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ポケットの中の予算

 ルイがどっか行ってからも、基地でアスリーの言葉は続く。

「ところでアヤナちゃん。私『魔法少女の仕事』やったんだけどさ」

「あぁ……はい」

「学校通してなくて、ちょっとアレなやつなんだけれども」

「そういうのは私は詳しくはないので……ねえ、みんな?」

 アヤナは隊員たちを見るが、シスターズらは皆が微妙な顔。そもそもそんなの、誰も意味がわからない。


 あぐとコジが囁いた。

「コジしゃコジしゃ、『魔法少女の仕事』って何ですかー?」

「私が知るわけないでしょあぐちゃ。魔法関係のことみたいだから、学院の何かじゃないの?」

「そうですかー」

 あぐはいつもの笑顔(平常運転)。


 アヤナが何度か肯いた。

「まあ学校通してない『魔法少女の仕事』がどういうものかは詳しくは知らないですけども……アスリー先生は演技うまいですから、大丈夫な気はしますね」

「ふっふーん?」

「もう達川光男レベル」

「いやー、照れちゃうなー」


(ヤベー、魔法使いって人種ヤベー)って感じで、シスターズは挙動不審。


 ただフレイヤだけ「(隊長って割と野球選手の名前出しますね……)」とか思ってた。

 アスリーは頬をかいてから言う「達川さんって、なんかさ。ちょっとアレな感じで、アレよ。古今東西、時代問わず日本レギュラー組むと、ノリで時々キャッチャーで選ばれるじゃない?」

 アヤナですら意味がわからなっかたが、あぐはぴょんぴょん飛び跳ねた。

「はーい。それー、ショートに宇野が入っちゃうメンツですよねー」


 あぐはにこにこの笑顔のまま、ぶんぶん手を降ってた。だがアヤナですら、今になってちょっとわからない話題だった。

 アヤナは気を取り直して言う。

「ま。それはともかく。アスリー先生は何をしにここにいらっしゃったんです? 私からは、ウチの師匠を呼ぶよう手配したつもりだったんですが」

 アスリーは満面の笑顔だ。

「実はさー、ウチの弟子。こんな女だらけのトコは肩身が狭いとかドキドキするとか行って、来たくないみたいでさー」

「はぁ。まー確かにこの女の園の中に、男一人だと肩身狭いかも」

 確かにシスターズは女だらけだ(当たり前)。『中身』はともかく、ガワはいい感じの人も多い。

 アスリーは何度も肯いた。

「で。それで私が変わりに何か教えようと思ったわけ」


 アスリーが教えるという現実……


 彼女はあの人を弟子に取った瞬間に、彼に『もうお前に教えることは何も無い……!』と言ったと、そんな伝説が残っている。

 『じゃあそもそも弟子に取らなきゃいいじゃん……』とか誰もが思ったようだが、しかしそれでアスリーたちは楽しく社会的に生きているようなので、このアスリーも色々と凄い人とも言える(らしい)のだが……。

 ちなみに彼女は何かで逮捕されたことが何度かある模様(不起訴らしい)


 アヤナは恐る恐る言った。

「……それでアスリー先生。何を教えてくだされるんで? こっちは今ドラフト一位 (ルイ)が抜けちゃって(カミーユに殴られて)ますが」

 アスリーはコクコク肯いた。

「ま。ウチの弟子もさ。そっちのアヤナちゃんに何かやらせて上げれば、少しは装備や訓練状況もマシになるかな、って考えてたらしいの」

「おお! すっごいね、さすが私のお師匠様! 色々考えてくれてるんだ!」

 アヤナは今度はいつもの嘘泣きではなく、あまりにの嬉しさにポロッと涙をこぼした。……だが周囲からは『隊長、いつもの嘘泣きでしょ』程度にしか評価されなかったらしい。


 アヤナはグッと拳を握った。

「それでアスリー先生! 彼はどんなことを教えるつもりだったんです?」

「ふむ。軽いパンフとメモに書いてあるんだが。『優勢火力ドクトリン』とある」

 アヤナは不思議そうに尋ねる。

「それはどういうものなんです? 先生」

 アスリーは手を左右に振る。

「いや、全くわからない」


「えぇ……教える人がそれなんですか?」

「だって私、魔法しか使えないもん。そんな軍人の戦術聞かされても」

「じゃあウチの師匠は、何でそんなこと知ってるんですか?」

「さぁ……。アイツ昔からそんな感じだったけど。最近はよくレーンとかディアたちと話してたからじゃないかなぁ?」


 アヤナは何度か肯いた。

「んー。本当に大丈夫かなぁ……。ま、いいわ。じゃあフレイヤ、説明してみてくれないかしら? 軍隊の叩き上げのあなたなら、きっと」


 フレイヤは敬礼をした。特務少尉……一応はこの中で階級が最も高い。かつ彼女は実践経験も豊富である。

「はい。それでは優先火力ドクトリン。これは大雑把に言うと数の利を作り上げることです。飽和攻撃とまではいわないまでも、一人に対して五人が攻撃するようなものですね。常に相手よりも多い数で攻めます。もしくは攻めようと、設計をすることです」

