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ヤンキー関ヶ原開幕!

 

 いつもの教室──三人はいつものようにたわいもない話をして、平和な雰囲気だ。

 他の生徒らも楽しそうに会話をしていた。

 そんな雰囲気が一転、突如としてドアが荒々しく開くと共に金髪で剣と盾のヘアピンを付けたヤンキー風な男子が大声を上げた。


「お前らぁぁぁ!!関ヶ原だぁぁぁ!!」

「はぁ?」

「合戦の準備をするぞぉぉぉ!!」

「何言ってんだ?龍尾の奴?」


 ヤンキーな雰囲気を持つ金城と同じクラスメイト龍尾。龍尾は教卓の前に立つと、拳を空高く振り上げて再びクラスメイトに大声で呼びかけた。


「皆の者!敵はここに迫っている!!今こそ立つ上がる時だ!!放課後、学校近くの公園にて集会を行う!!戦う勇気は集え!!」


 と言って、姿勢正しく歩き教室を出て行った。

 嵐のように現れ、嵐のように去って行った龍尾に騒がしかった教室も静まり返ってしまった。


「戦うって何のことだよ?」

「さぁ」


 すると、今度は校内放送で龍尾の声が校内中に鳴り響いた。


『この学校に危機が迫っている!!みんな放課後に近くの公園で集会を──』

『何勝手に放送してるんだ君!!』

『うるせぇ!!学校の危機なんだ──』


 呼びかけの途中で先生が乱入したのか、スピーカーから取っ組み合いが起きてるような荒々しい音が聞こえ、途中で放送は途切れた。

 やはり意味が分からず、今度は学校全体が静まり返ったのであった。


「……意味が分からん」


 *


 放課後、学校近くの公園──


「あ、集まったのお前らだけか?」

「集まったと言うか、話を聞きに来たと言うか」


 呆れ果てた龍尾。そこに集まったのは金城ら三人のみであった。少なすぎる


「何でだ!?何でお前らだけなんだよ!!」

「あんな言葉で人が集まる訳ないじゃんかよ。一体何だよ関ヶ原って」

「学校に迫ってんだよ!関東墨汁連合の奴らが!!」


 関東墨汁連合──何から何まで変な名前に金城と大知の2人は大爆笑をした。


「関東墨汁連合?はっはっは!!ふざけた名前だな!!てか、ここ関東じゃねぇだろ!!はっはっは!!」

「はっはっは!墨汁って!!書道でもしての!?」


 2人が笑い転げている中、龍尾は真剣な顔で説明を始めた。


「ふざけた名前じゃねぇ!!関東墨汁連合はここら辺一帯を縄張りとしている暴走族だ!!」

「ところで、龍尾は何で墨汁連合だっけ?そいつらと決闘する事になったんだ?」


 修吾の問いに龍尾は顔の彫りを深くしながら答えた。


「簡単な話だ。俺の縄張りを侵略したからだ」

「……縄張り?どこが?」

「俺のお気に入りの公園、三角形公園にある俺の特等席のブランコを奪われた。しかも一時間も駄弁っていた。だから、成敗しようとそいつらに背後から飛び蹴りを喰らわしたんだ。そしたら、関東墨汁連合って名乗って、今度ぶちのめすって言ってきたから、俺はその挑戦に乗った!ってなった訳だ」


 その話を聞き、流石の金城も頭を抱えた。


「んな理由でか……」

「うぬ」

「おい、マジかよ!お前ら帰るぞ!」


 呆れ果てた金城は怒りを表しながら2人を連れて帰ろうとした瞬間──

 激しいバイク2台のエンジン音が何処からともなく聞こえてきて、その音は徐々に近づいてきた。


「何だ?」

「奴らが来るぞ……」


 何かを察した龍尾だけ警戒態勢に入った。

 バイクに乗っている人物らが金城らを目視すると、公園内へと侵入して来た。


「あれが関東墨汁連合だ。それも俺が蹴飛ばした奴だ」

「うわぁ、本格派な暴走族だぁ」


 予想ではヤンキーかぶれだと思っていたが、それは見当違いであった。明らかに本格的な暴走族であり、一人はスキンヘッドでサングラスをかけており、耳にピアスを何個もぶら下げていた。もう一人は金髪のリーゼントでタバコを2本も咥えていた。

