50 慌しい日々
いつも読んでくださってありがとうございます。
このお話は、”大好きな作品にファンレターを書いたのに感想を受け付けていませんって出てきちゃうどうしたら良いんだろうって思っていたらとんでもない事になっちゃった。”
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に登場する王妃侍女アイシャのお話です。本編の舞台裏をお楽しみください。
レオナルド様とのデートをした翌朝、浮かれ過ぎて頭が真っ白になっていて、でもなんだかとても素晴らしい朝を迎えた気がしたアイシャは、いつものように服に着替えて、部屋を出るとカオリ殿下に声を掛けられました。
「おはよう、昨日はとてもいい日だったみたいね」
「はい、劇は話題なだけあって、皆さん本当に衣装も豪華で、役者さんが上手で思わず身を乗り出してしまう程でした。機会があったら是非カオリ殿下もご覧になってください、それから」アイシャは普段の冷静さが全く無くなってしまった事にも気が付かない様子で、楽しそうに一日の事を話しました。
そして、最後に自分の左手の薬指に嵌った指輪をじっと見つめて「レオナルド様に頂きました」
「おめでとう」カオリ殿下は満面の笑顔でアイシャを抱きしめてくれました。
アイシャはまた嬉し涙が止まらなくなってしまって、カオリ殿下に抱きしめられたまま、ずっと泣いていました。
「さぁ、これから貴女はヤマダ商会の運営を私の代わりに行ってもらいますからね、レオナルド先生と一緒に、さらに盛り上げてくださいね。知ってる?今月の売り上げだけで、オストラン国の国家予算並みの金額なのですよ、そう考えてみるとこの商会の役員は言わば一国のトップと同じ位の予算を動かしているのだから、国家運営をして来たアイシャさんの腕を発揮する場所としてもぴったりでしょ」とカオリ殿下に言われたアイシャは、自分が他国よりも物凄い力を持っている恐ろしく強大な商会のトップに居るのだと認識を改めるのでした。
その日からアイシャの仕事場はカオリ殿下の補佐としてのヤマダ商会役員ではなく、ヤマダ商会の事務所の中にある社長室になりました立場は変わっていない筈なのですが、社長室を与えられた事でアイシャはカオリ殿下のその日の行動を気にする事が出来なくなりました。そして、それよりも驚いた事が、ウィリアム様よりも立場が上だという事でした。最初にウィリアム様から「僕よりも上の立場だね」と聞いて、辞退しようとしましたがウィリアム様は「カオリの代理なんだろ?カオリだと思ってあなたに接するから遠慮なく指示を出して欲しいし、こちらも遠慮なく意見を言うから、互いにこの商会を大きくしていこう」と言われてしまいました。一日のほとんどを社長室で過ごし、仕事が終わると研究室に顔を出す事が日課になりました。
レオナルド様はあの日のデートからも、今までと変わらず接してくださっていて、変わった事と言えば朝食と夕食を一緒に取るようになりました。昼間は社長の仕事が忙し過ぎて、レオナルド様の所へ顔を出す事は無理でした。
ある日の朝、カオリ殿下の家のメイドにヘアドライヤーで髪をセットして貰っているアイシャは、以前だったら焼いた鉄の鏝を使ったりしていて危なかったのに、随分と進化したものだと感じていました。
この日は、王城でヤマダ商会の仕事の進捗をプリムス・ランス王に報告する事になっていました。
昼近くにカオリ殿下とレオナルド様と王城に到着した時に、騎士団長さんとすれ違いました、アイシャは普通に笑顔で挨拶をしましたし、団長さんも、最初素敵な笑顔で挨拶を返してくれたのですが、アイシャの薬指にハマっている指輪に視線が行った途端に、酷く驚いた表情になりました。騎士団長ともあろう人が表情を悟られるようではいけないと思ったのですが、流石に団長さんも直ぐに普通の表情に戻って、笑顔で去って行きました。この先は顔を合わせないようにした方が良いのかなとアイシャは思ったのでした。
久しぶりにきた王城の会議室で、マルコム・ヴィヴィンティヨ伯爵やマルポンポン侯爵たちの前でモーターが思ったよりも力が出ていない事を発表したレオナルド様でしたが、「それならばエンジンを作りましょう」とカオリ殿下はこともなげに発言されるのでした。
エンジンとは、筒の中で燃えやすいガスを爆発させてその力を取り出すものだと言います。かなり簡単な説明で、しかもカオリ殿下も詳しくないという事で、簡単な図を見せられただけでしたが、レオナルド様は裁判の前にカオリ殿下が説明したエンジンの事を覚えていて、モーターの開発と同時並行で実験を繰り返していましたので、そのうちにエンジンも実用化されるのではないかと思えました。
カオリ殿下の防災・安全推進の考えは、プリムス・ランス王も共感してランス全土で防災都市化が推進されることになったため、カオリ殿下は王城の会議にも出席しています。