 アヤナとアスリー先生は興奮してぴょんぴょん飛び跳ねていた。

「すっ。すごい作戦(?)ね!」

「ウチの弟子のアイツ、何気に凄い作戦(?)知ってるよな!」


 アスリーは次のパンフを取り出した。

「じゃ、次行こうか。次は『浸透戦術』。これは?」

 アスリーは自分を指さしてから、今度はフレイヤのほうを向いた。

 彼女はまたも敬礼をする。

「色々解釈ややり方はありますが、浸透戦術とは敵集団の脆弱な所を探し出し、あるいは攻撃魔法などを使って脆くさせ、そこを精鋭が突破。そして敵集団の背後にある本隊や、基地や補給線などを叩く……という意味合いが強いですかね」

 アヤナは何度か肯いていた。

「そっかそっか。ウチの師匠が魔法ブチ込んで、レーンが突撃していくスタイルが似てる。そっか、アレはここから来てるのね」

 アスリーは頬を掻く。

「なるほど。そりゃ、こえーわ。前線が突破されると基本は後ろの対応ってショボくなるし」


 アヤナが次の文面を見る。

「じゃあ次ね。フレイヤ?」

 フレイヤはパンフとメモを読んでから言う。

「これは……『クロスファイヤ』ですね」

「へぇ」

「自軍の、二人以上が攻撃を交差させて集中させ、莫大な攻撃力を得ます。連射とか集中攻撃とはまた違う考え方ですが、相手を逃げにくくするのも凄いところですかね。防御的にも戦場離脱にも使えます」

 アヤナは拳を握った。

「おっ! そう、そうだ。これもウチの師匠とモニカちゃんがやってたみたい! モニカちゃんが足を引っ張った形になっちゃったみたいだっただけど」

 アスリはーは少し眉を潜める。

「あのモニカちゃんが足を引っ張るって……モニカでなくて、組んだウチの弟子のほうがコントロールできてなくて悪い気がするが。優秀な魔法使いを使い潰しちゃうような」

「ですねー……。ま、咄嗟にやるしかないってことで計画したらしいですが。それに、ちゃんと守って連れ返してましたし」

「ふーん」

「でもどれもこれも、凄い戦い方なのね!?」

 アスリーは我が愛弟子の書面に嬉しがってぴょんぴょんした。

 アヤナも同時にぴょんぴょんしている。


 フレイヤは少し俯いて……それから、言った。

「あの。隊長。それからアスリー先生?」

「何?」

「その。そもそもなんですが。優先火力ドクトリン、って、我々には必要ないかもしれません……」

「ファッ!?」

「そもそもが『アリス・チルドレン』は防御主体の戦いであり、防御目標を守ることが一番の使命。なのでその流れを組む『アヤナ・シスターズ』も、攻撃を仕掛ける必要すらないかと。もちろん戦いはあるので、チルドレンの『護衛の護衛』をしなくてればりませんが。やはり優先順位をつけると防御でしょう」

「……もしかして。考え方が完全に逆?」

「はい。そうですね。それに狭い地形や空間を使って防御すると言う意味では、チルドレンは相手の数の利を潰すように戦うわけで……」


 アヤナとアスリーは、目を見て向かい合った。

「じゃあ、コレだめじゃん!?」

「そもそもが、シスターズにはこの戦いの戦術は必要ないってこと!?」


 フレイヤも少し肯いた。

「それと先生、そしてアヤナ隊長……」

「何?」

「あと、この『浸透戦術』。これそのものは良い戦闘スタイルなのですが」

「ふんふん」

 フレイヤは申し訳なさそうに呟いた。

「これもやはり、そもそもウチの想定してる戦いとは不向きかと」


「え!?!?」

「そうなの!?」


「はい。これはまず強力な魔法や弓で、相手の脆いところを叩きます。しかし我らシスターズにはそんなことができる人がいるわけもなく。仮にそんな魔法が使えるとしても、また単騎で突っ込めるほどの実力者もいません。なので、これもダメですね……」


