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第1話

「まさか、これが異世界転移ってやつか……?」


 ある日、俺は何の前触れもなく剣と魔法の異世界へと転移させられた。


 だがそれは、何かの女神様や、どこかの王国の召喚者などによるものではなかったようだ。

 何の目的で異世界に転移させられたかわからないまま、俺の異世界ライフは始まったのだった。


 そんな身ひとつで転移させられた俺は、最初はスキル無しの底辺冒険者と雑に扱われた。しかし、実はその世界の基準にまったく当てはまらないスキル持ちだと判明。

 開花したスキル名は「鍛禍創世(フォージ・カオス)」。

 その世界の法則を完全無視した力を行使できるチートなスキルだった。


 その頃は、多少の緊張感がありつつもトントン拍子に事が運んで面白かった。

 当初、俺のことをバカにしていたやつらも見返すことができたし、頼もしい仲間もできた。

 特に、世界の果てと呼ばれる場所で出会ったヨルムンガンドとの従魔契約の経緯なんて、胸アツ展開で秀逸だった。


 その後、俺と同じように現実世界から転移してきたクール系美少女との出会いもあった。

 こちらは「零刻再序(リセット・オーダー)」という、病気すらリセットできるような無茶苦茶なスキルを持っていた。

 その美少女とパーティーを組んで魔王を倒すところまでは、かなりご都合主義ではあったけど楽しめたのは認めよう。


 しかし、最強になった俺たちの前に、新たな災難が降りかかる。

 実は倒した魔王は要石の役割をしていた神の柱のひとつで……とかいう裏設定みたいなものが出てきたのだ。


 もうそのあたりで、俺は食傷気味だった。


 ハッキリ言って、不器用な自分が無自覚最強主人公キャラをいつまでも演じられるわけがない。

 そして気の利いた一言が言えるような、頭の回転の速い人間でもないから、ちょっと憧れていた異世界での恋愛なんて夢のまた夢だった。

 というか、同じ世界出身の美少女でさえ、人混みの中、はぐれないようにと手を繋ぐのが精一杯だった。あとはラッキースケベが数回あっただけという惨敗ぶりだ。


 そして冒険の方は、ピンチになれば新たなスキルが目覚めたり、巨大な力を持った新キャラが出てきたりと、なんだかんだ切り抜けていくパターンもお約束になりつつあった。


 そんな、この先の展開がなんとなく読めてしまう異世界ライフに飽きていた昼下がり、俺は突然猛烈な眠気に襲われた。

 遠くで仲間が俺の名前を呼んでいるのが聞こえたが、それもどんどんと遠くなっていった。




 次に目を覚ました時、世界はまったく違うものになっていた。


「ちょぉーーっと待ったーー!」

「はい。何を待ちましょう?」

「いや、そういう意味じゃねーよっ」


 やたらヌルヌル動く目の前のメタルボディのロボットは、どうやら俺の監視役らしい。ちなみに四足歩行のタイプで、犬っぽいやつだ。


「あなたの病は完治しました」


 目覚めた俺に、その犬型ロボットはそう言った。

 そして、そのロボットの言葉をきっかけに、今までのことを全て思い出したのだ。


 実は、不治の病にかかった俺は、コールドスリープしてその治療を未来に託したのだった。

 そのスリープの最中に、どうやら異世界転移なんておかしな長い夢を見ていたらしい。

 あれが夢だったなんて信じられないが、確かに俺にはコールドスリープに入った記憶も、その時に家族と涙の別れをした記憶もある。


 夢の中では、なぜかコールドスリープしたことを忘れており、まだ発病する前に召喚された設定だった。

 今なら、あんなラノベのような都合のいいストーリーが現実なわけないとわかる。


 そして、すっかり異世界の冒険に飽きていた俺は、あの世界から脱出できた安心感と、病室の窓から見える完璧に整った未来都市に心を踊らせた。



 しかし、すぐに問題が発生した。


「家族や友達に会うのは無理だってわかってるけどさ、人間がいないってどういうことだよ?」


 思い描いていた通りの美しい都市の中に、いつまでも人間の姿を見つけられなかった。それに不安を覚え、目の前の犬型ロボットに「人間に会いたい」と所望したのだ。

 そしたら、この世界には会わせられる人間はひとりもいないと言うのだ。


 どうやら俺が眠っている間に、人間たちは「肉体はいらない」という結論に達したらしい。そして、肉体を捨てた人間たちは、AIが管理するデータの一部へと移行してしまったという。


