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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

とりあえず書いたシリーズ

若き公爵へと向ける彼女の愛は異形である


 大陸東にある大国、グリモワール王国には有名な貴族の家があった。


 フレイトゥナ公爵家と呼ばれる由緒正しき貴族家である。


 何が有名なのかと問われれば、フレイトゥナ家を知る者は口を揃えて『当主が凄い』と言うだろう。


 この家の当主は嘗て大陸を闇で覆った悪魔を倒した英雄の血を引いているのだ。


 庶民出身の男が剣を手にして悪魔をばっさばっさと斬り倒し、遂には悪魔を統べる大悪魔を討伐。所属していたグリモワール王国から公爵位を授かったのが家の始まり。


 初代当主である英雄は当時の王国第三王女と結婚。


 王女は降家となったものの、恋愛の末に結婚となって大満足。当時の王も英雄と王家の結びが出来て大満足。英雄も一目惚れした王女と結婚して大満足。


 結婚した両人、王家、国民。誰もが大満足のまさにハッピーエンド。王家公認の英雄譚として500年も前から絶賛売り出し中である。


 英雄の血を引く現当主の名は――エルビオ・フレイトゥナ。


 今でも国民から愛される英雄譚の主人公の血を引くエルビオは若くして当主となった。


 理由は先代である父が病で早くに亡くなったからだ。母親も彼が幼い頃に亡くなっていて、フレイトゥナ家が残るか否かは彼の手腕にかかっている。 


「エル様。時間がございませんよ。馬車の用意が出来てございます」


 エルビオを階段の下から呼ぶのは古くから家に仕えるセバスチャン。口髭がダンディな先代を支えた老執事長であった。


 当主であるエルビオは今年で20歳。若いながらも先代に劣らずよくやっているとフレイトゥナ家で勤める者達は評価する。


 学園は主席で卒業して今では王城文官のエースであり、次期経済部門の長になるとも囁かれるほど頭が良い。


 それでもセバスチャンは心配が絶えなかった。


 何故なら――


「ああ! すぐに行くから――ほわあああ!?」


 彼は致命的なほど運動音痴だった。階段手前、何もない床の上で自分の足に足を絡ませて転げ落ちそうになるくらいには。


 英雄の血を引いて、先代当主は誰もが騎士となって大きな武功を挙げるほどの家系なのにも拘らず。


 優れた頭脳を持っていたとしても、日常生活でも絶望的なまでの運動音痴。うんちである。


 先代当主である彼の父が心配して治癒師に高額な費用を払って体に異常が無いか調べた事もある。


 だが、結果は異常無し。ただの運動音痴。極限までの運動音痴。勉強は出来るけどどこか抜けているタイプの人。


 顔良し、背丈良し、頭脳良し、性格温厚。が、運動神経はクソ以下。


 騎士を目指して剣を振れば、振った剣で自傷しそうになる。エルビオに残された道は勉強だけだった……という辛い人生を歩んできた。


「エル様!」


 そんなエルビオが今にも階段から顔面ダイブしそうなっている。


 セバスチャンは顔を青ざめた。


 終わった。絶対に首の骨をやって終了。フレイトゥナ家の血が絶える!


