未来の一人に
「ちわーっす。郵便でーす!」
初手の郵便は、何だか久しぶりな気がした。
基地内のシスターズは全員が怯えている。いやアヤナ隊長やフレイヤ特務少尉もだ。ロウからは郵便(速達でもなく普通便)で、よく爆発物などの危険物が送られてくることが多かったため……と言うか、まともなモノが来たことはなかったはず。
そこを、普段は対応に当たるアグゥ・グランドレベル二等兵は。今回はにこにこの笑顔のままで動かない。
全員があぐを注目するが。それでもあぐはにこにこの笑顔で動かない。
そこに。あぐではない他の女性の、ふにゃっとした声が上がった。
「んー。それじゃあ私が対応するよー」
彼女は、とてとて小走りで郵便屋に近づいて。
「ちょりーっす」
と挨拶をした。
「どもーっす」
「うぃーっす」
「ここにサインをお願いしまーっす」
「ちょりーっす」
「あざーっす」
と、彼女は郵便屋さんから宝箱を受け取り、また小走りでアヤナ隊長のもとへ走ってきた。
彼女はその宝箱を見ながら、言う。
「えっと。送り主は。おお『付与研のロウ』ちゃんだな。あの子、ちょっと……というかかなり独創的だけど。伸びしろ、めっちゃあるよ」
「そ、そうですか……」
「じゃあ、はい。アヤナちゃん」
「あ、ありがとうございます、 ア ス リ ー 先 生 ……」
その場のシスターズの全員(あぐ以外)が、本気でこう思ったと言う。
「「「(あの人、まだいたんだ……!)」」」
と言うかもともと多くの隊員は『あの人誰だろう?』くらいの認識である。
(そもそもアヤナ側はアスリー先生を名指しで呼んだわけではない。アスリーの弟子が、面倒がって勝手にアスリー先生に代役を頼んだ……らしい、というだけで)
ともあれ。例によって宝箱はコジ兵長によってチェックされるが……例によって彼女やその宝箱の周囲にはぽっかりとスペースが出来てくる。
不思議そうにキョロキョロしているのはアスリーだけだ。無理もない。彼女は宝箱の惨劇を一度たりとて味わったことはないのだ。
宝箱を鑑定していたコジ兵長は、言った。
「大丈夫そうです、アヤナ隊長。宝箱そのものには罠はありません」
アスリーは、呑気な感じで言った。
「軍事機密とかならともかく。普通便でさー。爆発するようなもの、誰も送ってこないでしょ」
アヤナはぶんぶん首を振る。
「先生、それが有り得るんです! 中身が自爆する剣だったりとか! その時は宝箱も、ガワが自爆するってニュアンスで伝えてきたこともあったし!」
「そっ、そうなんだ。大変だったね……」
同情の言葉を言っておいて、なんだけど。アスリーは全く事情が飲み込めなかったので、孫弟子に対してわりと口だけの同情だった。
しかし。そこにアヤナの部下の(手慣れた?)行動に、かなりビビることになる。
「ちぇすとーっ!!」
ルイが宝箱の側面を蹴り潰したのだ。側面はぐちゃぐちゃになる。
「あっ、アヤナちゃん! 今の何!?」
「はい先生。私も詳しくはないんですが。宝箱自体に罠がないと確認されると、宝箱は蹴り潰されることも多いらしく」
「!?」
「ローカルルールみたいです」
そこでコジ兵長はゆっくり宝箱のフタを開け……息をついた。
「しゃ、喋りませんね。今回の宝箱……」
コジの言葉に。アスリーだけが、ぶっ飛ぶ。
「喋るの!?」
「はい。いつも割と」
「いつも喋るの!?」
「と言っても音声ガイダンスですし、時々フェイク仕掛けてくるだけですから」
「フェイク!?」
ぜえぜえと呼吸を整えるアスリー。アヤナもその場を少し収めてる。
「世の中って、やべーモノがいっぱいなんだなぁ」
「いえ先生。そこまで多くはないかと。ロウが関わると一気にヤベー感じになりますが」
アスリーとアヤナが話し合っていると、コジが宝箱の中を指差した。
「アヤナ隊長。今回は剣とかの武器じゃないみたいです」
「そうなの?」
「日記……? 辞書……ですかね。鑑定してみますね。アヤナ隊長は先に、同封されていたこの手紙を」
「うん」
アヤナはその手紙を開いた。
フレイヤ特務少尉と、アスリーも覗き込んでいる。
『アヤナ様。付与研のロウです。今回は私たちで開発したものではなく、とある魔導書をそちらに郵送します』
アヤナとアスリーは顔を見合わせる。
「魔導書?」
「ん? なんで付与研が魔導書?」
アヤナは軽く頷き、続きを進めた。
『この魔導書は魔法学院に認められた、確かな魔導書です。これは私やジャン先輩は分野が違うので、基本はノータッチです。チェックだけしました。珍しい……新鮮で斬新なアプローチの「呪文」のようです。威力や速度、精度や安定性などもよくわからないらしいので、この魔導書に書かれている文言を使って「呪文」を唱えていただきたく』
アヤナは呟く。
「なんだかウチのとこって、すっかりテスト部隊ね」
