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ああ……アヤナ。痴女が見える

「この女子寮に痴女が出る?」

「はいアヤナ隊長」

 隊長室で。アヤナはフレイヤの言葉を反芻し……。

「ま、私とフレイヤ以外は全員が痴女とも言えるけど」

 #つい、うっかり本音が出た。


 アヤナは少し考え込む。

「んー。でもさ。そもそもウチの寮……と言うか基地そのものが全員女だからね。ほら風紀を考えて、みたいな理由だったはず。だからヘンなの含めてココは全員女だけなのではないかしら」

 フレイヤは口元に手をやった、

「しかし『カシナートの剣』の時、唐突にコロンボ警部がやってきて宝箱を連行(?)していきませんでしたっけ?」


「ああ、そっか。でもまあアレはイレギュラーだったからさ。ほらコロンボ警部って本業はK-1の人だったでしょ? だから門番とかに配属されてるのかと思って」

「え。本業も何も……え。K-1?」

「あら。そう言えば彼って、もともとプロ野球選手だったっけ? ジャイアンツのピッチャーだったかしら」

 フレイヤは少し顔を伏せながら言った。

「……アヤナ隊長。ピーター・フォークとピーター・アーツを間違えてます」

「あっ……」

「ついでにピーター・アーツは定岡正二とは何も関係がありません……」

「……」


 #今回も読み手を選ぶモノが(既に)出来上がっています。



 アヤナはコホンと咳払いをして。

「それで痴女って……どういうモノなの?」

「私もまだ詳しくは聞いてないんですが。痴漢と同じように相手を触ったり、何か露出するのではないかと」

 アヤナはそれを聞いて少し考え込むと、言った。

「触る、かぁ……。ねえ。痴漢でも痴女でもいいけどさ。誰かの胸を触って揉む時。『リンパがー、リンパがー』って言っておけば、ワンチャン医療行為だと思われて無罪放免される気がしない?」