 と、なる事は無く。


 セバスチャンの後ろから高速で走り込んだ者がいた。


 それはメイド服を着た赤髪の女性。エルよりも1つ年上であり、皆からはクレアと呼ばれる女性だった。


 彼女はエルビオが落下する地点へで両手を広げながら待ち、落ちてきたエルビオをしっかりと受け止める。


「今日も変わらず危なっかしいですね」


 大の男が落ちて来て、それを受け止めたにも拘らず体勢すら崩さない。しっかりとエルビオをキャッチしたクレアは彼の体を抱きしめ、綺麗な茶色の髪を手で撫でながら言った。


「ご、ごめん。ありがとう」


 キャッチされたエルビオは年相応に男らしくなった顔を少年のように赤らめ、慌てて彼女から離れようとした。


 ……が、離れない。エルビオが女性の体を堪能しているのではなく、逆である。クレアがエルビオを抱きしめたまま離そうとしない。


「ウオッホン! エル様。時間が」


 傍で見ていたセバスチャンの咳払いでようやく解放。


 抱きしめていた張本人は悪戯する少女のような顔で「ふふふ」と笑い声を漏らす。


「エル様。身なりを整えますね」


 解放されたものの、再び彼女の腕がエルビオへと伸びた。


 乱れた服を直され、髪を整えて。最後に頬に手を当てられながらニコリと微笑む。


「はい。いつも通り、カッコイイですよ」


「う、うん……」


 このやり取りはほぼ毎日行われているが、幼少期からエルビオは彼女にドキドキしっぱなしであった。


 綺麗な赤い髪を後ろで纏めて、王国王女にも負けぬ美貌の持ち主。そんな女性の顔が超至近距離にあるのだ。ドキドキしない男などいるものか。


「さぁ、行きましょう」


 セバスチャンからエルビオの鞄を受け取ったクレアは主である彼を馬車まで先導。


 一緒に馬車へ乗り込んで王城まで共に出勤する。


「毎日一緒に行かなくても良いんだよ?」


 王城で働く貴族がメイドや執事と共に職場へ向かうのは珍しい事じゃない。エルビオはクレアの予定も気にして一人でも構わない、と言い続けているのだが……。


「何を仰っているのですか? 1日でも転ばない日を達成してから言うべきですよね。今日も私が控えていなかったらとんでもない事態になってましたよね?」


「うん……。ごめん……」 


 彼が転ばぬ日は無い。幼少期からそうだ。1日家の中にいたとしても、廊下や部屋の中で転ぶ。


 対し、クレアは彼と真逆だった。クレアの方が英雄の血を引いているのでは、彼女は次の英雄なんじゃないか、と噂されるほどの運動神経を持つ。


 幼少期の頃からどんな状況であろうと主であるエルビオを救い続けてきた。彼女がエルビオを命の危機から救った事など片手じゃ数えきれないほどだ。


 反省するエルビオを見て、クレアは悪戯好きの少女のような笑みを浮かべる。


「ふふ。しょうがない人ですね」


 こうしてクレアが彼の事を笑えるのも幼少期からの付き合い故か。どこか姉と弟のような関係性であると、2人をよく知る者なら見えるかもしれない。


 王城に到着して御者が馬車のドアを開けるとエルビオの雰囲気は一変。


 デキル公爵様モードに切り替わる。彼の一歩後ろに控えて鞄を持つクレアもまた主に忠実なメイドモードに切り替える。


 公の場では屋敷と馬車の中で見せていた関係性を隠す。これは貴族であり、公爵家ともなれば自然な事だろう。


 とは言え、2人の内心では――


(転ばないように、転ばないように!)


(ふふ。今日も王城では転ばないように注意してるんだろうなぁ)


