短編集①1.生徒会長の暗躍 2.委員長は何者? 3.校長の威厳
1.生徒会長の暗躍
とある朝、学校では多くの生徒達が登校し、校内も外も賑わっていた。そして学校に到着した金城は眠そうに欠伸をしながら大知と共に登校していた。
「ふぁ〜眠いなぁ。一眼目は英語だろ。俺は寝るわ」
「前寝て先生に殴られたばかりだろ」
「殴られたって痛くなければ問題ないさ」
「耐久力の強い奴だよホント」
そんな世間話を挟みながら呑気に教室へと向かっている二人。
そんな登校している風景を3階のどっかの教室からブラインドをずらして見ている男子生徒がいた。
「ふっふっふ……そうやって笑っているのも今のうちだよ諸君……」
鋭い目つきで生徒を見渡しているのはこの学校の生徒会長であり、静かな個室から覗き込んでいた。
すると──
「あの生徒会長。早く資料まとめるの手伝ってくれますか?」
「あ、うん。ごめん」
部屋にいた丸メガネが特徴の副生徒会長の女子生徒が言うと、生徒会長は素直に従って椅子に座り、資料をまとめ始めた。
呑気にまとめる生徒会長とまじめに手慣れた手つきでまとめている副生徒会長。どっちが生徒会長か分からなくなってしまう。
「朝の朝礼まで後少しですから、後100枚ほど頑張って下さいね」
「はーい」
欠伸をしながら言う生徒会長。その目は何処か元気がなく、適当に仕事をこなしていた。
だが、この生徒会長はまとめながらとある事を思っていた。
(あぁ……こんな筈じゃなかったんだけどなぁ)
実はこの生徒会長、本心で生徒会長になったんではなかった。
(本当は漫画やアニメのような権力のある生徒会を夢見て生徒会に入ったのに、毎日毎日雑用ばかり。意味があるのか分からない校門前のあいさつやら、9割が落書きが入っている意見箱の管理。そして朝礼の資料まとめ……どおりで立候補したら全く誰もいない訳だ)
立候補した時、生徒会長立候補者は誰一人いなかった。
だから、強制的に生徒会長になったのだ。その時は妄想膨らみ、歓喜した。
(先生を凌ぐ権力も無ければ、職員室に匹敵するほど大きな生徒会室もない。それに武力派や頭脳派など、普通の学校ではあり得ない能力を持つ者もいない。そして、可愛い生徒会の子と恋愛もない……か)
一人ため息を吐く生徒会長。だがこの生徒会長、とんでもない能力の持ち主であった。
小学生の頃は日本小学生空手大会において全国3位、そして小学生全国マラソン大会に参加した700人の内、全国17位の成績。全国学力テストでは全国7位。更には小学生の頃は無遅刻無欠席の完璧人間なのだ。
(生徒会長なんてやるんじゃなかったなぁ)
そう思っている生徒会長だが、一緒に仕事をこなしている副生徒会長は違った。
(あぁ〜何で生徒会長は私を見てくれないんだろう。私を見て下さいよ。見て欲しいわ。本当の私を。本当は貴方と一緒に居たいから生徒会に入ったのに……)
複雑な二人の思い──
副生徒会長の眼鏡の奥から見える綺麗なビー玉のような瞳。その瞳に生徒会長が気付く日は来るのだろうか?
2.委員長は何者?
とある日の朝──1限目前の休み時間で、生徒全員が呑気に話などに洒落込んでいた。
金城が蓮や大知と話しているとそこに綺麗に整った長髪の清楚な女子生徒が金城の前に腕を組んで立った。その顔は怒っている顔であるが、金城は表情を変えずに対応する。
「金城君、昨日言われた宿題ちゃんとやった?」
「あ、委員長。宿題は忘れちった。家に忘れちゃったな」
彼女は金城のクラスのクラス委員長である。
清楚で真面目な性格で女子からも男子からも人気であり、先生からも信用されている生徒である。
「また?先週も同じ事言ってたじゃない」
「やったっちゃあ、やったんだよ!明日に出すからさぁ!」
「本当ね、出さなかったら居残り掃除よ」
「分かりました〜」
「必ずよ」
「へーい」
金城が適当に答えると委員長は不満気に自分の席に戻って行った。
蓮は委員長が席に戻ると、金城へと言う。
「委員長って校門のゲートが開く前からいるらしいし、帰るのも生徒が全員帰ってから帰るらしいよ」
「俺は一番最後に登校して、一番最初に下校するけどな」
「それはあまり良くないと思うけど……」
そして1限目が始まった。
国語の授業は先生が気弱な先生なのか、先生が色々と言っている中、大勢の生徒が授業に集中せずにお喋りをしていた。
委員長や修吾くらいは真面目にノートを取っており、金城は机に足を乗っけて隣の席の大知と話していた。
「今日の給食なんだっけ?」
「ゴーヤチャンプルーじゃなかったな」
「俺、ゴーヤチャンプルー苦手だな。お前にあげる」
「嫌だよ俺だって」
「なら、修吾に言ってやるか」
金城は机の中から適当なプリントを取り出して、“ゴーヤチャンプルーをお前にあげる名誉を送る”と汚い字で書き丁寧に折った。そして作り上げたのは紙飛行機であった。
それを先生が黒板に向かって書いている時に、投げる構えをして前方に座っている修吾に向けて投げた。
紙飛行機はうっかりと修吾の後ろに座っている委員長の机の上に落ちた。
「ん?」
そのプリントを開くとそれは昨日の宿題のプリントであり、金城は家に忘れたと言っていた。もちろんプリントには何も書かれておらず、手を一切つけてなかったのだ。それにプリントには修吾宛に書いたゴーヤチャンプルーの下りも書いてあり、その文章を見て、委員長の眉間のシワが一気に露となった。
