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ウェルキエル学院のセプテット  作者: 葉月エルナ
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第30話

 解錠された大広間の扉から聞こえたその声に従うようにニーナの身体から力が抜ける。仰向けに倒れ込むニーナの右目に大広間へと投げ込まれた白い物体が映った。それが何者かの骨であると理解したニーナは、収束する大量のマナに思わず息を呑む。


 これまでとは桁違いのマナが蠢き、水銀で描かれたような魔方陣が大広間に浮かび上がる。そして。


「【死を運ぶ者(グリム・リーパー)】」


 ノイズ混じりに響く男の声がソレ(・・)の名を高らかに詠い上げた。大広間全体に突風が吹き荒れ、ケルベロスですら動きを止める。召喚が終わった魔方陣の中央に佇むのは、傷んだローブを身に纏う黒衣の人影。


 だがローブの下から覗くのは人と似通った構造の骸骨だった。骸骨に脚は存在せず今も宙に浮遊している。白骨の手には大鎌が握られ禍々しい殺気を放っていた。


 伝承に登場する死神のようなソレは手にした大鎌を振り上げるとケルベロスに向かって振り下ろす。同時にセヴラールは走り出していた。アルヴィスがアレを制御できるのはわずか十秒のみ。その隙にセヴラールはニーナを救出しなくてはならない。


 規格外のマナ密度に耐えられず気を失っているニーナを横抱きにし、セヴラールは大広間を駆け抜ける。直後、セヴラールの背後でケルベロスが最後の咆哮を上げて消滅した。だが獲物を粉砕したソレは次なる標的をセヴラールへと変更したらしい。


 アルヴィスからのマナ供給を絶たれた死神は自力で現界を保ちつつ大鎌を振り上げてセヴラールに追い縋る。咄嗟の判断でセヴラールがニーナを庇おうとしたその刹那、突如として間に割って入った小柄な少女が死神の大鎌を短剣で受け止めた。


「ノエル……!」

「私に構わず行ってください、早く!」


 普段の冷静さを失って声を荒らげるノエルに従い、セヴラールは開け放たれた大広間の扉を目掛けて再び駆け出す。その後ろ姿を、正確にはセヴラールの影を静かに見据えノエルはポツリと呟いた。


「【影に潜む者(ニュイ・オンブル)】」


 次の瞬間、ノエルの足元に魔方陣が出現し転移先に指定したセヴラールの影へとノエルの身体を転送する。セヴラールは大広間からの離脱に成功すると死神の鎌を振り払い扉を閉めた。


「……ノエル、無事か?」

「えぇ、なんとか」


 セヴラールの影に沈んだノエルは異能力を解除して地上に這い出ると頷いて首肯する。


「ご息女も、ご無事のようで何よりです」

「あぁ、お前たちのおかげだよ。ありがとな」

「……謝礼でしたら、私ではなく我が主(マスター)にお願いいたします」


 すっかり通常運転のノエルに苦笑すると、セヴラールは自身の腕の中で気を失ったままのニーナの髪を撫でた。左目を潰されている以外はニーナにも大きな怪我はない。セヴラールは天井を見上げると深く息を吐き出した。


「これで、終わったんだよな」

「はい」


 ノエルの返答を聞き、セヴラールはニーナの身体を抱き締める。ウェルキエル帝国学院全体を巻き込んだ激動の中間試験は、多大な犠牲の上にこうして幕引きを迎えたのだった。

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