 2台の真っ黒なバイクに“関東墨汁連合!”と書かれており、特攻服にも関東墨汁連合と筆で書かれていた。

 関東墨汁連合の連中は龍尾とその隣にいる金城らを見ると、声を荒げて龍尾へと指をさした。


「お前、仲間を呼ぶ気か」


 墨汁連合の連中はスマホを取り出すと、咄嗟に金城らを写真で撮り始めた。


「お前ら3人の顔も覚えたぞ!!全連中にお前らの写真を送りつけたから、貴様らも覚悟しろ!」

「え!?俺らも!?」

「逃げても永遠に追い続けてやる!来週楽しみにしておけガキ共!!」


 そう言って男ら二人はそそくさと退散した。

 仲間と間違われ、更に顔写真まで撮られた金城は怒りを表して龍尾の胸ぐらを掴み上げた。


「お前のせいで、俺らが仲間と思われたじゃねぇか!」

「これでお前らも標的になったな。奴らは果てまで追いかけてくる。絶対にな。これで戦う気になったか?」

「……あぁ」


 諦めて顔を沈める金城。

 そんな状態に不安になると共に覚悟した修吾と大知であった。


「結局こうなるのね」

「僕らの命も後少しかな……」


 *


 次の日の学校──授業の時間なのに教室には金城ら四人の姿はなかった。

 委員長は義威子に尋ねた。


「義威子、金城くん達は?」

「さぁねぇ。登校する時は、四人はぶつぶつと何かを呟いていたけどね」

「全く……」


 *


 その頃、授業をほったらかしにして四人は屋上に集結して会議をしていた。

 四人は胡座をかいており、龍尾が意見を出した。


「何か策はあるのか?」

「一つある」

「本当か?」

「あぁ。俺達が真正面から立ち向かっても勝てるかなんて分からん。だが、この作戦なら全員一網打尽だ」

「すぐに取り掛かろうぜ!」


 何も話を聞かずに、屋上を出ようとする龍尾を金城は引き止めた。


「いや、これは俺が何とかしてやろう。めんどくさい奴らは一気に仕留める」

「所で何をするんだ?」

「俺に任せとけって、お前達には被害は出さんから」


 大知の問いにいやらしい笑いで答える金城に修吾は寒気がした。


「嫌な予感がするよ……」


 *


 それから何日か経ち、決戦の日──学校が終わると公園へと行った。

 夕方になり、空はオレンジ色に染まった。あの三角公園にて四人は集結していた。


「て訳で、この日がやって来たな」

「それでみんなどうすれば良いんだ?」

「お前一人で奴らが来るまで立っていろ。俺らは草むらに隠れる」

「え、俺一人で!?関東墨汁連合のサウンドバックになれってのか!?」


 金城に言われて慌てふためく龍尾を無理やり押さえて、話を聞かせるために落ち着かせた。


「落ち着け、落ち着け。お前は立ってればいいんだ。そして適当に話してろ。そしたら、後は俺の作戦で何とかなる。お前は怪我はしないさ、多分」

「……信じるしかないか」

「元はと言えばお前の責任なんだ。一発や二発殴られたって文句は言えねぇからな」

「……うん」

「じゃっ、俺らは隠れているから待ってろよ」


 そう言って3人はそそくさと草むらの中へと逃げ隠れた。

 とにかく言われた通り、龍尾は立って待つ事にした。だが、その姿は緊張しているのか、ずっと小刻みに震えていた。

 そして──


「来たか」


 バイクのエンジン音とコール音が公園へと徐々に近づいて来た。だが、エンジン音は前回とは違っていた。それはバイクの量であり、二つだけだったエンジン音が何十台も聞こえて来たのだ。

 公園に近づいてくる何十台ものライトを灯しているバイク。それはまさに暴走族。軍団が到着した。

 一番前に走っている特攻服を着ているスキンヘッドのリーダーらしき人物がバイクから降りた。そのバイクは赤い文字で“殺”の文字が刻まれていた。


「貴様が俺らに喧嘩を売った奴か?」

「おいおい、マジかよぉ……」


 か細い声で後退りする龍尾。

 リーダーの顔にはナイフか何かで斬られた跡が残っており、激戦を生き残った証があったのだ。その圧の掛かった姿に、完全にビビってしまった龍尾は後退りし過ぎて、ブランコに足をぶつけてそのまま後ろから乗ってしまった。