「仕方ないです。まだ『部隊』として計算できませんから」
そこで、その魔導書を鑑定していたコジ兵長が言う。
「アヤナ隊長。この魔導書は『未来の自分へ』とタイトルがついてます」
「おぉ。なんだかポジティブ」
「あとレオン王国語とユニバーサル言語だけでなく、色々な外国語でも補足されてるみたいです」
「ふーん。なかなか小粋な魔導書ね」
その時、アスリーが軽く首をひねったが。アヤナはよくわからないので手紙の先を続けた。
『この魔導書は。原本一冊。複写が三冊の、合計四冊が存在しています。いえ、存在していた……と書いたほうが正しいでしょうか。魔法学院の図書館で貸出されていた一冊が、先日、消失したようです』
周囲のシスターズらが、少しザワついた。
もっとも、周りの誰かと合わせて適当にザワついている人の方が多いだろうけども。
しかし魔導書の喪失。これはなかなか問題だということは、アヤナたちにはわかった。何故なら『流通してる、一般的な』魔導書は複製も多く、それどころか教育機関で教えられ個人のノートに書かれたり、暗記している人も多い。要するに普通の呪文の場合は『原本』などどうでもいいのだ。
なので魔導書自体に『原本』があり、その写しが少しあり、それを把握していたにも関わらず……それが消失した。不穏な響きだった。
恐る恐るアヤナは手紙の先を読む。
『なんだかジャン先輩は、この魔導書の写しを読むと身悶えてました』
「身悶える!?」
あのジャンが……!? そんなに危険な魔法、そして呪文なのだろうか。
『ジャン先輩いわく。この魔導書はアヤナ隊の基地で保管しておけば、盗まれたり処分されたりはしない……だそうです。私にはよくわかりませんけど。やたら自信満々でした』
「分野が違うとは言え、あのジャンのお墨付きなのね……」
アヤナは最後の一文を読む。
『なのでシスターズのほうで管理・運用を願います。かしこいね』
アヤナとフレイヤ、アスリー、コジ兵長などは、その文末を見て顔を覆った。あぐはにこにこの笑顔のまま。
「うぇーい……?」
「うぇーい……?」
唯一ルイだけが、不思議そうにしている。
「え? なんかおかしいですか? これロウさん、私達のこと褒めてくれてますよね?」
それに対しアスリーは毒舌だった。
「ドラフト1位でコレかよ」
アヤナは少し顔を伏せながら、言った。
「いえ、先生。ルイ二等兵はちょっとアレなだけで。そう、ほんの少しアレなだけなんです。ほんの少しだけ。でも総合能力は第一期生のトップレベルですから」
うっかり、自分のトコの人材不足を露呈させてしまったアヤナだ。
フレイヤ特務少尉は軽く口を開く。
「ともあれアヤナ隊長。少しこの呪文を試してみましょう。『未来の自分へ』です」
「そうね。アスリー先生もお願いします。あとシスターズで魔力が高い者は近い位置でバックアップとフォローを。水準以下のメンバーも必ず見ておくように」
シスターズらがビシッと敬礼した。彼女らは敬礼はできる。いや、むしろ敬礼しかできない隊員もいるほどだ。
アヤナ隊長は言う。
「ではルイ・ビニール二等兵。魔力のある貴方が魔導書を読んで。私達が続けて詠唱します」
「はっ、アヤナ隊長。光栄です!」
ルイは魔導書『未来の自分へ』を読み始めた。
「『包丁とか鋭利なナイフを手にし、危険な感覚研ぎ澄まされて。ククク……血の匂いがするぜ」って呟いたら、師匠にぶん殴られた そんな悲しいあの夏の日』 」
ルイに続いて、周囲の皆が同じ呪文を詠唱する。
ルイは続けた。
「知らなかったんだ。と言うかそんなの知り尽くしてる男は逆に怖いぜ。学校で教えてくれないし。もしそんなん教わっても「ああ、そう」ぐらいにしか思わない。それが男と女。互いに理解し得ない、そんな夏の日」
同じように皆も詠唱してから。
そこでフレイヤ特務少尉はボソッと呟いた。
「なんか『夏の日』って単語が頭に残りますね、この呪文」
そしてアスリーは、身体をプルプルさせている。
アヤナは軽くアスリーの方を見た。
「……アスリー先生? どうかしましたか?」
「いえ、何でもないよアヤナちゃん」
「ふーん……。じゃあルイ二等兵、続けて」
ルイは肯いて、呪文を詠唱する。
「Oh.我が世界よ。炎が魂を燃やし尽くす時、秘めたる力は開放される。秘めたる力……凄いやつ。いや秘めたる力……常闇の。寝る前の。違う。秘めたる力……きっと何かを秘めてるだろう。多分。一般人には感知できない、それが秘めたる力。秘めたる……夏の日。
愛と情熱。それが世界を創造し、なんか秘めて……。月と霧とその他もろもろ。あと常闇とか寝る前の。あとなんか……夏の日とか。
Oh.風が風がとてもとても吹いてるし。Oh.白球を追ったあの夏(県大会ベスト8)」
フレイヤが、ポツッと呟いた。
「やたら『秘めたる力』が好きな感じですね……」
