?」