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リリーとログハウス  作者: 吉永
2/3

少女-1

「また雨か...」

最近、ここら一帯では連日豪雨が降っている。

雨は嫌いではないが、こうも続かれると気が滅入ってしまう。

「インク、あと少ししかない、、、」

物書きにとってペン、紙、そしてインクは生命線である。

これらがなくなってしまい、買いにも行けないとなると、私は野垂死んでしまうだろう。

餓死はいやだな、とそんなくだらないことを考えているときに不意にドアが叩かれた。

「はいはい。今出ます」

そろそろ変えようと思っていた建付けの悪いドアを開くと、そこに立っていたのは

「えー...シャワー使いますか?」

傘もささずに雨に打たれる少女の姿だった。

________________________________________

「紅茶とココア、どっちがいいですか?」

「じゃあ...ホットココアを...」

外に立っていたのは、年端も行かない少女だった。

まだ12.13ぐらいだろうか、こんな雨の中一人で歩き回るのは厳しいように思える。

「それで、お嬢ちゃんは雨宿りをしにきたんですか?」

「いや...お手紙を書いてもらいにきたの。」

私、リリーは物書きをしている。

物書きとは言っても、小説を執筆するわけではなく、手紙を書く事を主としている。

この国は識字率がとても低く、様々なシーンで活躍する物書きは、とても良く頼られる。

「そうなんですね、じゃあ早速で申し訳ないんですが、伝えたい内容を教えていただいてもよろしいですか?」

「実は---」

________________________________________

内容は簡単だった。

隣の家に住む男の子、ケールくんに気持ちを伝えてほしいという依頼だった。

「さてと...」

私の仕事は、書いて終わりではない。

手紙を書いた後、それを届け先まで届けてやっと終わりだ。

数日後、雨はどんよりとした空気とぐじゅぐじゅの土壌だけを残して去っていった。

「ここのはずなんだけど...」

町外れにぽつんと建っていたその家の、比較的あたらしめの木製のドアをノックする。

木を打った音が二つ上がり、沈黙が流れる。

「あれ?留守ですかね。」

返答はなく、鳥の劈きが虚しく空に聞こえる。

「失礼します...」

ドアノブに力を込めぐっと押すと、それは予想に反し簡単に開いた。

「家、間違えちゃったかな、、、」

家に入ると、そこは埃を被り蜘蛛の巣が張った、まるで生活感のない部屋だった。

家を出て、もう一度たしかめてみようとしたその時、

目に一冊の本が止まった。

それは机の上に置いてあり、全体的に灰色掛かった表紙が埃のせいでさらに汚く見えた。

開いてみると、中には絵が書いてあった。

乱雑でかろうじて内容の理解できる、幼い絵だ。

たった一ページだが、中には少年と少女が楽しそうに遊んでいる絵が書いてあり、その絵に少しの既視感を覚えた。その絵は、雑ではあるがなんともいえぬ雰囲気を感じた。

「長居しすぎちゃったな」

そろそろ出ようと玄関をくぐった瞬間

「ひっ!?」

そこは森の中だった。

________________________________________

「え、ど、どこ?」

眼前に鬱蒼と繁る木の中に、点々と光が見える。

先程まで昼だったはずの空は、もう月が上り視界が悪くなっている。

曇天は更に雲を宿し、心地の悪いぬるい風が肌に感じられた。

「どうなってるんですか...は?」

そんな現状に落胆していると、一筋の光が目の前に見えた。

その光はまるでついて来いとでも言いたげに上下しており、常に淡い光を広げていた。

「えー...やだなぁ...」

驚くほど不気味ではあるが、光源があるのはありがたい。

今はこの光に従おう、と判断した。

同行の意思を見せると、心なしか光は嬉しそうに上下した後に進み始めた。

気が重くなりそうな森、歩いているだけでも辛く、帰りたくなるような空気。

そんな中ただ一筋の光を頼りに歩くというのはなかなか辛いものがあった。

________________________________________

「止まった...って」

光に導かれ、ついた先は墓地だった。

「一体全体なんでこんなところに」

その状態はお世辞にもいいとは言えず、大抵の墓石は苔むしていた。

早く帰りたいなと歩き回っていた時、目に一つの墓石が止まった

「これってもしかして、、、」

そこには”ケール.メゾワル 1920/2/3”

と表記があった。

つい先程まで訪問していた家の表札にもメゾワル、と確かに書いてあったはずだ。

この国に表札があることにびっくりしたが、なるほどこんな昔の人だったとは。

しばらく考え込んでいたその時

「っ!...え?」

不意に背後に気配を感じ振り返ると、そこには、あの絵に描かれていた少年に似た一人の男の子が立っていた。

顔に生気はなく、色は白い。

覇気がなく、今にも泣き出しそうな表情をしている。

「お姉さん...だれ?」

そう聞かれ、一瞬思考が止まるが、すぐに持ち直す。

どうすればいいのだろうか、逃げるにしてもどこに?

苦しみたくないな、そんなことを考えていると

「僕の場所に入ってこないでよ...!」

少年は語気を強めて言った。

(招かれたんですけど!!!)

周りを見渡しても先の光はいない。

その代わり、おどろおどろしい赤黒い光が、少年の体から漏れ出ていた。

(これ、このままだと死ぬ?)

そう確信を持った私は----

とりあえず逃げた。

---------------------------------------

「ひー、帰らせてーーーーー」

額にとんでもない量の汗をにじませ、顔を真っ青にしながらそう言い放つ。

そのままその場にへたり込んでちょっと泣いた。

「こんな走らなくても済むようにいっぱい勉強したのに...」

親と喧嘩しながらも選んだ文学の道、仕事も波に乗ってきていい感じだったのに...

しばらくそうしてうつむいていると、目の前になにかあるのに気がついた。

「あ」

先程の光だった。

異常ではあるが見覚えのあるものに落ち着きを覚え、少し冷静になる。

「こうしてても何も起きないよね」

よし!と決心をし、立ち上がって周りを見渡すと、眼前には先程の古い家が在った。

いつの間にか戻ってきたのだろうか、体も疲れているし、少しお邪魔して休ませてもらおうと思い、ガチャと戸を開ける。

(手紙を届けに来たら森の中で、変な人がいて...)

いったいなんなんだ、と思いつつまぶたを閉じて考えていると、うつらうつらと意識が水面と融けていった。

---------------------------------------

「...?」

妙な感覚がして目が覚める。

目が覚めるとそこは先程まで居た古い家ではなく、見覚えのあるログハウスだった。

香りのいいアロマ、インクの匂い、机のガラスペン、それらの情報が、間違いなくリリーの家であるということを示していた。

(気味悪い夢だな...)

そう思いながらコーヒーを淹れると、何やら外がガヤガヤうるさいことに気がついた。

いつの間にか陽も射していて、すっかり晴れたようである。

(新鮮な空気を吸いたい...)

ガチャリ、戸を開けて外に出るとそこは----

「は?」

見覚えのない、知らない風景だった。

家にかかった表札、看板、手紙のイラスト、そのすべてがリリーの家であることを示している、しかし、それ以外は知らない道、知らない隣家、知らない庭。

知らない街。

おかしすぎることが起こると人間逆に冷静になるとはよく言ったもので、理解を超えたことが起きている中、リリーの頭の中は一つのことしかなかった。

(この仕事、辞めよ)

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