 と、どちらもいつも通りであった。


 廊下ですれ違う文官や貴族と朝の挨拶を交わしながら、エルビオが働く部署に到着するとクレアは鞄を彼に手渡した。


 クレアが付き添えるのはここまで。さすがに仕事中までベッタリとはいかない。


「今日も一日、お気をつけ下さい」


 お仕事を頑張って下さい、じゃないのはクレアらしいか。


「うん。ありがとう」


 しかし、いつもの事。エルビオは気にせず爽やかな笑顔でクレアに感謝を述べると仕事場へと入って行った。


「おはよう、エル」


「うん。おはよう、ライル」


 仕事場である室内に入ると、4つの執務机の1つを占拠するのは学園からの親友であるライル。


 彼は侯爵家の長男で次期当主。家の格は劣るものの、エルビオにとって唯一心を許せる男友達だ。


「今日もクレアちゃんの送迎?」


「そうだよ」


「今日はどうだったんだ?」


「階段から落ちそうになった」


 あー、と声を漏らすライル。学園に通う頃からエルビオを知る彼は容易にその場面が想像できた。


 朝の一幕を想像し終えたライルは思い出したかのように話題を変えた。何たって今一番ホットな話題だ。


「エル、聞いたぜ。マイナ様からアプローチされたろ?」


 マイナ。それは王国の第四王女である女性の名だ。


 彼がこの話題を出した理由は昨日の夕方、マイナ王女がエルビオと仲睦まじく話し合っていたという場面を貴族の1人が目撃したからだ。


 マイナ王女はまるで恋する乙女のような目でエルを見つめ、休日の予定を聞いていた……などと1日も立たずに噂が広まった。


「違うよ。休日は何をしているか、と聞かれただけだよ」


「それをアプローチって言うんだよ。このイケメン公爵様め」


 周りがどれだけ噂を立てようとも、エルビオにとっては世間話程度の認識だった。


 それもそのはず。彼が王女に夢中になる事はない。


「さっさとクレアさんを嫁にしたら?」


 そう、エルビオはクレアに恋している。ずっと昔から。幼少期に出会った当初から。


 しかし、公爵家の当主がただのメイドを嫁にするという行為は王国貴族としてあまり褒められるような行動ではない。


 妾ならまだしも、正妻となれば難しい。 


「俺は周りの目なんて気にしないで良いと思うがね」


 唯一、エルビオの好きな相手を知っていて、理解を示してくれるのがライルだった。


 彼は誰と結婚しようが、本人同士が幸せになるのが一番であると背中を常に押してくれる有難い人物だ。


「いや、でも……。そもそも、クレアが僕を好きかどうかも」


 ただ、理解のある友人が傍にいたとしても本人に意気地がなければどうしようもない。


 幼少期の頃から共に過ごした2人は姉と弟のような関係が長く続いたが故に、自分はクレアを愛しているがあちらは手が掛かる弟のようにしか見てないんじゃないか。


 今朝の出来事を思い出してもエルビオ本人にとっては、姉が弟を可愛がっているように思えてならなかった。 


「これだからやってらんねえ。エル、お茶淹れてこい」


「……はい」


 他人にとってはそう見えなかったとしても、本人がそう思ってしまうのは仕方がない。


 しかし、ライルが自分達を見てじれったいと抱く気持ちも理解できてしまう。


 エルビオは次期侯爵閣下の命令を潔く受け入れた。



-----



 一方、屋敷に戻ったクレアもメイド業務を再開。


 公爵家として執事やメイドは多数雇っているものの、メイドの中では一番の古株であるクレアには様々な仕事が待ち受けている。


 新人メイドへの指示、各所掃除済みになった場所のチェック、執事長であるセバスチャンとの打ち合わせ。


「クレアさん、本日もありがとうございます」


 御用商人が屋敷に届けてくれる食材や雑貨など、そういった物をチェックするのも彼女の仕事だ。


 ただ、今日は御用商人が来る時間がいつもよりも遅かった。遅いからといって咎めるわけではないのだが、何かあったのか? とクレアは問う。


「ああ、昨晩に西区で殺人事件が起きましてね。今も騎士様達が聞き込みや荷物のチェックをしているんですよ」


 昨晩殺された死体が朝になって発見され、通報を受けた騎士団が調査を行っているという。


 悪魔と戦争していたのは数百年前。平和になった今、悪魔と戦っていた頃よりも遥かに死人の数は減った。


 残念な事に悪魔の脅威が去ったとしても、次に悪さを始めたのは人間達。平和な王都の中でも殺人事件が発生する事は珍しくない。


 というのも、殺人事件は今月に入って既に5件目だったからだ。

 