「俺の名前は嵐山権之助。この関東墨汁連合を束ねる者だ。貴様が俺らに喧嘩を売った事は褒めてやる。俺はどんな奴だろうと容赦はしない。腕が失おうとも、失明しようとも」

「ま、ま、ま、ま、マジぃ」


 今には泣きそうな顔をして、足をガクガク震わせて戦意が一切無くなってしまった。

 草むらで見ている金城らもその光景に言葉を失った。


「あれがモノホンの暴走族か……こえぇな」

「おい、龍尾大丈夫なのか?このまま半殺しどころか、海に捨てられるぞ」

「もう少しで来るはずだ。お?」


 関東墨汁連合が来た方向とは真逆の方向から、何十台ものエンジン音とコール音が徐々にこちらへと近づいて来た。

 そのバイク集団も別の入り口から公園内へと侵入し、龍尾の背後にリーダーらしき黒い特攻服に身を包んだ銀髪の女性がバイクから降り立った。


「関東墨汁連合め、とうとうアタシらと決着を着ける日が来たわね」

「今度は誰だヨォ」


 そのチームの顔には全員赤い星の絵が描かれており、それがトレードマークのようだ。

 暴走族の板挟みになる龍尾。前も後ろも暴走族。

 金城は端から冷静に二人に話していた。


「あれが墨汁連合のライバルの黒眼の豹だ。リーダーは紅羅姫(べにらき)静燐(せいりん)だ」

「急にカッコいいネームが来たな……」

「関東墨汁連合が黒腹市東部を牛耳っているなら、黒眼の豹は西部を牛耳っている。やつらは長年睨み合って、いつ戦争が起きるか分からない状況だが──」

「なんて事を……」


 だが、いきなりのライバル暴走族が現れて、多少困惑している墨汁連合。部下達がざわついている中、リーダーの権之助だけは冷静に対処した。


「決着だと?いつ、誰が言った?」

「あぁ?アタシ宛に手紙が来たんだよ」

「んな、手紙誰も出してねぇよ。今時」


 リーダー同士が言い合っている隙に金城は動き始めた。


「今から動くぞ。大知、準備はいいか?」

「あいよ!」


 金城の合図と共にノートパソコンを開き、何やらキーボードを忙しそうに打ち始めた。


「何してるんだ二人共?」

「同時討ちだよ。実はこの公園には複数の遠隔操作で発射するおもちゃのボーガンが仕掛けられているんだ。このパソコンで操作して一気に両側の軍勢を戦闘に巻き込む!」

「えぇ!?」


 二人のリーダーが状況確認しようと話していると、大知がボタンを押した。その瞬間、各木に設置してある吸盤付きの矢が一斉に放たれて、両陣営の部下が何人も狙撃されてぶっ倒れた。


「ぐわっ!」

「何だ!?」


 攻撃だと勘違いした両陣営は慌ただしくなり、誰が、何で攻撃したか分からず、相手の軍団を疑い始めた。

 リーダー同士も疑い始めて、疑心暗鬼に陥った。


「あんた、まさか奇襲する為に!!」

「俺らはそんな卑劣な事はしない!」


 静燐がバイクから木刀を取り出して、権之助へと突きつけた。

 それに対して権之助も木刀を突きつけた。


「お互いに考えが一致したようだねぇ」

「あぁ、ここで決着だぁぁぁ!!」


 二人が木刀同士でぶつかり合うと、他の部下達も一斉に飛びかかり大乱戦が始まった。


「うわっ!戦の始まりだぁぁぁ!」


 暴走族同士の抗争が始まり、龍尾は金城がいる草むらへと逃げ帰って来た。


「よくやったな!龍尾くーん」

「んな事言ってる場合じゃないよ!戦闘が始まっているんだよ!」

「それで良いんだよ。俺らの事を眼中に無くすにはそれ以上の事を起こすしかない。なら、ライバル暴走族同士をぶつける事だ。町の平和も手に入れて一件落着。それにもう一組来るしな」