「えぇ……。私にはちょっとわかりかねます……」

 アヤナ隊長(良いトコのお姫様にして王国騎士)とて、十分に痴女の素養はありそうな気がする。


 隊長室でフレイヤとそんなことを話していると、隊長室のドアがノックされた。アヤナは声を出す。

「誰かしら? 階級と姓名を」

「はっ。コジ・イツカ兵長であります」

「コジ兵長、入りなさい」

 彼女は書類の束を持ってきていた。

 まだアヤナ隊には正式な武具は降りてきていないが、警察の払い下げ、そして他の部隊の払い下げなどで少し装備が潤った。

 アヤナの師匠(彼は何故か自分の名前をセザールと言い張っている)や、ジャンも色々やってくれたのだと思う。


 一方のコジ兵長。アヤナに書類を渡して説明をして……敬礼をしてから部屋から出ようとすると。アヤナ隊長から声がかかった。

「コジ兵長。貴方に頼みがあるのだけど」

「はい。なんでしょう?」

「なんか最近、『痴女』が出るらしいの。この女性宿舎に」

 隊長のあまりにざっくりした説明に、フレイヤは詳しく話す。

 コジは肯いたが……

「えぇと、私にどうしろと……?」

「調べて欲しいのよ。シスターズの中で警察から出向してきて、かつ捜査の技術を持っているのがコジ兵長、貴方だけだから」

「(ヤだなぁ……。こういうのって捜査側もヤなんだけど、今回は性犯罪だし)」


 *


 コジ・イツカ兵長は特別対策室(一部屋借りた)を立ち上げ、助手として深い仲のアグゥ・グランドレベル二等兵と、ルイ・ビニール二等兵に協力を頼んだ。

 ……既にこの時点でダメダメっぽい気がするけれども。

 一応、物珍しさにまあまあの数のシスターズたちが集まってくる。


 あぐは声を上げる。

「痴女と言えばNTRではないでしょうかー?」

 ルイはノリノリだ。

「おぉ、あぐちゃ。なかなか良い着眼点!」

「プラトニックな関係のー、男子の家の郵便受けにー。ある日ふとビデオテープが届くんですよねー」

「おお差出人不明のビデオテープ! あぐちゃ、それドキドキするわね!」

 コジ兵長は『ビデオテープって何?』とか思ってたが、恐らく軍人特有の専門用語だろうと思い黙っていた。

 シスターズの全員も『今どきテープって何さ?』と思っていたが、そちらも割とどうでもいいことなのでここでは割愛しておく。


 ルイが片手を上げる。

「でもでも。あぐちゃ、コジしゃ。……そのビデオテープって、VHSかな? ベータかな?」

 それにはあぐが満面の笑顔で答える。



「無修正モノを受け渡すなら、VHSなのでは」



「そっか。無修正モノを受け渡したからVHSは勝ったとも言えるし!」

 なんだかあぐとルイでキャッキャしてる。コジ兵長はよくわからないまま『VHS陣営に謝った方がいいかも』とか思ったが、そもそもそんな知識がないので黙っていた。



 皆で話していたからであろうか、周囲のシスターズらがまた増えた。

 そこでコジ・イツカは声を出す。

「ところで。そもそもが痴女と言われても、どこからどこまでが基準かわかりにくいですよね。面倒なのでテキトーなのをしょっぴいてアヤナ隊長へ引き渡しましょう」

 『怖ええよ、この童顔巨乳』とか、周囲のシスターズは思っていた。妙なヤツに権力を持たせるとヤバいことにしかならないものだ。

 ルイは手を挙げてコジに聞いていた。

「ねえコジしゃ。卑猥か、卑猥じゃないか、って。どうやって決まるの?」

「そうね、るいちゃ。ケースバイケースなんだけど……裁判所での判例が、なくはないよ」

「へぇ?」


「昔は幼女のあそこは卑猥じゃなく、成人女性のアンダーヘアーが卑猥だと……最 高 裁 で判決があったし」

 ルイは身体を震わせる。

「ぱっ、パイパンの場合は!? 卑猥なの!? 卑猥じゃないの!?」

「いや、るいちゃ。そこに驚かないでよ……」

 あぐが何だか頷きながら言う。


「それってー、裁判官の人たちがー、集まって話し合ったんですかねー?」


 あぐの言葉に、ルイとコジ、そして集まっている周囲のシスターズらは社会の『闇』を見てしまっていた。


 コジはちょっとぷんすか怒った。

「私から言っておいてなんですが。私達、一応は女ですよね!? なんかそういう話はアレです!」

 ルイは、おぉっと口元を覆った。

「ってか、確かに私達は女だよね。普段からそう意識が少なくて……」

 あぐはいつもの笑顔だ。

「はい、女ですー……戸籍上は」

 そしてコジはマジ泣きしている。

「せっかく、アリス隊の傘下アヤナ隊、そんな女の子憧れの恵まれた環境に来たのに! コレじゃ警察にいた時と同じじゃないですか!」

「(ひでーな、警察)」

 その場のシスターズ全員がそう思ったと言う。


 一方のルイ。少し考えて口を開いた。

「ねえねえ。痴女って言ってもさ、もし一対一で触られたらフレイヤ特務少尉やアヤナ隊長に報告するだろうし。やっぱり露出系じゃない?」

 コジはポンと手を打った。