「1人1人止めて荷物のチェックを?」


「ええ。今回、殺されたのはお貴族様だったとか」


 殺されたのが貴族ともあれば、騎士団が入念な捜査を進めるのも当然か。


 王国において貴族殺しは最大の罪に値する。一般人が殺されるよりも罪は重い。犯人に待っているのは拷問による死だろう。


 ただ、一口に貴族殺しといっても色々ある。


 怨恨、殺し屋の犯行、男女関係。そういったゴシップは庶民達の娯楽でもあるが……。


 殺されたのは暗い過去も無く、叩いても埃が出ない綺麗な貴族であった。


「犯人はこの前の事件を起こした者と同一犯なんじゃないかって噂されてますよ」


 そう庶民の間で噂されるのも無理はない。


 最初に死体を見つけた者達が囁いた話を統合すると、5件とも殺され方が一緒のようだ。


 どれも心臓を抉り取られて殺されたようで。所謂、連続殺人犯というやつである。


 庶民の間では人の心臓を集めて悪魔を復活させようとする邪教の仕業なんじゃないか、と言い出す者まで出ていると男は小声で言った。


「怖いですね」


 世間話の1つとして話題になった殺人事件。怖い怖い、と感想を言い合ったところでチェックも終了したとあって話は終了。


「それでは、また来週に」


 御用商人を見送ったクレアは買い付けた商品が入った箱を持ち上げながら、


「殺人事件、ねぇ」


 殺された貴族の名に心当たりがあった彼女は少しだけ口角を上げた。



-----



 夕方までに屋敷の仕事を終わらすとクレアは再び馬車に乗って王城へ向かう。


 主であるエルビオの迎えだ。玄関で公爵家の印を見せて上の階へ。エルビオが務める経済部がある3階へ向かう。


 途中、2階の踊り場で豪華なドレスに身を包む女性と彼女を護衛するように囲む男達に出会う。


 クレアはサッと階段の隅に寄って、一行が通り過ぎるまで頭を下げる。


「貴女はフレイトゥナ家のメイドでしたわね」


 声を掛けたドレスの女性。それはこの王国の王妃であった。


 王妃から声を掛けられたとしても、顔を上げてはいけない。彼女はしっかりと()()()を守る。


 顔を上げないままクレアは「はい」と短く返事した。


「元気にしている? エルビオにもよろしく伝えて頂戴ね」


 公爵家、それも英雄の系譜となれば王族からの憶えも大変よろしい。その家で働き、当主を支えるべく傍にいる事が多いクレアの事も覚えていて当然か。


「はい。ありがとうございます」


 フレンドリーな声音で気さくな王妃に対し、やや声の固いクレア。身分が違うから当然だが、彼女の声には感情が乗っておらずどこか無機質にも感じられる。 


 頭を下げ続けるのは王妃の姿が完全に消えるまで。消えるまで時間にして30秒程度、ようやく気配が無くなるとクレアは頭を上げて階段を再び登り始めた。


 途中で邪魔は入ったものの、ようやく3階に到達。時間は定時の1分過ぎ。


 早足で廊下を進み、曲がり角を曲がると――


「エルビオ様。今度、一緒にお出かけしませんか?」


「た、大変嬉しいお誘いではありますが、出かけるには陛下や護衛騎士に予定を伺わなければ……」


 なんとエルビオに急接近している少女がいるじゃないか。


 正体は王国第四王女のマイナ。彼女は頬を赤らめながら、ちょこんとエルビオの服の裾を摘まんで。


 男から見れば随分と可愛らしい仕草だ。廊下を行く文官が羨ましそうにエルビオとマイナのやり取りを見ている。これではまた噂が広がるのも時間の問題だ。


 しかし、今のクレアはただのメイド。主と主へアプローチする女性の会話を邪魔してはいけない。


 曲がり角を越えた壁を背に会話が終わるまでじっと待つ……つもりだったが。


「クレア」


 エルビオがクレアに気付き、彼女の名を呼んだ。呼ばれてしまっては無視するわけにもいかず、クレアはサササッとエルビオの近くまで歩み寄る。


 彼がクレアに視線を向けているからか、マイナは露骨に嫌な顔をした。彼女の表情に気付くのはクレアだけ。愛しきエルビオ様には見させぬ狡猾さ。


「屋敷で仕事もあります故、お話はまた今度ゆっくりさせて下さい」


 エルビオは冷や汗を掻きながら、マイナとの会話を切る為に公爵家という単語を盾にして強制終了を図る。


「本当ですか? 今度、絶対ですよ?」


 マイナはくりくりとした大きな瞳を潤ませて。とても残念です、寂しいです、と小動物のようなオーラを醸し出す。 


「ええ。本当です。では、失礼します」


 しかし、エルビオには効果が無かった。そりゃそうだ。彼の想い人は他にいる。


 主が廊下を歩き出した事で、クレアもマイナに礼をしながら「失礼します」と口にしようとした。


 が、その前に――


「チッ。邪魔しないでよ。メイドのくせに。グズ――」


 クレアにしか聞こえぬようにマイナはとても小さな声で文句を呟くが、途中で彼女の()は何かを感じ取ったのか言葉を止めてクレアを見つめた。


「ふん」


 しかし、それは一瞬の事。マイナの顔はまたすぐに不機嫌そうな顔に変わる。


 クレアからしてみればなんて理不尽な文句だろうか。クレアはしっかりと()()()を守っているのに。


 しかしながら王城で、しかも王家とされる彼女に文句は言えぬ。クレアはしっかりとルールに則って作法通りにメイドとして立ち去った。


 少々遅れ気味だった事もあって早足でエルビオに追いつき、彼が階段で転ばぬよう背中を見守りながら馬車へと向かう。


 馬車に乗り込み、エルビオと対面となって座るとクレアはいつも通りのエルビオへと向ける笑顔を浮かべながら告げる。


「随分と熱烈なアプローチを受けていましたね」


「え、え? な、なにが?」


 クレアの一言に焦りながら言ったエルビオが内心は面白くてしょうがない。しかし、ここは悪戯心をくすぐられた事もあって声のトーンは変えずに畳み掛ける。


「マイナ様に言い寄られていたではありませんか。どこかに出かけよう、と」


「あ、えっと……」


 聞いていたのか、とでも言いたげな表情をしながら目を泳がせる器用なエルビオに今にも噴き出しそうだったが、ぐっと我慢。


「良いのですか? せっかくの誘いでしたのに。相手は王家のお姫様で――」


「やめてくれ」


 クレアが言い切る前に、エルビオはいつもより大きなボリュームで遮った。


「僕はマイナ様と関係を持たない」


 ハッキリ、キッパリと。エルビオは真剣な顔でクレアを見ながら言った。


 お姫様と結婚したらどうですか?


