1 子供だけでお留守番です。
25年前アイシャ5歳のある日の朝
「おはよう」
「おはようございますお父様お母様」
「お兄様お姉さまおはようございます」
「おはようアイシャ」
「おはよ~アイシャちゃん」
「お父様お母様おはようございます」
朝の食堂に身支度を整えたバールトン侯爵一家のみんなが集まって来ました。
「みんな今日も良い目覚めを迎えられたかな?、今日からお父さんとお母さんは領地に行ってくるから、2か月位は、子供たちだけになるけれど、ちゃんと良い子にしているんだよ、何かあったらルイスに報告するように」
バールトン侯爵家は毎年家族みんなで領地に行っていたのですが、今年は下のお姉さまも10才になったので子供たちだけで過ごしてみようという事になっていたのでした。
お父様がお話されたあと、私は少し心細くなって、「お父様と一緒に行きたい」と言うと、お父様はとろけるような笑顔になって、「じゃぁアイシャは一緒に行こう」と言ってくれましたが、「アイシャ今回は少し危ない所も視察に行くの、だから子供たちだけ家に残る話になっているのよ」とお母様に言われてしまいました。
私は、悲しくなりましたが、「分かりました、お留守番いたします」と答えました。
「子供たちだけの2か月になりますが、お勉強はいつも通りですから、遊びほうけないようにしてくださいね。」と執事のルイスがにこやかに言うと、お兄様とお姉さまはみな、一様にがっかりした表情になるのでした。
朝食が終わると、お父様とお母様は、馬車に乗り込み出かけて行きました。
子供たちだけと言っても、実際にはメイドたちはそのままいるのだし、食事の時に両親と顔を会わせないだけで、特段普段と何も変わらないのですが、私はとても心細くなって、部屋に戻るとベッドにもぐりこんで泣いてしまいました。
暫く泣いていたら、泣き疲れて寝てしまったみたいで、いつの間にかメイドのクララさんがお部屋の掃除をしていました。「お目覚めですか、お嬢様2か月なんてあっという間ですよ」
クララさんは上のお兄ちゃんよりも年下で、たしか15才だったかな?
子爵家の二女で、うちに来る前はと~ってもお転婆で、男爵家の子たちや平民の子たちともよく木に登ったりして遊んでいて、色んな事を知ってる人で、花の蜜の味の話とか木登りのやり方とか色んな事を教えてくれました。でもそれは一人で私の部屋に来た時だけで、他のメイドさん達と一緒の時には無口で一生懸命に仕事をしているだけの、地味なメイドさんのふりをしているのです。
今日のクララさんは一人でしたが、私が泣いて眠っていたので、極力音を立てないように仕事をしてくれていました。
踏み台を使わずに棚の上に飛び上がって、拭き掃除をすると音もたてずに着地して私にウィンクをして見せました。
「かっこいい」
私はおもわず呟いてしまいました。
クララさんは水の入った桶で雑巾を濯いぎながら、
「ふふ、アイシャ様、普通淑女はこんなことをしたら、はしたないとしかられてしまいますよ。ましてスカートであんな高い所に飛び上がったりしてはね。でもね、女の子でも運動能力が高いと、便利な事もあるし身を護る事にも人助けにも使えて、いいことづくめなんですよ。」
そういうと、たしか男性2人がかりで運んできた、勉強机をすすっと移動させて、埃を掃き、雑巾で拭き上げてしまいました。
「重たいのに・・・凄いわ」
「重い物を動かすには、コツがあるんです、どうしても女の力じゃ持ち上がらない物も沢山あります、そういう時はねっというと本の入った本棚に掌を向けると、本棚がほんのわずかに浮かび上がって前に移動してしまいました。
「魔法だわ」私が言うと
「そう、魔法です、天気を変えたり火を出したりとかは無理ですけれどね、みんな魔法は神官しか使えないって言っていますけど練習したら誰でも使えます、私が子供の頃一緒に遊んでいた子供たちに教えたら、全員使えるようになりましたから、アイシャ様にも教えますよ」
私は目を輝かせて、言いました。「教えてください、クララ先生」
「あはは、先生じゃないですよ」
「早速練習してみますか?」
そう言うと、私の手のひらの上にクララ先生の手のひらを重ねて、「なにか、感じますか?」と聞かれました。
「温かいような・・・、何かが入ってくるような・・・あっ今度は私の中から何か出て行くような感じがします」
「そう、その感じを覚えてください、自分でそれが出来るようになるまで練習したら、物を動かせるようになりますよ、重さとか大きさはあんまり関係なくて、でも動きやすい物と動かない物はあります。動かない物は今の出て行った魔力が跳ね返されるような感じがするんですよ、でもみんなの前では使わない方が良いかも知れないです。私も両親の前で使ったら、凄くしかられました」
「分かった、みんなの前では内緒にする」
私はクララ先生に約束をしたのでした。
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