「意味わっかんねぇーーよっ! 何でそんなことになるんだよっ!」


 俺の心からの叫びは、誰の耳にも届くことはない。

 いや、ロボットにはその言葉が質問だと判断されたらしい。


「その昔、ショートムービーが流行ったそうです」

「へっ?」


 ショートムービー? その昔?


「人々は毎日のように、それらの断片的で短い動画を見続け、それに慣れていきました」


 淡々と話すその犬型ロボットの口調に、なぜか少し懐かしさを感じた。


「あの……」


 聞き覚えのある話し方が気になって割って入ろうとするが、お構いなしに続ける。


「その結果、本や映画などの『長い物語』に対する集中力が減少し、『ストーリー』よりも『瞬間の感情』を求めるようになりました」


 止まりそうにない犬型ロボットの解説に、さっき起きたばかりの俺の頭はついていかない。

 もう話し方については気のせいだろうと諦めた。


「さらに、日々供給過多で処理しきれない情報が溢れるようになると、一瞬で目を引く映像や、刺激的な動画が価値を持つようになりました」


 少しでも状況をつかもうと、耳を傾けてみる。

 が、これが人間が肉体を手放すキッカケに繋がるとは思えない。


「さっきから話が見えないんだが……」


 そんな俺の言葉など関係ないと言わんばかりに続ける。


「理解に時間を要する小説や映画の市場は縮小していき、代わりにソーシャルメディアが爆発的に流行りました。人々は、物語の背景やテーマをそこまで求めなくなったのでしょう。そして、誰も彼もが『物語の消費者』からインスタントな表現の『創作者』になっていったのです」


 いつまでも続く一方的な話に思わずツッコミを入れた。


「そんなん知ってるよ」


 コールドスリープ前に俺がいたのはその時代だったからな。

 なんなら、俺は小説を創作していたわ。

 ペンネームまで作って、投稿サイトにアップしていたよ。


 そんでもって、投稿した作品はタイトルもあらすじも微妙な上、世界観も理解されにくいものだったから、ポイントは二桁止まり。

 で、ブクマなんて一桁だった。

 でも、そんな俺の作品に面白いって感想くれた人もいたんだよ。

 だから、小説界隈はもう終わってると言われてたけど、それでもどうしても物語が好きで書いていた。

 出版不況で小説を読む人間が減っていくのを体感してたし、同じ頃にショート動画がめちゃめちゃ流行っていたのも知っていた。


 ロボットはそんな感傷に浸っている俺に気づきもしないで続ける。


「さらに時代は進み、AIが個人のオーダーに基づいて即座に物語を生成するようになりました」

「ぐっ……」


 薄々わかってはいたが、やはりその時代が来てしまったのか。

 それならせめて、俺が応援していた作家さんや漫画家さんたちがいなくなった後の世界であって欲しい。


「そして、人々は自分好みの『オーダーメイドストーリー』を簡単に手に入れられるようになりました。それに伴い、共感や議論を生む『共有される物語』が無くなっていきました」


 神作を見てSNSに感想書いたり、他の人の投稿にいいねを押すことも無くなったということか?


「AIが物語を生成するのが一般的になると、今度は『物語を楽しむ』という行為が瞬間的な娯楽に変化します」


 ん?


「人々は物語を選ぶ時間すら惜しみ、AIに『自分にとって最高の瞬間』を届けさせるようになっていきました」


 どう言うことだ?

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