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ウェルキエル学院のセプテット  作者: 葉月エルナ
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第13話

 ウェルキエル帝国学院入学式典から一ヶ月以上の日々が過ぎた。中間試験まで残り一週間を切る中、生徒たちは連日自主練習に励んでいる。ニーナとユーフィアは連携を磨きつつ交友関係の幅も広げていた。


「では、あなたたちは当日急造の二人一組(ツーマンセル)で試験に臨むつもりですの?」


 金髪のツインテールが特徴的な少女、スピカ・ヴァーゴは昼食をナイフで切り分けながら口を開く。入学直後の模擬戦ではユーフィアと一悶着あった少女だが、今では良き好敵手として互いを認め合っているらしい。スピカの正面に座ったニーナは一度頷いて首肯した。


「えぇ。私もユーフィアも戦闘は得意分野だし、素人が組むなら高度な連携が求められる三人一組(スリーマンセル)よりも二人一組(ツーマンセル)の方がいいでしょう? 流石に単独行動する度胸はないし」


 いつも注文しているスコーンを口に運びながら、ニーナは続いて青髪の少女に視線を向ける。


「リーヴィアはスピカと組むの?」

「……まぁね。一応、同室の仲だし」


 食べかけのオープンサンドから顔を上げ、リーヴィアが頷く。スピカとリーヴィアは入学式典の時から行動を共にしていることが多かった。学院入学前からの知り合いなのか、単に同室だから仲良くなっただけなのかはニーナにも分からない。


 関係性としてはややスピカの一方通行な気がしないでもないが、上手くやれているのであれば何よりだろう。


「あ、あの。お二人は当日の作戦など、ある程度決まっているのですか?」


 と、今まで聞き手に徹していたユーフィアが珍しく会話に参加してきた。入学当初こそ限られた人間としか交流を持たなかった彼女だが、ここ最近は自発的に周囲とコミュニケーションを取っている。他人との接触を避けられない学生生活を送る中で、ユーフィアもまた変わり始めていた。


「私とリーヴィアは給水スポットを中心に押さえることにしましたわ。やはり水は貴重な資源ですから」

「やっぱりそうですよね。実は、私とニーナさんも同じような作戦を考えていて……」


 スピカの回答にユーフィアも同意を示す。続いてニーナが口を開いた。


「セヴから仕入れた情報によると、当日設置される給水スポットは全部で五ケ所。その内の一ヵ所を私とユーフィアが、もう一ヵ所をスピカとリーヴィアで確保できれば最善なんだけど……」

「流石にそれは厳しいでしょ。他クラスの有力候補もかなり多いし」


 リーヴィアの私的な調査の結果、べレスの担当クラスは粒揃いであることが判明している。ニーナやユーフィアのような突出した戦闘能力の持ち主こそ少ないものの、全員が一定の戦力を保持しているのだ。


(逆にウチのクラスは優劣がはっきりしている分、成績上位者のみで勝ちにいくしかない……この二人と接点を持てたのは大きいわね)


「ところで……話は変わりますけれど。あなたたち、ラシアイム先生と何か因縁でもあるんですの?」


 次の瞬間、スピカの口から何気なく放たれたその一言に、ニーナは紅茶を噴き出しそうになった。


「……ど、どこでその情報を……?」


 軽く咳き込みながら、ニーナは半ば独り言のように呟く。一方のスピカは困惑した表情でリーヴィアの方を見た。


「どこで、と言われましても……」

「……アンタたち、一週間くらい前にここであの教師に絡まれてたでしょ。その時、決闘とか何とか聞こえたから、もしかしたらと思って」


 どうやらニーナが考えているよりも決闘の件は学院中に広く知れ渡っているらしい。あれだけ派手に言い争っていたのだから、何ら不思議ではないだろう。とはいえニーナとしては想定外の事態に頭を抱えたくなった。


「もし、私たちに力になれることがあれば遠慮なく言ってくださいませ。いつでも手を貸しますわ。せっかく知り合った学友とは良好な関係を築きたいですから」

「……ありがとう。でも、これは私たちの問題なの。だから二人は中間試験に集中して。気持ちだけ、ありがたく頂くわ」


 協力を買って出てくれるのは嬉しいが、そのせいで二人が脱落するようなことになれば本末転倒だ。クラス内でも上位に入る実力があるこの二人には、必ず生き残ってもらわなければならない。


「そうですか。そういうことなら、今は引きましょう。また必要な時にでも声をかけなさい」


 スピカはそれ以上深追いすることなく頷いた。そして近くの席に座っていた男子生徒二人組に視線を向ける。


「実は、私たちはあの二人とも協力関係にあるんですの。よろしければ紹介しますわ」


 スピカがそう言うと視線に気がついたのか、眼鏡をかけた男子生徒が振り返った。


「……何だ、スピカ。また同盟相手を増やしているのか?」


 見るからに気難しそうな少年だが、スピカは動じることなく言葉を続ける。


「味方は多い方がいいじゃないですの。ねぇ、あなたもそう思うでしょう? ライオネル」

「そーだな。俺としちゃ大歓迎だ。二人とも実力の方は折り紙付きだしよ」


 ライオネル・ベクルックスは入学当初からニーナとユーフィアに注目していた。既にニーナとは模擬戦終わりに労いの言葉を掛け合う仲でもある。ユーフィアとは接点がないものの、常にニーナの後ろに隠れて周囲の様子を窺っているため面識程度はあると判断していいはずだ。


「……お前はまた、そんな簡単に……」


 眼鏡の少年、ルドウィン・アケルナルは一人呆れたようにため息をつく。だがライオネルはルドウィンの様子を意にも介さずニーナとユーフィアに向かって手を差し出した。


「当日はよろしくな、お二人さん」

「えぇ、こちらこそ」

「よ、よろしくお願い致します」


 未だ味方の少ない二人にとって、ライオネルやルドウィンとの出会いは嬉しい誤算だ。ルドウィンの方はあまり乗り気ではなかったようだが、最終的には二人との協力関係構築を認めてくれた。


 そこからは他愛のない世間話に花を咲かせ、気がつけば午後の授業が始まるまでもう五分もない。六人の少年少女たちは慌ただしく食器を片付けながら、急いで下層食堂を後にした。

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