8 屋根裏部屋の不思議な光
ジジッ
また聞き慣れない音がしました。
ここはちょうど陽の光も入ってこない部分で本当に真っ暗なのです。
淀んだ埃っぽい空気が、なんとも薄気味悪い感じです。
私はさっきよりも更に暗くなってしまった為に、何も見えない中で一歩を進む事も出来なくなってしまいました。
何しろ、踏み間違えたら最後一階まで真っ逆さまに壁の中を落ちて行く筈です、高所恐怖症でなくても怖くて歩けません。
それにしても、さっきのジジッという音は何でしょう、この春の肌寒い時期、まだ活発な虫もいない筈です。
何の音だろうと、暗い中で耳を澄まして音の発生源を探してみます。
直ぐ近くに何かがいる気配があります。
「なに?」私は真っ暗な中をすり足で進みながら、手探りで、音のする物に触ろうとしました。
ジジーッ ジジジッ
かなり音が近くに来ましたが、本当に何も見えません、私は息を殺しながら手を伸ばすとベトベトした糸が指に触りました。
あら、これはクモの巣かしら?
という事はそれに引っかかった、誰かなのね、私はべとべとする糸を剥ぎ取りながら、音の発生源に張り付いた糸を引きちぎりました。
身体に触れてみると、かなり硬い感触でした、そこに薄くて壊れそうな羽があり、慎重に糸をはがしていましたが、剥がれた時に勢い余って、胴体に肘うちをしてしまいましたが、特に声をあげられることもありませんでした。
「ごめんなさい、今巻き付いた糸を取っているからね」
無言ですが、なにかとても強い人のような雰囲気を纏っています。
糸があらかた外れると、「助かったわ、貴女の事は恩に着るわ」と言う声と強い羽音がして、声の主は居なくなりました。
ほっと息を吐いたその時、頭上から何かが近づいてくる気配がありました。
そして、「やってくれるじゃねぇか、俺の食事を逃がしてくれるとはなぁ」と、少しガラの悪そうな声が聞こえました。
声の主が私のすぐ傍に来て、耳元で言いました。
「代わりにお前を食わして貰うからな」その声が聞こえた直後、鈍い音がしました。
「なにしやがる」
「悪いな、彼女は俺のお客様なんだ」
「ふざけるな、俺の食事はどうなるんだ」
「頑張ってまた取ってくれ、悪いけど急いでるんだ、またな」
突然私は腕を掴まれて、引っ張られました。
「待って、こんな真っ暗な所を走れないわ」
叫ぶように言うと
「こりゃ悪かった、少し辛抱してくれ」と言う声と同時に抱きあげられてしまいました。
「覚えてろよ、こんちくしょう」
坂の下から、怒鳴り声がしていますが、声の主はどんどん遠ざかって行きました。
私を横向抱きにしたまま、まるで何も持っていないかのような速さで、坂を駆け上がって行きます。
段々と光が入ってくるようになって、そのうちに明るい所へやって来ました。
「あ・・・屋根裏部屋ね」
クララは、ムカデの男の子と一緒に居ました。
「待たせたね、ちょっとはぐれちゃったから」そうクモさんが言いました。
「ケヴィンさん、どうしてここへ呼んだのですか?」クララがクモさんに聞きました。
「あの・・・ケヴィンさんとおっしゃるのですか?」私が聞くと
「ああ、自己紹介がまだだったね、お嬢様、そう私はケヴィンです、あっちの坊やはミックだ」
さっきのムカデさんが、胸に手を当てて腰を折っていました。
私を食べようとしたクモはクモのままだったし助けた人も虫っぽかったけれど、なんでこの二人だけ人間の格好なんでしょうね。。。
不思議に思いながら、屋根裏部屋を見回しました。
屋根に繋がっている太い石の柱から緑色の光が出ていました。
「あれなんだよ」とケヴィンさんが言いました。
「なんなんでしょう?」私が聞くと、ケヴィンさんが顎に手を当てて
「何日か前、たまたまここに来たら光っていたんだよ、しかも日を追うごとに光が強くなってる、俺たちは最悪外に逃げれば良いんだけどさ、人間はこの家が壊れたたら困るだろ?、お嬢様は毎日俺に声を掛けてくれているからさ、教えた方が良いかなと思ったのさ」
「ありがとう」
私はケヴィンにお礼を言うと、光の下へ向かって歩き始めました。
直ぐにクララも付いてきましたが、ケヴィンさんに会ってからクララの耳は赤いままです。
まだ、恋とかに疎い私はクララは恋の出来る年なのねと少し羨ましくなりました。
人間の大きさなら、20・30歩の距離ですけれど、この大きさだと結構遠いです。
ケヴィンさんが、傍に来て「あそこまで運んでやろうか?」
と聞いてきましたので、「お願いします」と言って、また横向抱きに抱っこして貰いました。
本当に力持ちね、私を抱きかかえていると思えない位に軽々と、柱の凸凹に足を掛けてケヴィンさんが私を柱の上の方に連れて行ってくれます。
この柱をよじ登るって考えたら、100%無理だもん
少しすると、ムカデのミック君に横向抱きにされて、クララも上がって来ました。
「やっぱりなんだか分からないわ」
目の前で緑色の光を発している物は、全く見た事の無い物でした。
私は、何も考えずその光る物に触れようとすると
「お嬢様おやめください」クララが大きな声で引き留めました。
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