33 シャーロット殿下の希望
いつも読んでくださってありがとうございます。
その日の夜遅くに城に帰って来たアイシャは付き添ってくれたバールトン家の騎士二人と別れた後、門番に「こんな時間に戻られたのですか?危ない事をなされますね」と言われ、城内の王族の建物までは別の兵士にエスコートされながら戻ったのでした。
アイシャが、城の自室に戻ると直ぐにドアが4度2回ノックされました。
高貴な方が直々にいらっしゃったと言う事は、アイシャが実家に行った事に何か問題があったのでしょうか。
脱いだばかりの服を着直して、慌てて扉へ向かいます。「少々お待ちください」
アイシャが、声をかけると「私です」と言われました。
先代の王妃カサンドラ様でした。
ドアを開くと、カサンドラ王太后殿下が、静かに入って来られました。
「突然ごめんなさい、貴女裁判官のお兄様の所へ行って来たのよね?」
アイシャは、頷き手を上げて発言をしようとしました。
カサンドラ王太后殿下は、アイシャに一冊の本を渡しました。
「あっ」
それは、シャーロット王妃も愛読していたという、随分と古い版の聖女様のお話が書かれた絵本でした。
アイシャも毎日読むようになっていたので、最新本が枕元に置いてありました。
カサンドラ殿下はアイシャのベッドの枕元にある絵本を見るとにっこりと微笑まれました。
「私の可愛い孫が、聖女様を消し去ろうとしているわ」
アイシャは何と答えたら良いか分からずに、目をぱちくりとさせていました。
「貴女も聖女様の応援をしているのね。」
カサンドラ王妃は、アイシャにウインクをしてみせました。
「遅い時間に悪かったわね、明日の朝食の時にまた会いましょう」
翌朝の朝食時間、王家の一族の食事の場に、いつも通りアイシャも参加していました。
アイシャがここへ来た頃は、ちょっと年上のお兄ちゃんだった王子二人も今では立派な26歳と23歳で、朝食の場でも父親の王様とかなり活発なやり取りをしていました。
しかし王子二人は、特に聖女様の事は気にしていない様子でした。
アイシャは、意を決して手を上げました。
王様は「どうした?」と聞いてきましたので
「バビンチョ出身の3人組ですが、この国の発展に欠かせないと思っております。」
数秒の沈黙の後、王様は言われました。
「その件だが、この後王都の貴族を集めて、カオリ殿を聖女と認める旨発表しようと思っておるのだ」
何度も頷くようにしていたカサンドラ王太后が「聖女の地位は、どうなの」と問われました。
「聖女は王家と同格となる」王様が答えるとシャーロット殿下が「つまり、両方とも悪くはならないという事でしょうか?」
「そうだ」王様が答えました。
王子二人は、よく分からない様子でしたが、シャーロット殿下はアイシャに抱き着きながら言いました。
「良かった」
王太子妃と王子妃の二人も、良く分かっていない様子でしたが、私とシャーロット妃殿下が抱き合って喜んでいる様子を見て、良い事なのだと理解しているようでした。
「既に通達は出してある」笑顔で王様が言いました。
その後は大忙しでした。
王都在住の貴族には通達が出されていましたが、王都以外の貴族、そして平民の有力者や公共施設などに沢山の通達書を王名で書かなければなりませんでした。
通常の業務も忙しい時期である上に、聖女の認定を判決の前日に設定するために、王妃や王子たちも総出で通達書を書く事になりました。
アイシャも例にもれず書類をひたすら書き続けましたし、侍女やメイドからも字の綺麗な者が駆り出されましたが、あまりにも日が無いために、気持ちに焦りが出てしまい、全く同じ内容のたった2枚の手紙を書くだけなのに、最後の1文字を書き損じてしまったりと、なかなか先にすすまなくなって来てしまいました。
手の空いているメイドたちが軽食を用意してくれたりして、一息つくと格段に効率が上がり、その日の夕方までに10,000枚に上る通達書が書きあがりました。そして騎士団や、商団に手分けをして数日中に全国へ行き渡るよう配布して貰ったのです。
夕方に最後の一枚を書き終えたアイシャは、立ち上がると腕がパンパンになっている事に気が付き、自分の腕を揉んでいましたが、メイドたちがやって来て、4人がかりで全身をマッサージして貰ってしまいました。
侯爵家で暮らしていた娘時代以来の事で、なんだか嬉しくなって涙ぐんでしまいました。
「アイシャ様、涙ぐんでいらっしゃいますが、どこか痛かったでしょうか?」
メイドさんが心配して聞いてくださりました。
「いえ、あの、嬉しかったのです、子供の頃以来の事でしたので」
にっこりと笑顔を見せて下さったメイドさんが、「今日くらいは子供に戻ってください」
と言って、マッサージを続けてくれたのです。
隣りにシャーロット王妃がやって来て、「私も混ぜて」と言うとマッサージを受け始めました。
アイシャが本当は私がシャーロット王妃のマッサージをしなければならないのに・・・
と思っていましたが
「アイシャ、貴女頑張っているわよね。あなたは私の一番のお気に入りなの」
突然シャーロット王妃が声を掛けられました。
「聖女のカオリさん、平民暮らしの上に、違う世界から来た人なんでしょ、貴女カオリさんの専属になってあげて、あなたほど優秀な子がつけば私も安心だわ」
少し寂しそうな表情とも、ほっとしているようにも見える表情を浮かべているシャーロット王妃は、子供の頃からの憧れの聖女様には、自分の持てるすべてを注ぎたいと言う気持ちが感じられました。
トントントントン、かすかなノックが聞こえると、先代様がいらっしゃいました。
「あら、二人で良いわね」
そう言うと、カサンドラ王太后殿下は、アイシャの隣に腰かけると、メイドを呼んでマッサージを受け始めました。
「お義母様、アイシャをカオリさんに付ける事にしましたの。」 シャーロット王妃が言うと
カサンドラ王太后殿下は、良い笑顔で
「あらあら、最高じゃないの、カオリちゃんにここに住んでもらいなさいな」と言いました。
「はい、お義母さま、もう新しく部屋を作るように手配していますわ」シャーロット王妃が答えると
「アイシャちゃんも、ずっとここに居て貰わないとだからね。」カサンドラ王太后殿下は、笑顔のまま答えてアイシャの頭を優しくなでるのでした。
カサンドラ殿下にも必要とされて、アイシャは胸が一杯になるのでした。
本業が忙しく執筆が進んでおりません。
更新頻度は落ちるかも知れませんが、最終話迄、お付き合いいただけると嬉しく思います。
次は8日午前6時ごろ投稿の予定です。




