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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

続編のない短編達。

『精霊の愛し子』は居るだけでいいのです。

作者: 池中織奈

「貴様との婚約を破棄する!! 『精霊の愛し子』という立場でありながらだらだらと寝ているばかりで!! 貴様なんぞ王妃に相応しくない」



 そんな婚約破棄の言葉を向けられているのは、私ではなく……私の友人であるモニエナ様である。


 私の膝に頭を乗せてごろごろしていたモニエナ様は、寝ぼけているのかぽやーっとした表情で王太子を見ている。




 モニエナ様はこの国において、とても特別な方だ。

 この国の王太子の告げた通り、モニエナ様は『精霊の愛し子』という立場になる。

 それはその名の通り、精霊たちに愛されている存在だ。その存在であるからこそ、モニエナ様は王太子の婚約者などという立場になってしまった。


 私は他国からやってきた身で、去年からモニエナ様と親しくさせてもらっているけれど、モニエナ様は王太子に関してどうでもいいと思っている様子だった。

 そもそもモニエナ様が望んで王太子の婚約者になったわけではない。王家の方からモニエナ様を王妃に迎えたいと望んだからこうなったのだ。



 ちなみに此処は、学園の一室。私はお昼寝が大好きで、私の膝の上に頭を乗せているモニエナ様の頭を撫でて和んでいた。モニエナ様はこうしてよく昼寝をしており、その姿の可愛さから『モニエナ様を愛でる会』を私が設立した。会員数は少ないが少数精鋭である。女子生徒しかいないのは、モニエナ様は昼寝が好きとは言え貴族令嬢なのでそのかわいらしい眠り姿を男子生徒は見ないからである。

 

 王太子の隣には、男爵令嬢の庶子がいる。確か編入してきて、心優しい少女だと有名である。

 あと光属性の魔法を使えるとかで、一部の生徒が聖女だとか持ち上げているらしい。





「……レンナ。おはよう」

「おはよう。モニエナ様」

「って、貴様ら!! 俺の話を聞いているのか!」



 王太子煩い。モニエナが不愉快そうに眉をひそめているのが見えないのだろうか。



「モニエナ様、まだお昼休みは終わってないから、もう一度寝てていいですよ?」

「うん」


 王太子が煩そうなので、モニエナ様が穏やかに眠りに付けるように魔法を行使する。ついでにかわいらしいモニエナ様の顔を王太子が見れないようにもしておく。



 それにしても再度私の膝に頭を乗せたモニエナ様だけど、完全に寝てはいないみたい。



「なっ、貴様ら――」

「王太子殿下、モニエナ様との婚約を破棄すると言うのは本当ですか?」

「ようやく話を聞く気になったか! って違う、俺が話したいのはその女であってお前ではない!」

「……モニエナ様も一応聞いてますよ。それで、モニエナ様と婚約破棄ですか?」

「『精霊の愛し子』で、次期王妃という立場でありながらそれだけ眠ってばかりのその女との婚約は破棄する。そして俺はアーシェラと婚約を結ぶ。聖女である彼女の方がこの国のためにもなるからな!!」



 王太子は本当に煩いなぁ。

 それにしても何を言っているんだろうかと私は思わず一言言い放ってしまう。




「……王太子殿下は馬鹿なんですか? 『精霊の愛し子』というのはいるだけでいいんですよ?」


 私はモニエナ様の頭を撫でながらそう言う。それにしてもモニエナ様の髪ってさらさらで撫でていて幸せだわ。

 

 あ、こんなこと言ったら王太子がモニエナ様を手放すのが惜しいって思ってしまうかな。そうなったら困るわ。我が国としてみれば、モニエナ様が王太子に愛想をつかしている方がいいのよね。

 でも王太子は馬鹿だったので、「いるだけでいいなんてそんなわけはないだろう! そんな役立たずの女はいらない!!」などと言い放った。


 うん、馬鹿だ。

 言いたいことを言った王太子はそのまま去っていった。あとあの男爵家の庶子の方は勝ち誇った顔をしていた。



 それにしてもこの国の教育はどうなっているのだろうか。

 この国の王太子が終始あの調子であるから、特に学園内の生徒たちは一部を除いて『精霊の愛し子』であるモニエナ様に対しての態度が酷いのよね。そもそも国王に関してもなんというか……あの王太子を放置している時点で駄目よね。


 王太子との婚約者が破棄になったところで、国王が次の婚約者をあてがいそう。モニエナ様はあんまり周りに興味がない方だから、それを受け入れるかもしれない……けど私はモニエナ様にはもっと心穏やかに出来る場所で幸せに過ごしてほしい。





「あれ、行った?」


 モニエナ様は王太子が居なくなった後、起き上がって問いかける。



「行きましたわ」

「煩かった」

「モニエナ様はどうでもよさそうですね」

「うん」


 哀れ。あの王太子は多分気にも止められていない。



「モニエナ様、私の故郷にきませんか?」


 私がそう問いかけたのは、私がモニエナと一緒に居たいなと思っているのが半分、お兄様に『精霊の愛し子』を連れて帰れるなら連れて帰ってこいと言われているのが半分である。

 


「レンナの故郷?」

「ええ。帝国に一緒にきませんか」


 私はこの王国の出ではない。帝国の出である。ちなみに帝国の方がこの国よりも力関係は強い。

 その力関係を利用して『精霊の愛し子』であるモニエナを無理やり連れ帰るなんてことになれば、精霊たちの怒りを買う可能性がある。だから、お兄様はわざわざ私に仲よくしてくるようにって言って送り出した。



