ただ、文を紡ぐ
「ありえない...ありえないありえない!」
眼前に広がる知らない街に、ようやく意識が、混乱が追いついてきた。
「本当にイライラしてきた」
自分を置き去りにして発生する怪現象に行き場のない怒りが襲ってくる。
「うぅ...」
ただ驚いていても仕方がないので、周りを探索してみる。
「どこなんだろうかここは...」
どこかがわからないことには帰り方もわからないので、通行人に聞いてみる。
「あのー...すみません。ここってどこだか教えていただけたりしますか...?」
「え?あんた今そこの家から出てきただろ。人をからかうのも大概にしてくれ。こっちは忙しいんだ。」
「で、ですよね!ごめんなさい...」
(教えてくれたっていいじゃん!)
そう思いながらもごもっともだなと思いながら落ち込んでいると、
「おーい!そこのお姉さん!」
自分を呼びかけている声にくるっと振り返ると
(!?)
件の少年、ケールが居た。
(えー!なんでなんでなんでなんで!?!?)
「?どうしたのお姉さん、知りたいことがあるんじゃないの?」
こちらの混乱も知らず、少年は話し続ける。
「い、いや、大丈夫です!大丈夫!」
「?そう?じゃ、僕の家あそこだから、なんかあったら呼んでね。ばいばい!」
そういうと少年は駆け足で民家に入っていった。
「あ...」
その家は間違いなく、きれいではあるが、森の中の古家そのものだった。
「そういえばここ...」
森の中に位置するここは、街というよりは村、集落という言葉の方が似合った。
(あの周りの残骸って...)
もしこの考えが合っていたら、ここは間違いなく1920年以前ということになる。
(本当にもうヤダ...)
頭に浮かんだそんな最悪の考えを振り払うように、周りの声に耳を傾ける
...グレイシャッハ...
「!」
グレイシャッハ、この国の皇族の名前である。
(懐かしい名前...)
少し冷静になり、家に戻る。
幸い、家にはペン、紙、そしてなぜか切れかけのインクもある。
どうもしようもないので、しばらくは割り切って暮らしていくしかないか。と開き直る。
コンコン。
ドアを打つ音が2つ
「はーい、今開けます」
「すみません、手紙を書いていただきたいのですが」
そうか、こんな見ず知らずの場所でも手紙を求める人はいる。
ならば、やることは一つ。
私は物書きなのだから。
ただ、文を紡ぐ。