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第4話

 うるさい外野を無視して、やっと空腹を満たした俺は、つい昔の習慣でベッドの上に寝転がった。


 これがいけなかった。


 ロボットは突然、俺の頭に何かを被せてきたのだ。

 そして抵抗する間もなく、俺は仮想空間に放り込まれた。


「確かにヘッドギアで仮想空間にダイブとか、やってみたかったけどさっ!! 何だよこれっ!!」


 初めての感覚に目を瞑りながら、俺は叫ぶ。


「旧人類の欲望に基づいて、“愛とスリル”を再現してみました」


 そう犬型ロボットは説明した。


「愛とスリルの再現……?」


 恐る恐る目を開けると、そこは左右の壁がそそり立つ通路のような場所だった。

 目の前には白いタキシード姿の見知らぬマッチョな男が立っている。


「君を愛している!! 結婚してくれ!!」


 マッチョ男は真剣な表情でひざまずき、指輪を差し出してきた。


「ちょ、ちょっと待て。誰だよ、お前?」


 俺も男だし、もし結婚できるなら女の子としたい……。

 まあ、ロボットの話が本当なら、この世界にはもう俺しかいないから結婚もできないけどな。

 ひとりでそんなことを考えて、少し落ち込む。


「こんなことなら、もうちょい異世界の中で女の子たちとイチャイチャしておけばよかったっ……!」


 しかし、目の前のマッチョ男は俺のひとりごとにも動じない。

 むしろプロポーズに失敗したら死ぬくらいの深刻さで、目を血走らせている。


 と、そこで突然の振動を感じた。


 そしてゴロンゴロンという音が聞こえ、緊張で震えるマッチョ男の背後に目をやる。

 すると、マッチョ男の背後には猛烈な勢いで転がってくる巨大な岩が見えた。


 ロボットの声が上空から響く。


「プロポーズに断られる恐怖。そして迫りくる死の恐怖。これこそ究極の愛の形です」


 意味がわからん。


「こんなん愛でもなんでもねぇよっ!」


 俺は叫びながらマッチョ男を引っ張り、都合よく設けられた退避場所へ逃げ込んだ。

 意図せず命の恩人になってしまった俺に、目を輝かせたマッチョ男がキスしようと迫ってきた。


「いや、だから、そういうんじゃねーから」


 そう必死で押し退けていると場面が転換した。




 俺は豪華なレストランのとある席に座っていた。

 しかし、テーブルの下を覗いてみると……爆弾がセットされている。


「食事中に爆弾が爆発するかもしれないスリルが、恋愛を盛り上げることを証明しましょう」


 ロボットの声がまたしても響く。


「証明しましょうって何だよ!」


 テーブルの向かいにはドレスアップした女の子が座っている。

 目が合うとニコリと笑った。


 可愛い。


 しかし、その瞬間テーブルの上にあるケーキのキャンドルが一本消える。


「残り時間三分です」


 ロボットがアナウンス。


「だから何がしたいんだよっ!」


 俺は叫びながらテーブルをひっくり返し、爆弾を力一杯もぎ取った。

 そして、テラスまで走る。

 外に出ると、それを思い切り投げ捨てた。

 結果、レストランの向かいの建物が大破したのだった。


「観察対象が非協力的です。再試行します」




 そこはボクシングのリングの上だった。

 俺はなぜかグローブをはめられている。

 対戦相手として向かい合っていたのは、先ほどプロポーズしてきたマッチョ男だった。


「またお前か!」

「よう! 運命を感じるな !」


 感じたくない。


「愛を勝ち取るためには戦う必要があります」


 再び上空からロボットが熱弁をふるう。


「人類の歴史でも愛を巡る戦いは頻繁に起こりました。このリング上で勝利した者こそ、真実の愛を得るにふさわしい存在です」

「待て、勝ったら何が得られるんだ?」


 真実の愛を得るって、まさかさっきの女の子が俺に好意を寄せてくれたりとか……?


「ハンバーグです」

「全然愛じゃねえじゃん!」


 何? ボケなの?

 俺がツッコむところまでがセットなの?


 そして、ステーキもまともに出せないロボットが言うセリフとは思えない。


 ゴングとともにマッチョ男が殴りかかってきたので、俺は反撃せずにガードを続けた。

 するとロボットが不満げに言った。


「もっと情熱的な戦いを。どうもこの場には愛の炎が足りませんね」


 その声とともにリングが炎をあげて燃え始めた。


「お前、情熱の意味を履き違えてるぞ!」


 俺は火を避けながら反撃を考える。

 しかし、よく考えなくてもここで戦う意味はないと秒で判断しリングから脱出することにした。

 炎がボクシングシューズに燃え移って慌てているマッチョ男もついでに避難させた。

 すると、目を潤ませたマッチョ男は再び俺にキスしようとしてきた。


「だから、そういうんじゃないんだよっ」




 その後も「落ちるエレベーターで愛を叫べ」「ゾンビの群れをかいくぐって相手を守れ」など、スリルと愛を融合させた奇妙な実験が繰り返された。


「ちょっと落ち着けっ!」


 俺は姿の見えないロボットに説教を始めた。


「一体、俺に何をやらせたいんだよ」

「旧人類が記していた“愛とスリル”の行動パターンと生体計測をしようかと」


 俺はモルモットか?


 だが、たったひとりの旧人類だとしたら、俺はモルモットなのかもしれない。

 ため息を吐きながら、目の前に現れた犬型ロボットに伝える。


「だとしたら完全にアプローチ間違えてるぞ。これじゃただのスリルを味わうアトラクションだ」


 吊り橋効果の再現でもしているつもりなのか?

 ロボットは一瞬黙り込んだ後、こう答えた。


「では、次の試行においては“信頼”をテーマに構築します」


 あ、諦めた。

 で、まだこのアトラクション続くのか。


「おい、頼むからマシなのにしてくれよ」


 どうせやることもない。

 一応注文してみるが、果たして。

 次の瞬間、薄暗い迷宮が目の前に広がっていた。


「あなたの信頼度を測定するため、視覚を封じたパートナーとともに、このドラゴンの徘徊する迷宮を攻略してください」

「結局、スリルじゃねえかっ!!」

「だって、あの世界であなたが本物のスリルを感じたことってほとんどなかったじゃないですか」


 ん?


「ちょっと待て……」


 ストップ、ストップ。


 あの世界?


 まさかあの夢だと思っていた異世界冒険までも、こいつが仕組んだことなのか?

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