 そのようなセリフは彼からしてみれば苦しすぎる。しかも、それが好きな相手から言われたとしたら地獄のような瞬間に違いない。


 エルビオは最も聞きたくない言葉を言わせまいと遮った。


 彼が欲しい言葉はもっと別の事。マイナが言った言葉全て、クレアが言ってくれた事だったら良かったのにとさえ思ってしまった。


「失礼しました」


「いや、僕こそ、急にごめん」 


 彼はキャビンの窓に視線を逸らし、気まずそうな表情を浮かべた。


 ガラスに反射する彼の顔は王都の街並みを見て気を落ち着かせているようだ。


「…………ッ」


 その隙にと言わんばかりに。


 クレアの口角がピクリと反応して、一瞬だけ笑みを零した。彼女はそれを隠すようにメイド服のスカートを握りしめて表情を変えぬよう耐える。  


 それでも彼女の胸の高鳴りは体の外まで聞こえてしまうんじゃないかと思うほど大きかった。



-----



 エルビオは屋敷に戻るとセバスチャンから家関係の報告を受けた後、早々に食事と入浴を済ませる。


 それが終わると1日の終わりに訪れる至福の時がやって来るからだ。


「エル様。お茶をお持ちしました」


「うん。ありがとう」


 彼にとっての至福の時。それは自室でクレアとお茶を飲みながらお喋りする事である。


 彼女が淹れてくれたお茶を飲みながら、彼女をソファーに誘う。


 話題は決まって共通の趣味の話。


「また読んでいるのですか?」


「うん」


 テーブルの上に置かれていたのはエルビオが読みかけだった本。題名は『悪魔を討伐した英雄:ロイ・フレイトゥナ』とある。


 彼が読んでいたのは初代フレイトゥナ家当主であるロイ・フレイトゥナが悪魔を倒す英雄譚だ。


 これは彼が定期的に繰り返し読んでいる本で幼少期に父親から与えられた最初の一冊。何度も読み返しているせいか、所々に傷みが見える。


「やっぱり英雄には憧れるよ」


 彼も男だ。男ならば誰もが強い英雄になりたいと願うだろう。特にその英雄本人の血を引く家に生まれた男子ならば猶更だ。


 エルビオは小さな頃、父のような立派な騎士になって武功をたてるものだと信じて疑わなかった。


 しかしながら極度の運動音痴。剣すら満足に振れぬほどの才能の無さ。


 周りの落胆ぶりは小さな子供ながらに感じ取っていた。自分は呪われているんじゃないかとすら思った。


 何度も夢見て、憧れて、諦めきれずにいたが、その度に挫折する。彼がこれまで歩んで来た人生は挫折の連続だったと言っても過言ではない。


 彼がクレアに対して自信が持てず、彼女の好意を感じ取る事に鈍いのもこれが原因であった。


 幼少期から共に過ごしてきた1歳年上の彼女。


 エルビオが大人達にガッカリとした目で見られ、大人が落胆する当時の瞬間を彼女に見られているから。


「僕も騎士になっていたら……」


 今頃はクレアと結ばれているだろうか。情けない非力な男とは思われていなかっただろう。


 女性は自分のような男よりも英雄のような男らしい方が好きなはずだ、そんな先入観とコンプレックスが入り混じる。


 まぁ、今更そんな事を思っても意味はないが。そう思いながらティーカップを口につけると――


「今のエル様は立派ですよ。私は今のエル様の方が好きです」


「ブフォッ!」


 とんでもない事を言われ、エルビオは思わず吹き出してしまった。


「もう」


