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セミの鳴き声、隣の泣き声  作者: カルビちゃん
2/4

昼休みの教室

あの乙部さんがおもらしをした。


それはそれは大量だった。


彼女は肩を落とし、泣きながらも保健委員に連れられてフラフラと保健室へ行った。


匂いがキツイ。でも、そんなことは言えない。


乙部さんの席の周りの人が後始末の用意をしていた。力になりたい。僕の体は勝手に動いていた。素早く雑巾をクラスの後ろの掃除ケースからもってきて、後処理を一緒に手伝った。人の眼など気にしていなかった。クラスの皆は黙って騒ぐこともなく座っていた。



乙部さんの体操服袋は布製で黄色く染まっていた。



本当は見てはいけなかったのかもしれないが、乙部さんの後ろに座っていた女子がその袋の中身を出した。


当然ではあるが体操服は黄色く染まっていた。僕らの高校の校章も、その下の「高2 乙部」と書かれたネームも、ハーフパンツの学校の名前が書かれたプリントも、まるでペンキをこぼしたかのように色に染まり、原型をとどめていなかった。




それらと床を、周囲の人や先生となんとか処理してぼくは席についた。チャイムがなった。英語の授業は乙部さんのおもらしで打ち切りとなった。




学期末が近いので終わらせないといけない。どうせ試験前は部活動がないんだからということで、今日の放課後に、このクラスだけ特別補講が組まれた。みなは思うことがあるのかもしれない。けれど、先生のいる前では口に出すことは憚られた。





4限の次は昼休み。当然みんなお弁当をたべるのだが、乙部さんの座っていた席の近くの人は席に座らず、そことは反対側の窓側の地べたに座って食べていた。 


しかし、乙部さんのおしっこの匂いが教室全体に未だ残っていて僕はお弁当をなんとか胃袋に押し込んだが、食べた気がしなかった。


そのニオイのもとはなんだろうか。


それは山田くんのサイン入りサッカーボールだった。


ボールは乙部さんのおしっこを吸収して強烈なものを醸し出していた。山田くんはそのことを指摘され、迷った挙げ句、半ば泣きながらその乾きつつあったボールをゴミ箱に捨てた。そして、そのゴミ箱をゴミ捨て場に持っていった。あのボールがなくなると教室から匂いが消えた。






匂いが消えた途端、みなは堰を切ったように話し始めた。 


「乙部さんあれはないよね、、ちょっと引くわ。」


「匂いきつかったなーまいったね。」


「乙部、あれ相当我慢してたな。」


「普通もらすか?高校生だよ。こんなことあるんだね。」





みんなは酷い。


欠席裁判だ。


乙部さんが聞いていたらどう思うのだろうか。補講になった腹いせか?


確かにお昼ごはんは食べた気がしなかった。でも仕方がないじゃん。サッカーボールを捨てることになった山田くんならまだしも、なんの被害も被っていない人が文句を言うのは許せなかった。しかし、そんなこと、この場で言えるわけがなかった。なぜなら僕にも責任があるのだから。





お昼休みも終盤に差し掛かった頃、乙部さんが帰ってきた。


教室が静まり返った。彼女は制服ではなく、体操服にきがえていた。彼女は自分の体操服は濡れていたので、保健室のを借りたのであろう。上下ともにデカデカと「保健室」と書かれ、年季が入っているのだろうか、ヨレヨレになった体操服を来ていた。


校章もかすれ、もはや変色していて、先程の「乙部」というネームがはいったものとは大違いだった。


彼女はお尻を手で抑え、隠していた。ハーフパンツのお尻の名前を書くところに「おもらし用」と書かれてあるのを僕は見てしまった。これでは一目でお漏らししたことがバレてしまう。もっといい服はなかったのだろうか。


彼女は周囲に声を震わせながらお礼を言って席に座った、しかし、みんなは愛想笑いをするだけだ。山田くんは彼女の机と自分の机を少し離して座った。みんなは先程とは打って変わってコソコソと話すようになった。それに彼女は気づいているのだろうか。その顔は涙目になっていた。


現実はもっとひどかったです。。人間は愚かなものですよね。

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