「もう一組?」


 そう言うと今度は何処からともなく足並みが揃った足音と、勢いのある掛け声が聞こえて来た。

 その明らかにスポーツ系な声が公園へと近づいて来て、そのまま抗争が続いている公園の中に入って来た。


「あれは?」

「近くの高校のアメフト部だよ。俺が色々と手を回して、ここに呼び寄せたんだよ」


 正体は何処かの高校のアメフト部であり、何故こんな所にいるのか分からない様子で抗争を眺めていた。


「キャ、キャプテン。ここは?」

「ここに盗まれたアメフトボールがあると手紙があって来たんだが……」


 そのセリフに修吾は嫌な予感がした。


「盗まれたアメフトボール。まさか」

「そらっ!」


 嫌な予感は的中し、隣にいる金城は使い古された歴戦のボールをアメフト部の前に投げ飛ばした。

 アメフト部は困惑しながらもボールの前に立った。


「ん?ボール」


 ボールの前にアメフト部が揃った時、金城は拡声器を持って大声で叫んだ。


「キックオーーフ!!」


 その言葉が放たれると、アメフト部のキャプテンが条件反射でボールを暴走族の抗争の中に蹴った。そしてアメフト部全員がこれまた条件反射で一斉に走りだして、暴走族にタックルをかました。

 ヤンキーの抗争にアメフト部まで加わり、大乱戦になってしまった。

 あまりの光景に龍尾は唖然としていた。


「凄え……そんじょそこらの映画でも見れないぞ」

「驚くのはまだ早いぜ。あと少しで来るはずだ」

「な、何が……」

「これを治める最強の軍がな」

「まだいるのかよ……」


 金城を除く4人がこの戦いに釘付けになっていると、暴走族の一人が戦いの最中、声を荒げた。


「おい!奴らは何処だ!特にあの癖っ毛野郎!臆病風に吹かれたか!」


 その言葉に眉間に皺を寄せ、額に血管が浮き出した。


「んだとオラぁ!誰が癖っ毛だオラぁ!」


 怒りを露にして金城は草むらから飛び出し、安易な挑発している暴走族を蹴り飛ばして、他の暴走族やアメフト部を薙ぎ倒しながら、喧嘩に混ざり込んだ。


「お、おい!金城!」

「あの馬鹿!何であんな挑発に乗るんだよ!」

「ダメだ。もう俺らの手にはおえんな」


 更に激しく抗争は繰り広げられ、金城もアメフト部や暴走族相手に一方的に攻撃を仕掛けて、激戦を繰り広げた。

 そして何十分か経ち──

 全員がぶっ倒れており、静かな空間に包まれて戦いに終幕が降りた。リーダー達3人も全員倒れており、金城も戦いに疲れ果てて、仰向けになって空を見上げていた。

 そして公園の中央にはアメフトボールが転がっていた。


「終わったのか?この戦い……」


 龍尾が立ち上がり、一歩前へと歩むと石に躓いて、草むらから飛び出てしまい、公園の中央まで行き、無意識にボールを踏んだ。


「あ、危なかった……こける所だったぜ」


 あわやこけそうになり、冷や汗を掻く龍尾。

 その瞬間──公園に複数のパトカーのサイレンが鳴り響き、パトカーは瞬く間に公園を囲んだ。


『お前らは包囲されている!!暴走族共!」

「え!?」


 パトカーの中から、警棒を持った何十人もの警察が公園に突入し、倒れている暴走族やアメフト部を捕まえた。


「お前が主犯か!!」

「え!?俺は違うよぉぉぉ!!」


 龍尾に何人もの警察が覆い被さり、押し潰されてかけた。


「さっさと歩け!」

「何で俺まで!!」


 金城までも捕まり、パトカーに乗せられた。

 大知と修吾は隠れたまま、ずっと映像を撮り続けていた。


「金城が言ってた最強の軍って──」

「これの事だろうね……」

「バレない内にトンズラしやう」

「うん……」


 二人はそそくさと草むらから出て、その場から速攻でトンズラした。


 *


 次の日──朝のチャイムが鳴っているのに、龍尾と金城の席は誰も座っていなかった。

 気になった義威子は修吾に尋ねた。


「金城はどうしたの?」

「昨日の乱闘に混ざって警察に捕まって、一週間の停学だってよ。龍尾も同じくね」

「馬鹿な子達ねぇ」



作者の一言


見た目は不良でも性格がいい人がたまにいるけど、あれは不良と呼べるのでしょうかね

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