カオリ殿下から、会社の方を見ていてくださいと言われたアイシャは、今日は王城の会議ではなくレオナルド様と一緒に打ち合わせをしています。鉄道は王城近くのニャカの街から、ヴァヴィンチョの麓近くまでの区間が完成したので、その区間だけを先行して走らせることが決まりました。王城にお披露目をしに持って来た試験用の車両が馬車に乗せられて運ばれて行きました。丁度民家も街も何もない平野が続く区間があったので、その部分は定規で線を引いたようにまっすぐに線路を引く事が出来たので、始めから複々線?と言う方法で線路を敷いて行きました、プリムス・ランス王は金がいくらあっても足りないなぁと頭を抱えていましたが、直ぐに回収できると思いますと言うカオリ殿下の主張を受け入れて、この区間は今の所、誰が通るという事も無いのですが、盛り土や高架橋を作って土地を横断する人や動物が線路の上を通れない様に作られていますが、ウィリアム様の上手なプレゼンのおかげで豪商や有力者たちが駅付近の土地を高値で購入し住宅や商店を作り始めていました。大工のオリバーさんはトーマス君と一緒にあーでもないこーでもないと言いながら、図面を引いたりして皆に指示を出していました。このトーマス君はとても天才的頭脳で、カオリさんが教えてくれた数学をあっという間に覚えてしまっているので、今ではこの国一番の建築設計技師となっています。頼もしい少年です。オリバーさんはトーマス君が次から次へと斬新な設計をしてくるので、いかに効率良く建築できるようにするか、苦心していましたがとても良いコンビを組めていると言っています。
初めて目にする高架橋と線路が用意されて行っています。もうすぐ初めての鉄道が走るようになるのです。カオリ殿下は突貫工事過ぎないかしらと心配していらっしゃいましたが、トーマス君とオリバーさんは地震にも負けない構造になっているのだと胸を張っていました。
この区間が完成するとそれまで馬車で3~4時間掛かっている距離がほんの30分ほどで行き来出来るようになるのと、今までの土の道を馬車で走るのと違って、天候に左右されずに移動できるので、物流にも良い効果が期待できるとカオリ殿下が言っていました。魔法が無くてもこの国は確実に世界のトップになれる、アイシャもそんな確信を持つようになりました。
建設中の高架橋の下では、仕事が終わった労働者達が酒を酌み交わしていました。元々安定していたランスですが、ヤマダ商会のおかげで今や空前の好景気なのです。
電球が普及すると共に冷蔵庫も瞬く間に、全国に普及を始めていました。冷蔵庫よりもずっと安価なので安全なヘアドライヤーや扇風機も飛ぶように売れています。ウィリアム様はあちこちの領地に赴いて商会の支店を増やしています。カオリ殿下とは週に一二度しか会えない生活が続いているのですが、カオリのおかげでこんなに充実した生活が送れているのだと言って、日々全国を飛び回っています。他国にも発電所やヤマダ商会の支店を建設しようとしていますが、お隣のシュペイは強大な軍事力で近隣諸国に脅しをかけて来るため、アイシャの判断でシュペイへの進出は控える事にしていて、製品の出荷も禁止していました。
もちろんカオリ殿下にもプリムス・ランス王にも相談済みなので、全国の国境では他国への出荷は厳しく検査されることになっていました。また同盟を結んでいる近隣国へ渡った製品がシュペイへ渡る事を防ぐために、他国の国境でも同様にヤマダ商会の製品がシュペイへ輸出されることが無いようにしてもらいました。
レオナルド様の研究室は、レオナルド様のお弟子さんがまた一人増えて、エンジンの研究に打ち込んでいました。
何度もエンジンが焼き付いたと言う話をしていましたが、モーターよりも強くて高回転に耐えるエンジンを作るのだと、言っていました。カオリ殿下は両方共にいい所を支え合うのが良いと言っていましたので、そのうちに色々分かるのだと思います。
改良型モーターが出来上がるたびに、水道のポンプも改良が進んでいて、今は小規模な水力発電所と風力発電所があちらこちらに建設されています。電力の会社が全国に次々と出来ていて、その全てにヤマダ商会の発電機を収めているのです。カオリ殿下の言っている事が、次々と実現されているのは本当に凄い事です。
井戸用のポンプや農業の灌漑も水道の開発と共に実用化されてこちらも全国へ出荷されていっていて、気が付くとあっという間に一ヵ月が終わっているという生活になってしまったアイシャは、そういえば結婚式って出来るのかしらと思いました。カオリ殿下に、「とても充実した生活をありがとうございます。来週またお休みの日なのですが、そういえば結婚式は上げても良い物か、お伺いしたく・・・」アイシャが言いかけるとカオリ殿下が手のひらをアイシャの口に当てて言いました。
「もちろん、結婚式は上げて貰いますよ、でも、ちょっと待っててね、貴女もこの国にとってとっても重要な人なのよ、それにシャーロット王妃が貴方の結婚式を楽しみにしているんだからね。」
その日のうちにレオナルド様とウィリアム様の所に王様から使者が遣わされたのでした。そしてアイシャの所へも。