そして怒りが沸々と溜まりだした委員長はプリントをくしゃくしゃに握りしめて勢いよく立ち上がった。
そして──
「黙らんか!!クソども!!」
「!?」
委員長の柔らかな声とは真逆なドスの効いたヤンキーのような声に全員が静まり返り、みんなの注目が委員長に集まった。
金城がいきなりの委員長の発言に驚きを隠さず、話しかけるが──
「あ、あの委員──」
「うっせぇんだよぉ!!このボケ問題児が!!」
委員長は大きな足踏みをして金城の前に立ち、胸ぐらを掴み上げた。
「おい!!」
「は、はい……」
「宿題毎日忘れやがってよぉ!!あたしの気持ちになってみろや!!」
「は、はぁい……」
「それに字を持った読める字で書けや!」
金城もヤンキーさながらのガンを飛ばされて、縮み込むように黙り込んだ。
そして委員長はいつもの優しい笑顔に戻って先生に言う。
「じゃ、先生続きをお願いします」
「は、はい!」
先生は恐怖に慄いて、震えながら文字を読み、黒板を書き始めた。
教室の雰囲気も深く沈み込み、誰一人休み時間まで喋らず、誰も委員長の事を外部には話す事はなかった。
3.校長の威厳
ある日の学校──
「失礼しま〜す」
そう言って金城が高級そうなドアを適当に叩いて、返信がないのにその部屋へと入って行った。
その部屋は広く、綺麗で高級そうな皿やトロフィーが飾ってあり、中年のおっさんの白黒写真が大量に綺麗な額縁に入れられて一列に飾られていた。
ここは校長室──金城の目先にいる椅子に座った小太りな中年こそが、この中学の校長である。
「また君かね、金城君。今度は何をしたのかね。自分の口で言ってみなさい」
「えぇ〜っと、ここ最近なら友達と遊んでこの学校の設立者のおっさんの石像を壊した事と、野球部のボールを全てゴムボールにすり替えた事と、上級生を階段から突き落とした事くらいですかね」
そう言うと校長は険しい顔へと変え、机を強めに叩いて金城へ語りかけた。
「私は君の未来を壊したくはないのだよ。そんな事は子供から誰しもやるだろう。だからこそ私は許す。更生するまで待つだけだよ」
「はい」
「ただ怒るだけが教育じゃない。静かに風の流れをただ感じるように立ち尽くし、その風が次は何処に行くのだろうか。それと同じで、君の生き方をただ見つめて、君がどのような大人になるかを私は考える。道を外したら、元に戻るのは難しい。だから、辞めてくれ」
「はい」
金城は素直に頷いた。
そして校長は引き出しから一枚の紙を取り出して、机の上に置いた。
「この誓約書に今日もサインしてくれ」
「はぁい」
金城は胸ポケットからシャーペンを取り出して、誓約書にサインをした。
誓約書にはもう二度と悪さをしないと違う契約的なことが書いてある。ちなみに金城はこれで37回目となる。
「用が済んだら出て行きなさい」
「はい」
「私は君を信じている」
そのキラキラと凛とした目から訴えられる言葉に金城は軽く頷いた。
そして軽く頭を下げて、校長室から出た。金城の額からは冷や汗を掻いていた。
「ふぅ……威厳のある顔だなぁ。あ」
金城が立ち去った後の校長室──校長は立ち上がり、大きな棚を開け、一つの横長いタンスを引いた。その中には金色に輝くゴルフクラブが入っていた。
傷一つ無く、眩き輝きを解き放っている。
校長はそのゴルフクラブを見るなり、綺麗な布で優しく磨き始めた。
「う〜ん。私の相棒。君が一番だヨォ」
ヒール部分に何度も拭いてはキスをかまして、何度も拭いてはキスをする事を繰り返した。
そして校長はクラブを持ってスイングする体勢を取った。
「こう見ても私は中学校校長会のゴルフコンペで全国1位なんだがね!今週もあるから生徒を追い払って1秒でも早く練習をしたいのだよ!我が相棒で──」
と言ってクラブをスイングしようとした瞬間──
コンコンコンとドアを叩く音が聞こえた。
「うっ!」
いきなりの音に動揺してスイングがおかしくなり、勢いの良いままクラブのシャフト先端が地面に変な風に当たってしまい、先っちょが折れた。
折れた先端はそのまま校長室内の壁に激しくバウンドしまくり、一度ドアにぶつかるとそのまま校長の脳天に直撃して、ゴミ箱にホールインした。
校長は白目になって力なく椅子に座り込むように倒れた。
そしてそのまま椅子は勝手に動き、校長の顔は窓際へと向いた。
「もう一度失礼しま〜す。シャーペン忘れてたんで……」
金城が再び顔だけ覗かせて校長室へと恐る恐る入った。
そこには椅子に座り、窓を静かに見つめる校長がおり、背中で言葉を語っているかのような威厳のある光景であった。
本当は気絶しているだけだが、金城はもう二度と悪さをするんじゃないと語っているように見えた。
シャーペンをゆっくりと取ると金城はそそくさと校長室から出て行った。
「失礼しました!!」
ドアを閉めると額からは冷や汗を掻いており、あの校長の背中が目に深く焼きついた金城であった。
「やっぱり凄えなあの校長……威厳があるなぁ」
威厳を守り通した校長。金城がいる限り、校長の苦労は絶えないだろう。
作者の一言
小学校・中学校・高校と上がっていく度に、校歌を歌詞が記憶に残らないのは気のせいですかね?