18 何度でも倒します。
聖剣を手に入れたアイシャは、王女に教えてもらった最短ルートで城に向かいました。
王城の下に、こんな秘密の通路があるだなんて、本当に驚きでした。
どうやって維持されていたのかは不思議ですが、蝋燭の火で通路は明るさを保っていました。
以前聖剣を入手してから、城まで通って来たルートは、強風が吹き荒れる断崖絶壁の道を進んだり、魔物がいる草原を進んだりと、かなり険しい道のりでした。同行した騎士たちが圧倒的な強さで手伝ってくれたおかげとしっかりとした道案内のおかげでスムースに城に向かう事が出来ましたが、いかんせん大回りでした。
ただし、この秘密の通路は城から逃げる為の道なので通路から外に出るのは簡単に出られるのですが、入るには滑り台状の急坂をどうにか登らなくてはなりませんでしたし、扉は出ると自動的に閉まってしまう構造の為、外から開けようにも取っ手も何もないのでした。
アイシャは、魔王との闘いの時以来使っていなかった魔法を使って、自分を持ち上げてみようと思いました。
うんしょ・・・5cmほど持ち上がって地面に着きました。
以前に虫を持ち上げたのとさほど変わりなく自分が持ち上がった事に、確信を持ちました。
「出来そうだわ」次に試してみた所、勢い良く持ち上げ過ぎたのか10cm位持ち上がった所でバランスを崩して転んでしまいました。
騎士の皆さんは上を見上げていたので、アイシャが転んだことには気が付きませんでした。
アイシャは、「暫く休憩しましょう、私は思いついた事があるので、しばらく練習してきます。」
そう言うとアイシャは、みんなから離れた林に移動して、誰にも見られていない事を確認してから、一人で浮遊する練習を始めました。
10回20回と繰り返して行くと、だんだんバランスを崩さずに50cm、100cmと高く上がれるようになってきました。30回を数える頃には、自分を持ち上げて自由に移動する事が出来るようになってきました。
10分もするとかなり慣れてきたので、滑り台の高さを想定して、斜めに移動してみたり、真横への移動をして見たり、宙に浮いたまま扉に見立てて、枝を持ち上げてみたり、しているうちにとうとう、一番高い樹の天辺にまで自分を持ち上げる事にしました。
「おっとっと」最後の着地が危なかったですが、あまりふらつかずに自分を持ち上げる事が出来ました。
木の上から周りを見ると、みんなが休んでいる所もわずかに見えました。
気がつけばもう1時間近くは練習をしていたようで、皆は、焚火を焚いて食事の用意をしているようでした。
木の上からの景色を堪能したアイシャは、滑り台の扉まで登る事が出来る自信が付きました。
お昼の足しになるかなと、甘みの強いラズベリーのような木の実を集めてから、みんなの所に戻ると騎士たちが羨望のまなざしでアイシャを見ていました。ふふ、みんなこの木の実にくぎ付けね。
そんな事を思いながら、木の実がたっぷり入った袋を渡しましたが、あっさりと「アイシャ様ありがとうございます」と言われて、素直に受け取られてしまいました。あら?反応は普通だったわ、と少しがっかりしましたが、何事も無かったように、アイシャも食事に着きました。
どうやら、アイシャからはみんなの事が見えていなかったのですが、みんなからは、だんだんと高く浮遊して最後には木の天辺に上るアイシャの事が良く見えていたようです。
食事をして、お腹が膨れたので、操作に慣れるまで、難しかったのですが、意外と簡単に滑り台の天辺まで持ち上げる事に成功しました。
アイシャは上に到着すると一人に扉が開けっ放しになるように抑えてもらい、みんなを一人ずつ持ち上げて、無事に全員を通路の出口に連れ戻しました。
他人を持ち上げるのは、自分を持ち上げるよりずっと簡単なのよね。
そういえば、虫を持ち上げていないせいか、アイシャの身体の大きさは全く変化していませんでした。
全ての道具も回収した後、キャンプの痕跡を消すために砂嵐を起こしすと、みんなが居た跡は綺麗に消し去られました。
城に戻ると、まっすぐに王女の部屋に行きました。
「只今戻りました、この通り聖剣を取って参りましたわ、魔王の様子は如何でしょうか?」
「全く微動だにしていません、早速討伐をお願いいたしますわ」
アイシャは、王女と護衛達を連れて、魔王の居る接見の間に向かいました。
始めに入った廊下側ではなく、王族の入る扉を開くと、魔王の背中が目の前にありました。
聖剣を抜いて、恐る恐る近づいて行きますが、魔王はピクリとも動きません。
まるでミックが決死の行動で毒を飲ませた時と同じようです。
「ミック、あの時、貴方が、魔王に毒を飲ませてくれたおかげで、この国は救われましたわ、ありがとう」
心の中で呟きながら
アイシャは、勢いよく魔王の背中を駆け上がると、背中に聖剣を一突きして、直ぐに背中を切り開きました。
前回よりも激しく光が吹き出してきて、魔王は爆発するように消えてなくなりました。
魔王の居た場所には、ミックの筆跡の手紙が落ちていました。
アイシャはその手紙をそっと胸元にしまうと、みんなの元へ戻りました。
王女は安堵の表情を浮かべていました。
それから1か月ほどの時間をかけて、アイシャは、王女と一緒に、城内はもちろん国中で魔王の痕跡が残っていないかの確認の旅に出ました、どうやら何もかも元通りに戻ったようです。
クララと宰相は、この国をさらに発展させると意気込みました。
城に戻ってからアイシャは、ミックの手紙をそっと開いて読んでみました。
そこには、クララに初めて会った時からのクララへの気持ちが書かれていました。そしてクララへ会いたいが故に人間になる方法を探して神様に祈り続けていた事、一緒に旅が出来て幸せだった事、しかしいつもクララは出会う男性に心惹かれていて、ミックの事を見てくれなかった事、そんな事が書かれていました。そして虫としての寿命はとっくに尽きている事、いつかみんなの役に立てるならば、命をかけてでも戦う心づもりであることが書かれていました。最後にクララを愛しているとも・・・
この手紙は、クララに渡すべきだろうか、アイシャには判断できませんでした。
クララは今幸せに生きています、アイシャは自分の机の引き出しに聖剣と共に手紙を仕舞いました。
そして、また半年ほどたったころ、またもや真っ暗になって魔王が復活したのでした。
アイシャは直ぐに、王女の部屋に向かうと、王女に言いました「また魔王が復活したのですね?」
王女は静かに首を縦に振りました。「ではまた聖剣を取りに行って参りますわ」
「よろしくお願い致します。」
こうして、アイシャはまた護衛を連れて秘密の通路を通り、外に出ると馬に乗らずに、全員を持ち上げて聖剣のある森まで空を飛んで行きました。
騎士団が見守る前で、聖剣を入手すると、空を飛んで秘密の通路まで戻りました
そして秘密の通路を通り城へ戻って来ました。
飛行時間が大分長くとれるようになったので、前回よりも早く戻る事が出来ましたが、あまりに早く戻ったせいか、女王はとても驚いていました。
今度も、みんなと一緒に、謁見の間に入ったのですが、間の悪い事に、正面の廊下側から援軍が入って来てしまいました。
正面の扉が開くと、魔王は急に動き出しました。
次々と何もなかった空間に魔物が現れて、援軍の騎士たちに襲い掛かってきました。
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