2 中庭の冒険
今日は、クララは別の部屋の担当みたいでハンナが掃除をしています。高い所の掃除には、踏み台を持って来て登っています。
うん、あれが普通よね。そう思いました、窓を開けっぱなしにしているので少し肌寒いです。私は一人で上着を羽織るとハンナに言いました。「中庭に行って来ます」ハンナは「お嬢様、もう少しで掃除が終わりますから、少しお待ちください」
「ハンナ先に行ってるね」そう言うと一人で中庭に向かいました。
中庭に着くと、一瞬昨日メイドのクララに教えてもらった魔力を出す感覚が蘇りました。あっ、昨日の事を思い出した私は、自分で魔力を出してみようと目をつぶって腕に集中し続けていました。
「お前は誰だ」そう言われたので目を開けると目の前には5人の女性兵士がいました。
「私はアイシャ、バールトン侯爵家の三女です」と答えましたが、兵士たちは何を言われたのか分かっていない様子です。「お前は人間か?」と聞いてきたので、首を縦に振り「そうよ、あなた達だって人間でしょ」と言うと、兵士は首を横に振り「我々はアリだ」と答えました。
「人間は我々の敵だ、お前を女王様に会わせた後はみんなの食事にする」そう言うと、五人の兵士は私を拘束して連行したのです。
長い事歩き続けて、やがて勾配のきつい洞窟に入り、一番奥の大広間に到着しました。
煌びやかなこの部屋には、沢山の乳母が沢山の赤ん坊をあやしています。そして、正面には酷く太った女王様がいらっしゃいました。 兵士が女王様に耳打ちするように話をしています。 少しすると、頭が壊れそうなほどの大声で女王様が言いました。
「お前が人間か、お前のせいで先代は亡くなったのだ、巣穴を壊して毒を撒いただろう、辛うじて生き残ったのが妾じゃ、人間は我々の命を何とも思っておらん、直ぐに踏みつぶし殺すのだ、だから今日はお前の命を何とも思わずに殺す事にする、お前は見た所、美味くもなさそうだが、人間に復讐する機会がやっと来たのだ、みんなで祝いに食ってやるわ」
そう女王が言い終わると、兵士たちが一斉に襲い掛かって来ました。
頭を殴られ、よろけると足をけられて尻もちをついてしまいました、腕に噛みつかれ、足にも噛みつかれ痛みが走ります。「嫌よ、止めて」大声を出した瞬間
ボンッと言う音がして地面に半分埋まった状態で、中庭の中心部分にいる自分に気が付きました。
「お嬢様~お嬢様」大声を出してクララがやって来ました。
腕や足に沢山の蟻が集っているのを見たクララが蟻を払い落としては足で踏みつぶしました。
「クララ、ありがとう、でも蟻も生きているの、むやみに殺さないで上げてください」
「お嬢様はお優しいのですね」「ううん、ただみんな生きているのだなって、そう思っただけなの」
「お嬢様湯浴みをしましょう全身泥だらけでございますわ」
クララに抱き上げられた私は、風呂に連れて行かれて、じっくりと洗われました。
「お嬢様、腕や足に歯型がついてます、どうなさったのですか、誰に襲われたのですか、痛くはありませんか?」
「痛くはないです、噛んだのは蟻たちです。」さっきまでの事をクララに話しましたが、クララは首を横に振ると、直ぐに他のメイドに話をしに行ってしまい、私は別のメイドに湯浴みの続きをして貰いました。
湯浴みを終えると、直ぐに医者に診てもらい、念の為に消毒をされて、今日の勉強は中止になって部屋で大人しく寝ている事になりました。
不審者探しは夜を徹して行われましたが、結局どこにも足跡の一つも不審者の痕跡を見つける事は出来ませんでした。
私に壊されてしまった蟻の巣の周辺は土を掘り返して完全に根絶やしにする為に火を焚かれて土を焼いてから、埋め戻されました。
私はその様子を部屋の窓から眺めている事しか出来ませんでしたが、ドアがノックされたので、私は急いでベッドに戻りました。
私はベッドの中で、蟻さん私のせいで皆、殺されちゃったね、ごめんなさいと唱えるのが精一杯でした。
ベッドの脇のテーブルには、美味しいケーキとお茶が用意されました。
執事のルイスが「お嬢様、これからはけして一人で出歩かないとお約束ください。今回の犯人はまだ見つかっておりませんので」
「蟻さんが、私を食事にしようとしたんです。」
「クララから聞きました、お嬢様が土の中から現れたと、そしてお嬢様に蟻が集っていたとも、ですから念の為に中庭の蟻の巣は全て焼き払っております。お嬢様の安全の為にも決してお一人にならないようにお願いいたします」
そう言うと、入り口に控えていたメイドと入れ替わるようにして、ルイスが静かに出て行きました。
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