20 姿の見えない声
いつも読んでくださってありがとうございます。
思う所ありまして、16話から改稿しております。19話からかなり変わります
「この10年の間に魔王は17回も復活をしました。しかし一度でも勇者がこの城にやって来た事はありませんよ。」
王女が助け舟を出してくれました。
「アイシャ、君は勇者の剣を勝手に使い、勇者の代わりに魔王を倒して来たんだ、そのせいで勇者は、剣を手にする事が出来ず結果としてこの城にまで来る事が出来なかったんだ。そもそも、君はどこから来たの?」
姿の見えない声は、アイシャがどこから来たのかを訪ねてきました。
アイシャは、説明をしようと一歩前に出ました
「はい、まずどこからお話したら良いでしょうか・・・」
とアイシャが言うと、クララが「アイシャ様、私に説明をさせてください」と、言いましたので、アイシャは頷きました。
「バールトン侯爵家のメイドのクララと言います。 私達はランス国南部に位置するバールトン侯爵領に暮らしておりました。 邸宅内で魔法の練習をしている時に私達は、小さくなってしまいました。その後、邸宅の中で知り合ったケヴィンさんとミックの4人で公爵家の屋根裏部屋に入ったのです、そこには緑色に光る柱がありまして、緑に光る部分に触れると柱の中に吸い込まれるように入ってしまいました。
その中を歩き続けているとまっ白な空間を通って、ふわふわした白と黒の犬に出会いました。」
クララは一息でそこまで話すと、アイシャの方を向いて合っているわよね?と確認をしたので、アイシャは軽く頷きました。
「その後、白と黒の犬に案内されて、草原に出ると、青い盾を持ち青い鎧を着た少年と出会いましたが、彼と私達は全くぶつかる事が無く、すり抜けてしまう存在でした、彼の振った剣に斬られることもありませんでした。そこにいたのが女神様でした。」
「アイシャ様と女神様がお話をしていましたが、ボッ、ガチャッ、ブッというとても大きな音と同時に真っ暗になりました、次の瞬間には、この国の村にいたのです。そして、青い鎧の少年とは違う少年がやって来て、壺を割ったり草を刈りとったりしている様子を見ていました。」
クララは、またアイシャの方を見て、確認して貰いました。
するとまた声が聞こえてきました。
「すまない、理解しにくいのだが、最初はこの世界と違う所にいたのですか?」
「「はい、そうです」」アイシャとクララの声が被りました。
クララが続けました。「元々いた場所は、ランス国のバールトン侯爵家です、その後女神さまと青色の鎧を着た少年の居る世界に行きました。最後に行きついた場所がここになります。」
姿の見えない声は、仲間内で何かを確認するように話し始めました。
「青い鎧を着た少年って、あれじゃないか?青い盾もあったんだろ」
「おっ、おおあれか」
「試してみるか」
暫く待っていましたが、無言になってしまいました。
「すみません、どなたかいらっしゃいませんか」
声が聞こえないので、見張りの兵士に何かあれば連絡するように言って、みんなは謁見の間を出て食事をする事にしました。
食事をしながらアイシャは、「王女様、私は魔王を退治する役目ではないそうですね。この城にいる理由も無くなってしまいました。」と言いました。
「アイシャ様、あなたがこの国を守る為に頑張って来た事を知っていますし、魔王を倒す事だけがこの国への貢献では無い事も知っています。既に料理やマナーなど数えきれない知恵をこの国にもたらしてくれていますよ。けして自分を過小評価なさらないでください、生涯この城で暮らして頂いて構わないくらいです。」
王女様は、暖かい微笑みをアイシャに向けてくれました。
「もしかしたら、ランスへ戻して貰えるのかもしれないわね。」と言いましたが、クララは首を横に振りました。
「アイシャ様、私はアイシャ様のメイドですが、この国に残りたいと思います、愛する夫も子供たちもこの国で生まれ育っております。」
アイシャは、ランスに戻れるのならば、クララとは別れる事になる事は、意識の中にはありましたが、その時が来たのだという事を理解したのでした。
ほろりとアイシャの頬を一滴の雫が流れ落ちました。
魔王が復活したわけではありませんでしたが、アイシャは再びこの国を一周する旅に出掛けました。
それに、魔王を倒す仕事はもうアイシャの役目ではないのですから
あの聖剣が刺さっている筈の神殿にも行きましたが、聖剣は刺さっていませんでした。
「あら・・・まだ聖剣が戻っていないのかしら、それとも勇者が聖剣を手に入れたのかしら」そう呟くと胸の奥がきゅうっと苦しくなりました。護衛に心配を掛けたくなかったアイシャは、外で待つように伝えると神殿の中に入り、半分朽ちた石像に手を触れて寄りかかりました。
何か暖かい気持ちになる事が出来ました。
暫く泣いたら、すっきりしたのでみんなの元へ戻り、旅をつづけました。
アイシャは、初めてやって来た時の草原にも来ましたが、初めて来た頃と変わらない美しい景色が広がっていました。
まだ右も左も分からない頃の、何が何だか分からない混乱した気持ちとは全く違っていました。
「あれから10年も経ったのね」
「アイシャさん、ここに居たんですね。」突如どこからともなく姿の見えない声が聞こえました。
「はい、初めてやって来た時の場所です」アイシャが答えました。
「用意は良いですか?」
「あ・・・でも城にいる皆に何も伝えていません」
「私が伝えます、アイシャ様」護衛の一人が答えました。
「まずは、青い鎧を着た少年の居る場所に行っていましょう。」
アイシャが返事をする間もなく、ガボッという大きな音がして真っ暗になりました。
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