「なるほど! じゃあ一番露出が多い時……お風呂の時ですかね。あのあたりのことを皆に聞いてみましょうか」

 コジ兵長は手を上げてから、ぽんぽんさせる。

「みなさーん。お風呂上がりとかで、裸でウロつく人なんかを見たことありませんかー?」

 シスターズらはザワついている。

「一応、みんな下着は着けてるわよね」

「流石に全裸はマズいし」

「ジャージ着てるコもいるけど、暑いから私もやっぱり下着ね」

「で、牛乳をグイッと」

「私はビールぅ!」

「ぅえーい!」

「ぅえーい!」


 役に立たない情報だけが入った。

 しかしザワついていたおかげで、さらに周囲のシスターズの数が多くなってきている。

「なになに? 何の話?」

「痴女が出るんだって。その捜査」

「痴女って言えば。深夜に全裸の痴女が徘徊してたって聞いたことあるよ」


 コジはその証言に、ビシッと人差し指を立てた。

「おお! 犯行時刻はお風呂上がりじゃなく、深夜なんですね!?」

「うん。他のシスターズが見たって話だよ」


 コジはコクコク肯いた。

「あぐちゃ、るいちゃ、犯行時刻が随分と狭まりましたね!」

 ルイはのんびりした感じで言う。

「そうね。でもまあ……こんな宿舎で深夜でウロついたところで何もないから、トイレとか行ってただけじゃないのかな?」


 コジは深く肯く。

「トイレなら、こう考えられます。多くの人がパジャマとかを着て、ベッドに入って、そして寝る。そこから起きて……でもトイレに行く時にわざわざパジャマを脱ぐはずはない。つまりもともとパジャマを着ていない人が怪しい、と」

 もっと多くのシスターズたちが集まってきては、ザワついた。

「みんな、どーしたのー?」

「痴女が出るんだって。コジ兵長が捜査してる」

「そっか、コジ兵長って警察からの出向だものね」

「痴女は寝る時にパジャマ着てないんだって」

「パジャマ?」


 多くのシスターズたちは、さらにザワついて……どんどん手を上げた。

「私、ちゃんとパジャマ着てるよー」

「私もー」

「って言うかアレ支給されてるでしょ?」

「ミリタリー・パジャマ。第何号とか名前ついてるやつ」

「ってかみんな着てるんじゃない? 配られてるんで、逆に着ないとおかしいし」

「もし着てなかったら、何かの時の突然の行動に対応できないからね」

「それこそ、痴漢が宿舎内に入ってきたりとかの時にさ」


 ルイは頭を掻いた。

「みんな偉いねー。私、着てないや」


 その場の全てのシスターズたちの視線が、ルイを射抜く。

「……。ルイちゃん。なんで? なんで着てないの?」

「え? だって邪魔だし。アメリカン的なベッドダイブってきもちーじゃん?」

「……本当に着てないの?」

「うん。あとタオルケットの肌触りの感触が好きでさー」

「……。ルイちゃん!!」

「何?」


「「痴女はお前かぁああぁあ!!」」


「ぇあぁああぁああ!?」

「痴女はパジャマを着てないって言われてたでしょ!?」

「ちょ、違っ、待って! 私だけじゃなく、同室のあぐちゃも着てない……!」


 全員のシスターズの視線が、今度はあぐを見る。あぐはこういう時、絶対に嘘はつかないと誰もが知っていた。

 あぐはいつもの笑顔で言った。

「私は着てますよー」


「ぇあああ!? ちょっ、待っ! 助けて、たすけてあぐちゃあああ!! コジしゃああああ!!」

 その場の全員のシスターズが、ルイを袋叩きにする、叩かれながら、なんとか逃げていくルイ。

 コジ兵長は顔を伏せて言った。


「あぐちゃ。イヤな事件だったね」

「そうですねー」

「ねえあぐちゃ。るいちゃって、寝る時は本当にいつもパジャマ着てないの?」

「はい、そうですー」

「ふーん。るいちゃはその状態で夜中にトイレとか行ったのかしら」

 あぐはフルフルと首を振った。

「そういう時はいつもジャージ着てますよー」

「え。じゃあ痴女って……?」

「結局、誰だったんでしょうかねー?」


 コジ兵長は、さっきルイが『同室のあぐも着てない』と言ったことを思い出した。

「……。ねえあぐちゃ。あぐちゃは寝る時、本当にパジャマ着てる?」


「着てますよー。パジャマじゃなくてユニフォームですけどー」

「ユニフォーム!?!?」



「俺たちゃ裸がユニフォーム、的なー」



「……あぐちゃ」

「コジしゃ。何ですかー?」

「あのさ。あぐちゃは全裸のまま、夜中にトイレとか行ったりしてないわよね?」

 あぐはいつもの笑顔のままだ。

「いやですねー。私、全裸のまま外に出たりなんかしませんよー? ファンタジーやメルヘンじゃないんだから」

「そ、そうよね……」



「ちゃんと靴下履いてますー」



 コジは空気を読んで黙っていることにした。

 だって、もう解決した事件だったし。



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