 ――『精霊の愛し子』とは、あの王太子たちが思っているよりもずっと重要である。

 そもそも精霊というのはそれだけで強大な力を持つ。その精霊に無条件に好かれ、力を貸されるのがモニエナ様である。精霊たちはモニエナ様を幸せにしたいと望み、そのためにその土地さえも豊かにしていく。

 モニエナ様が王太子たちに怒りを向けていないから精霊たちは大々的に動いていないが、モニエナ様が怒りを示せばすぐにその命を散らす危険がある。というか、国の存亡さえも下手したら危ない。



 そういう王族よりも特別な立場にあるのがモニエナ様だ。正直『精霊の愛し子』はそこに居て健やかに過ごしているだけでそれでいいのだ。なので、王太子は寝てばかりいると文句を言っていたがそれで問題ないのだ。



「レンナと一緒?」

「ええ。私と一緒ですよ。我が国はこの国よりも『精霊の愛し子』の存在を重要視していますから、モニエナ様を蔑ろにはしません。いえ、させないことを第三皇女である私の名において誓います」

「レンナ、お姫様?」

「ふふ、側妃の娘ですけどね。モニエナ様が素敵な方と結婚できるように、モニエナ様が幸せになるように全力を尽くしますからね」



 そう私は皇女である。

 皇妃の娘ではないので、皇族の中では位は低いけれど皇族の血を引いている。



 なので、モニエナ様を幸せに動くようには出来るのである。そもそも皇太子のお兄様もモニエナ様が望まないことは強要する気はないし。

 そう思って口にした言葉だけど、モニエナ様はなぜか頬を膨らませる。何か嫌なことでも言ってしまっただろうか。



「モニエナ様?」

「私、レンナがいるから結婚しなくていいの」

「え?」

「レンナも結婚、駄目」

「……えっと?」

「レンナ、凄く良い匂いする。美味しそう。私、レンナが好き」



 何だかモニエナ様がよく分からないことを言い出して、妖しい目で私を見ている。

 モニエナ様のサファイアのような美しい瞳が私を見つめていて、ちょっとドキドキする。


「……それは友人としてですよね。私も大好きですよ。モニエナ様」

「ううん。私、レンナにキスしたいから違うと思う」

「え」

「こんなに人に興味持ったの初めてなの。レンナ、いい匂いで可愛いから、私とずっと一緒に居るの」

「え」

「ねぇ、レンナ。私がキスしたらいや?」



 かわいらしいモニエナ様の目が熱を帯びながら私を見ている。私はモニエナ様が大好きで、可愛いなといつも和んでいる。そんなモニエナ様が悲しそうな顔をしていたので、思わず「嫌じゃない」って口にしてしまった。



 ……そしたら滅茶苦茶キスされた。

 おおおぅ、何処でモニエナ様はそんなもの覚えたの!?



 その後、モニエナ様を帝国へと連れ帰ったわけだけど……、お兄様に「連れて帰ってこいとはいったけど恋仲になれとはいってない。でもよくやった。それはそれでいい」って言われた。

 ……というか、お兄様が妙に嬉しそうなのはなんで?? あとお兄様の側近たちも応援してくれてるっぽいのはなんで? 一人に「ありがとうございます!」とか言われたけど何??






「レンナ、大好き」


 でもモニエナが幸せそうに笑っているのでまぁ、良いかと私は思うのだった。




 ちなみにモニエナが去った後の王国は作物が育ちにくくなったりといった弊害はあるらしいけれど、そんなの私にもモニエナ様にも知ったことではないのであった。







勢いで書いた短編です。


レンナ

帝国の第三皇女。茶髪に赤い瞳。

『精霊の愛し子』と仲良くなって来いと皇太子に送り出される。

帝国からの留学生の一人として在籍。ちなみに帝国の伯爵家の付き人の一人としてやってきている。

皇太子とは母親違いだが仲が良く、平民として通わせたのはレンナが「誰も自分の位を知らないところで学園生活送ってみたい」って呟いていたから。なので仲良くなってほしいと送り出したけれど、ならなかったらならなかったでそれでいいと思われていた。

モニエナと仲良くなって、とても可愛いと愛でていた。恋愛感情を向けられ戸惑ったもののモニエナのことが好きなのでいいかと受け入れる。末永く幸せに過ごす



モニエナ

伯爵家の娘で、『精霊の愛し子』。金髪に青い瞳。

人に基本的に興味ない。家族も『精霊の愛し子』を利用しようとする人たちであり、婚約者もああいう王太子だったがどうでもいいと思っていた。お昼寝大好き。ちなみにこんな調子だけど天才肌なので王妃教育はさっさと終わらせてた。

レンナは優しいし、可愛いし良い匂いがすると最初からお気に入り。レンナと仲良くなってからよく膝枕してもらっていたが、それもレンナ以外にはしてもらってない。(レンナは自分だけだとは知らない)



皇太子

レンナの兄。

腹違いの妹のことを可愛がっている。というか、帝国は皇妃と側妃も仲がよく、兄妹仲が良い。

本人はノーマルだが、側近の一人の影響で百合が好きになっているため可愛い妹が『精霊の愛し子』と恋仲になったのは驚いたものの、とても見ていて幸せになってる。

奥さんも同性愛だろうと、ノーマルだろうと仲良いのは良い! と思っているので夫婦そろってレンナたちをほのぼのと見ている。


側近たち

側近の一人の影響で漏れなく、百合好きになっている。ただ見るの好きなだけでちゃんと皆愛妻家。

「ありがとうございます!」って言ってたやつが元凶。



王太子

『精霊の愛し子』と婚約破棄したのもあり、王太子の位を剥奪。その後、色々やらかした結果、幽閉される予定



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[一言] 側近の一人の影響力でけえwww
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