13 少年
勇者を追いかけていた筈でしたが、いつの間にか勇者を見失っていました。
耳を劈くような、ボッ、ガチャッ、ブッ、と言う音と共に世界が真っ暗になって、知らない村を見下ろす丘の上になりました。
「どうする?あの村に行ってみるか?」ケヴィンさんが聞いたので。
皆は頷くと、村へ向かって歩き始めました。
村に近づくと、少年が「えーい」と叫びながら走って来ました。
クララが後ずさりすると、クララのすぐ傍に何故か大きなツボがあって、そのツボを剣で叩き割りました。
割れたツボからは、緑色の宝石っぽい物が出てきました。少年は宝石っぽい物をつかみ取ると、向きを変えて走って行ってしまいました。
「クララ大丈夫だった?」アイシャが聞くとクララは、驚いた表情をしながらも、首を縦に振り「ええ、なんともありませんでしたわ」と答えた。
「全く、青い鎧の奴と言い、今度は少年だ、しかしなんで、こんなところに壺があったんだろうな」
ケヴィンさんがやれやれと言った表情でぼやきました。
村に入ると、少年は民家の庭の植木を叩き切っていました。
切られた植木から、先ほどの緑色の宝石っぽい物が出たので、民家の植木は全部切り取られてしまいました。
「すげぇなぁ」とムックが言うと「人の家の物破壊しまくってますね」クララも答えて言いました。
そんな少年が村の物を破壊し終えて村を出て行くと、女神が現れて切られた木や割られた壺を修復していました。
クララは「凄い・・・私も直せるかしら」と言いましたが、女神には聞こえなかったみたいで、返事はもらえませんでした。
クララは女神の真似をして見ましたが、やっぱり何も変わりませんでした。
「何やってるの?」アイシャはクララに聞いてみました。「お仕事の役に立つかなと思いまして」とクララはつづけました、「メイドの仕事に戻った時、壊れた物をこうやって復旧できれば便利ですよね。」
確かにこれは身に着けたい技術です。アイシャもクララを真似て、女神の様に壊れた壺を直そうと手をかざし続けますが、やっぱり何も変わりません。
「「だめか~」」クララとアイシャは同時にぼやきました。
呆れた表情でケヴィンさんが、「勇者は居なくなってしまったなぁ、あの少年はなんであんなに破壊しまくるんだ」と言っていました。
「あの少年もまた勇者なのですよ」突然現れた女神が答えました。
「勇者・・・あの宝石をかっぱらっているのは、勇者を鍛えているのか」ケヴィンさんが、理解しかねると言った表情で言いました。
「鍛えるのとも少し違いますが、あの勇者には必要な事なのです」女神が答えます。
「やるべきこと」アイシャは、また自分に言い聞かせるようにつぶやきました。
ケヴィンさんが村の中心に向かって歩き出したので、私達も付いて行きました。
馬がいたり、鶏がいたりして、アイシャは近づくと、動物たちは声を出さずに遊んでくれました。
そのうちにアイシャは馬が頭を下げたので、「乗っても良いの?」と馬に尋ねました。
馬は何も言いませんでしたが、アイシャは馬に跨ると、馬は歩き出しました。
「わー馬に乗せて貰ったわ」アイシャはとても喜びました。
鞍を掛けていない馬に乗れるなんて、滅多にない事です。体の小さいアイシャだから馬も乗せてくれたんでしょう。
クララは、アイシャが馬から落ちないかどうか、心配でなりませんでしたが、上手に馬に乗せて貰ったアイシャは、落ちることなく柵の中を一周してきて、牧場のおじさんに馬から降ろして貰いました。
牧場のおじさんも無口な人で、誰が話しかけても返事をしてくれませんでした。
でも、嫌がられてはいないみたいで、沢山遊ばせてくれました。