「でも、でもさ。『浸透戦術』は一番良い感じでは?」

 フレイヤは言う。

「そもそもシスターズは防衛戦術が多いのですが、そこを突っ込んで周囲を攻撃しても……。この戦術って、陣を構えての戦いの時の考えのことが多いんです。あとは相手の本隊が逃げているとか、いないとか、通信兵や食料庫を狙ったり……。そういうのが前提なので」


 アヤナ隊長とアスリーは、『ぐぬぬ……』って顔をしながら、言った。


 まだだ……まだ慌てる時間じゃない。アスリーは言った。

「『クロスファイヤ』ってのはどうかな? かなりメンバーを散らばせて、色んな敵に十字をかけて砲撃するの! モニカもやってたらしいし!」

 フレイヤは少し顔を伏せた。

「はい。それは技術と練度があれば可能です」

「おぉ!」

「ただウチの子たちは今のところ、初級の魔法を使うことが、せいぜい『まあまあ』『なんとか』のレベルなので……要するに火力も技術も連携も練度も足りていません」


 ガックリと、アヤナは地面に跪いた。

 同様にアスリー先生も地面に膝を付けた。


「だめだめですやん私の師匠……。もうちょっと頑張ってほしかった……」

「そうだよなぁ。私が昔からアイツに『人の嫌がることを進んでやりなさい』って言ってしまったのが原因かも……」

 コジは、こっそり思ってしまった。

「(人の嫌がること……?)」


 フレイヤが言う。

「あっと。手紙に続きがありますね。えっと。それで、ですよ。あっ!? 隊長とアスリー先生」


「うん?」

「えー? もう、ふにゃふにゃやんかー!」


 フレイヤは、手紙の最後を読んで……不思議そうに言った。


「こう書いてあります。『この手紙やパンフを全部。アヤナ隊より規模が高く、そして信頼できる部隊長に持ち込んで下さい。アヤナゆかりの貴族でもいいです。但し持ち込む人員には、必ずアヤナ本人を含めて、です。あとは俺の名前を使っても構わないです』」


 アヤナとアスリーは首をかしげた。

 よくわからないが『やれ』と言われてる。しかも具体的な書き方だ。

「じゃあこれ……どっかに持ち込んでみる?」

 フレイヤも肯いている。

「そうですね。コレがもともと『あの人』の手紙なら、何かありそうですし」


 ……。


 ……。


 ……。


 ……。


 手近な部隊にその手紙を持ち込んだら。

「おお! そうそう、ありましたね『アヤナ・シスターズ』。あの精鋭部隊『アリス・チルドレン』を補佐する、下部組織! そうか、発足したてで、まだ武器その他が足りないと聞いてました。では私のところから装備を幾分回しましょう。中古や予備ばかりで申し訳ありませんが」

 アヤナは『おぉ……』と呟いた。

 そこの長官は聞いてくる。

「アヤナ姫。お師匠様はお元気ですか?」

「えーっと、はい」

「私どもは、彼には随分と助けられたことがあるんです。それとまた今度、是非とも部下たちに稽古をつけていただきたく」


「はい。えっと、多分……大丈夫かと。時間が空いている時なら」

 そこの長官は言う。

「しかし『優先火力ドクトリン』、『浸透戦術』、『クロスファイヤ』。これらまで手を出して勉強しているなんて素晴らしい! 私の隊の人間にも聞かせてやらせたいです! はっはっは。いや、もともと確かにシスターズの単独戦闘力は高くはないでしょう。本職は防御的な戦いということも理解しています。だがこのような戦いの思想、そして発想、さらには研究があれば、恐らく防御側のチルドレンも心強いはずです! ともにレオン王国を支えましょう!」

「あっ、ありがとうございます!」


 その直後。アヤナは信じられないことを聞いた。


「では予算ですが。とりあえず私達のほうで上申しておきますね。どうもシスターズの動きが遅いらしく……ああいえ、これは発足したてのことです。慣れるまではそんなものですよ。経理のスタッフも足りないでしょうし。では当面の予算は私の隊のポケットから持ってってください。どのみち正式に計算させますから。もっとも。シスターズがもっと大きな存在になれば、一目置かれ、更に大きな予算が出るでしょうけども」



 ……。


 ……。


 アヤナは。

 外に出て。

 一人になると。



 涙を流しながら吠えた(号泣)。








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