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ウェルキエル学院のセプテット  作者: 葉月エルナ
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第31話

「──今回の報告は以上だ」


 ウェルキエル帝国学院学院長室にて。セヴラールは事の顛末を学院長に報告していた。


 過去の因縁を清算するため、セヴラールとべレスが中間試験を利用した決闘を行っていたこと。べレスが試験内で不正を働いていたこと。そして大型召喚獣、ケルベロスの召喚について。


 すべてを聞き終えた学院長はため息を吐いて口を開いた。


「なるほど、ご苦労だったね。疲れているところ申し訳ないが、最後に一つだけ質問を。現在学校医の治療を受けているべレスくんの怪我について説明がなかったようだが?」

「……アイツの脇腹を刺したのは俺だ。あの時は、一刻も早くニーナの救出に向かいたかった。他に言いたいことがないならこれで失礼する」


 セヴラールは刹那の逡巡を経て事実とは異なる報告を行った。学院長はそれを怪訝そうな表情で聞いていたが、最終的には頷いてセヴラールに退室を促す。


「そうか、分かったよ。引き留めて悪かったね」

「いや、構わないさ」


 セヴラールは手にした報告書の束を学院長に差し出し、学院長室を後にした。直後、廊下の影が蠢き一人の少女がセヴラールの眼前に立ち塞がる。少女の藍色の瞳は困惑に揺れていた。


「……なぜ、本当のことを言わなかったのですか。べレス・ラシアイムは私が……」

「皆まで言うな。アイツを刺したのは俺だ。そういうことになったんだよ。お前は何もしていない。だから、何も背負わなくていい」


 ノエルの言葉を遮り、セヴラールは苦笑する。


「で、今日は何の用だ?」

「……我が主(マスター)の推薦状を受け取りに参りました」


 ノエルは明らかに納得していない様子だったが大人しく引き下がると本題を切り出した。


「あぁ、あれか。もちろん、用意してある。これでいいんだろう?」


 中間試験終了後、アルヴィスがセヴラールに請求した代償は自身の推薦状を書くというものだった。アルヴィスの希望進路である《研究所》に就職するには学院在学時に二名の教員から推薦状を貰わなくてはならない。だが、頻繁に暴力沙汰を起こすアルヴィスに自身の名で推薦状を書いてくれる教員はこの学院に一人も存在しなかった。そのため、今回アルヴィスに借りを作っているセヴラールが彼を推薦することになったのである。


「ありがとうございます。では、私はこれで……」

「あぁ、ちょっと待ってくれ。その前にもう一つ。お前に頼むようなことじゃないのは分かってるんだが、エリノラをあんまり責めないでやってくれ。ウチのスピカが気にしてたんだ。お前のご主人の逆鱗に触れちまったかもしれないってな」


 スピカの幼馴染みであるエリノラは試験前にアルヴィスと契約を結んでいた。スピカはそのことについてもセヴラールに相談していたのだ。セヴラールとしてはこれを機にスピカの悩みも解決しておいてやりたい。


「……私が主の意向に口出しするなど、到底許されることではありません。ですが、出来得る限りの努力はいたしましょう。あなたは、私を庇ってくださいましたから」

「悪いな、助かるよ」


 ノエルはセヴラールに一礼すると影の中へと姿を消した。その後ろ姿を見送り、セヴラールは医務室のある方角へと足を向ける。既にニーナの左目は完治し、視力も戻っているのだがユーフィアの怪我は深刻だった。


 幸い、学校医の異能によって一命は取り留めたものの一週間の入院が必要となるそうだ。中間試験終了から三日が経過した今も、ユーフィアは処置室で異能による治療を受けている。


 と、セヴラールは医務室に続く道中で見慣れた背中に声をかけた。


「お疲れ、ニーナ。お前もユーフィアのとこか?」

「ん、セヴ。お前もってことは、セヴもお見舞い?」

「あぁ、一応顔出しておこうと思ってな」

「そう、きっと喜ぶわよ。あの子、セヴには懐いてるみたいだから」


 ニーナはセヴラールの隣に並ぶと口を開いた。


「結局、万事解決って訳にはいかなかったわね」

「そうだな、でもお前が無事でよかったよ。もちろん、ユーフィアのことについては気の毒だが」


 セヴラールの言に一度頷き、ニーナは医務室の前で立ち止まる。


「……そういえば、色々あって、まだセヴにちゃんと言ってなかったわよね」

「ニーナ?」


 唐突に歩みを止めたニーナを訝しむように、セヴラールがその名を呼ぶ。ニーナは窓から差し込む夕日を背に微笑むとずっと言いたかった一言を口にした。


「セヴ、ただいま」

「……あぁ、おかえり。ニーナ」


 夕日を浴びて輝く少女の銀髪が目に眩しい。再び取り戻した日常の幸福を噛み締めながら二人は同時に医務室の扉を潜った。

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