ルイは続ける。
「『……ってかこの我が暗黒の聖遺物。捨てるのは 燃えるゴミなのか燃えないゴミなのか。おお我が師よ。私にこの闇の書物の処分方を教えて下さい。捨てるんで』」
全員、静まっていた。
一瞬の間を置いて、ルイが興奮し始めた。
「カッコイイ! カッコイイですよこの呪文! 暗黒の聖遺物だそうです! すっげー! かっけー! この人のビキニパンツにカネを捻じ込みたいです!」
アヤナ隊長はこっそり呟く。
「……そう、かなぁ? なんだか最後のほう飽きてったぽいし。その上、燃えるゴミと燃えないゴミで迷ってたみたいだし」
「じゃあ萌えないゴミとか!」
コジが、軽く手を上げる。
「るいちゃ。世の中の大半のゴミは萌えないんじゃないかと」
そして一方のアスリー。彼女は身悶えていた。
アヤナ隊長は小首を傾げる。
「どうしました、先生?」
「いえ、何でもない。何でもないよ?」
「ふーん。じゃあアスリー先生、この呪文の有用性をテストしていただけませんか?」
「え」
「この中では当然、アスリー先生が最も魔法に精通していらっしゃるので」
アスリーはぶんぶん首を振った。
「そんなこと……違うですよ?」
「はい?」
「いやほら私だって専門外だし」
アヤナは軽く肯いた。
「そうですか。じゃあコレ……『未来の自分へ』の魔導書。ウチの師匠に見せてみようかしら」
「えああああ!?」
「どうしました先生?」
「いや、あの弟子はこういうことも嫌がるかなーって」
「そうですか? 彼は雑食と言うか、手当たり次第に知識を吸収しようとしますけど。呪文が新型のアプローチなら、なおさら」
「いやいやいや。アイツ今、何かの実験で忙しいみたいだし」
「まあ、先生がそう言うなら……」
「そうだね、そうしよう?」
「はい。ただこの魔導書。一つ気になることが」
「なにアヤナちゃん?」
「これ、原本から魔法で『転写』された写しのようですが。『擦れ・濃淡』等のブレも大きく、あまり正確に再現できてないと思います。私より低レベル、と言うか……」
「そ、そうなん?」
「印刷系ではない専門外の人がやったとか、専門分野の人でもかなり片手間にやったとか、そんな気がします。これじゃ誰が書いたとかの筆跡とかもわかりませんし」
「いっ、いいじゃんアヤナちゃん? 存在はしてて、読めるんだから!」
「まあそうですね。じゃあ当面のとこ、ウチで保管しておきましょう。ジャンはアヤナ隊で保管したほうがいいって言ってたみたいだし」
「そうだよアヤナちゃん! そうするべき!」
「そうですか……まあいいわ。じゃあアグゥ・グランドレベル二等兵。この『未来の自分へ』の魔導書。倉庫にしまってきてちょうだい」
あぐはぴょんぴょんした。
「わかりましたー」
「後で少し調べるかもしれないから、目立つとこにしまっておいてね」
「りょうかいですー」
あぐは『るんたったー』と鼻歌を歌いながら、倉庫に軽く走っていって。
倉庫内。キョロキョロと、幾つかある棚を見ていって……。
一番目立たないところの、一番目立たないところにしまった。
これにより、今後。アヤナ本人やシスターズらは興味がなくなって、ほとんど誰も『未来の自分へ』の魔導書は手に取られることがなくなったが。
倉庫にしまう当時。
あぐはこう思ったらしい。
「あれは、明らかに『セガール』さんの筆跡で、黒歴史ですー」
#以前、ルイから教わった『モザイク消し』のやり方(薄眼して目をパチパチ)したら、筆跡が割とわかったらしい。
#ちなみに『セガール』呼びをするのは、あぐだけである。
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他でも少し貼ってます
「アヤナ隊長」のイメージ。ここのアヤナが一番イメージが近いでしょうか
アヤナ隊長ならコレができるかも…(できません)
私が死ぬまでには、このジャンル(上セーラー服で下紐パン)を確立させたいです
ストライクウィッチーズ(?)とかもありましたし
なんか貼ると、書くのがそっちに寄ってしまうので、次回からほとんど貼らないはずです。
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「iN2X」というところのAI生成ソフト・アプリにて作成した画像です
「iN2X利用規約(第5条第2項)」を読んだけど、他で使うなとは書いてない(第三者に被害を与えるとかはNG)ので、他で使えるの?って質問したら「書いてある通りです、明確な回答せずにごめん」みたいな軽いノリで来たので、「商業使用しない」「第三者を傷つけない」「削除要請などがあればすぐやる」と言って、貼ってみました。
(なろう→「みてみん」というサイトからOK。カクヨムは画像機能自体ない)