7 壁の向こうは異空間
セリナはまた私が小さくなってしまった事に少しイライラしていました。
おばあさまがあれだけ言ったのに、また魔力を変な事に使って・・・
孫の表情から察したリリアは、セリナの肩をポンポンと叩いて、「心配しても仕方ないわ、どれだけ危険な事かは伝えたのですから、後は本人が決める事よ」と言いました。
クララはカッコいいおじさまと一緒に歩いていました。初めて会ったばかりなんだから、本当だったら警戒しないと行けないのでしょうけれど、今はちょっとワクワクしていました。
家の壁の中は、見た事も無い広大な空間でした。
でも、なんと言えばいいのか分からないけど、獣道っていうのかな、ちゃんと通りやすいようになっていて、二本足で歩けるんです。不思議な感じで面白いって思いながら、おじさまの後をついて行きました。
「あの、お名前を伺ってもよろしいでしょうか?」
「俺か? 俺はケヴィンだ、よろしくなお嬢ちゃん」
「私はクララ、クララ・キャンベルと申します」
「クララちゃんか、いい名前だな、この先はちょっと狭いし、歩き難いから、気を付けろよ」
段差をひょいと飛び越えると、振り返って手を差し伸べてくれました。
ケヴィンさんの手を掴むと、クララは軽く引き上げられて、直ぐに上の段に乗せられました。
ひゃぁ、人間の大きさだったら、腕が痛かったかもしれませんが、虫のサイズのせいか、ぜ~んぜん痛くなくって、軽々と運ばれたクララはますますケヴィンさんの事をカッコいいと思ってしまいました。
「さて、お嬢様の所に戻るとしますかね、またここに来るから、少し待っていてもらえるかな?クララちゃん」
そう言って、ケヴィンさんはウィンクをすると、下の方に飛び降りてあっという間に見えなくなってしまいました。
5分位じっとしていましたが、まだ二人の姿が見えません。
少し不安に思うと、嫌な気配がしました。
振り返ると、舌なめずりをしたネズミがいました。
きゃぁ、クララは後ずさりをしますが、あまり下がり過ぎると落っこちてしまいます。
ネズミが近寄ってきましたが、次の瞬間ネズミはキィーと悲鳴を上げると倒れました。
「ふん、全く油断も隙も無いね」ネズミが梁から落ちて行きました。その後ろから、つまようじの剣を持った男の子がいました。
「やぁ僕はミックだよ、アイシャさんに助けてもらった百足だよ、さっきケヴィンさんにあなたの護衛を頼まれたんだ、遅くなってすみませんでした。」
アイドルのようなカッコいい男の子が目の前に現れて、助けてくれた上に、今まさに彼が手にキスをしてくれました。
素敵だわ・・・
クララはもう、このまま人間に戻らなくても良いかも、なんて思い始めていました。
◆ ◆ ◆
「やぁお待たせ」その頃クモのケヴィンさんがアイシャさんの所に戻ってきました。
「おかえりなさい」アイシャは、そんなに待たされたとは思っていなかったので、笑顔で答えました。
「クララさんの居た方からは、通りやすい道だったんだけど、こっちからだとちょっと大回りになるんだ、あっち側に飛ぶかい?それとも大回りして行く?」ケヴィンさんが聞いてきましたが、やっぱりこの谷底みたいな所を飛び越えるのは気が引けましたので「大回りします」と答えました。
「じゃ行こう、クララちゃんが待ってるよ」ケヴィンさんはひょいひょいと凸凹した柱と柱の間を歩いて行きます。
私はスカートを汚さない様に、袖が引っかからないようにと、注意しながら歩いているうちに、ケヴィンさんを見失ってしまいました。
「クモさーん」と声を掛けたのですが、遠かったみたいでケヴィンさんは姿が見えません、姿が見えないので走って追いかけたつもりで、さらに離れてしまったらどうしようと思うと、追いかけるか、留まるか、迷いが出てきました。
その時、ジジッと変な音が聞こえました。
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