 何をしているんだ、と咎めるような表情でテーブルに零れた紅茶を拭くクレア。だが、エルビオはそれどころじゃない。


「え? あ、え? 今、なんて?」


 クレアはテーブルを拭きつつ、首を傾げた。


 何が? とも言いたげに。


 本当は何を言って欲しいのか分かっているくせに、わざとそうしているのだ。


「いや、その、だから……」


 困り顔で狼狽えるエルビオにクレアは内心笑みを零しながら、そろそろ良いかと頷いた。


「私は今のエル様の方が好きです。英雄になったエル様よりも、今の方がご立派だと思いますよ」


「ほ、本当に?」


「ええ。剣を握るエル様よりも、真剣な顔で書類と睨めっこするエル様の方が私は好きです」


 クレアがそう言い切ると、エルビオは顔を赤らめて「そうなんだ」と小さく呟いた。


 彼の顔を見たクレアは馬車の時と同じように口角がピクリと反応してしまった。


 テーブルを拭き終えた彼女はバレないよう立ち上がり、もう1杯のお茶を用意しようと彼から顔が見えない位置に移動する。


(ああ、なんて……)


 クレアは照れるエルビオの顔が脳内に浮かぶと茶葉の入った缶を持つ手が震えてしまう。必死に体を制御して、音を立てぬよう堪えた。


 お互いに落ち着きを取り戻したところで、再び共通の趣味である読書の話へと話題を戻す。


 最近読んだ本の内容をちょっとだけ明かしてお互いに本を勧め合う。


 あの本は良かった。ドキドキする。ハラハラする。つい読みふけって寝不足になってしまった……などと話し合う時間は楽しくて仕方がない。


 エルビオにとってはクレアの事がより理解できる時間。この時間がいつまでも続けばいいのにとさえ思える。


 しかし、時間は止まる事無く。楽しい時はあっという間に過ぎていくのだ。


「あ、もうこんな時間。明日もお仕事でしょう?」


 いつもの決められた終了時刻がやって来た。クレアは飲み終えたティーカップを片付け始め、退散の準備を始める。


「エル様、おやすみなさい。よい夢を」


「うん。クレアもね」


 最後にお互い微笑みあって。エルビオはクレアの背中を見送った。


 こうしてエルビオの1日が終わりを告げる。1日の最後は最愛の人との楽しい会話で終わるのだ。


 こうした日々が続くだけでも彼は幸せを感じられる。


「でも、いつか……」


 彼女がこの自室から出て行かず、ずっとお喋りが続けられる日が来る事を求めてしまう。


 もっと、もっと、と彼女を求めてしまうこの気持ちをいつまで抑えられるだろうか。



-----



 エルビオの自室を出たクレアはティーセットを乗せたワゴンを押しながら屋敷の2階にある廊下を歩いていた。


 廊下には一定間隔で灯りがあるものの、灯りと灯りの間には闇が存在する。


 その闇の中心に差し掛かった時、クレアの体はピタリと止まった。


 彼女は外から向けられるネットリとした視線のような、ドロドロと気持ち悪い感覚を感じ取って顔を丁度真横にある窓へと向ける。


 窓の向こうには王都の景色。深夜という事もあって大多数の家は灯りが消えている。


 彼女が立つ闇の中心に雲の切れ目から零れ落ちた月明かりが差した。月明かりに照らされたクレアの顔はまるで人形のような無表情。


「…………」


 感情を一切合切削ぎ落したような顔で窓の外をジッと見つめる。


 1分程度見つめていると、無表情だった彼女はようやく瞳を閉じるという動作を行った。


「そう。我慢できなくなったのね」


 彼女はそう呟くと再び廊下を歩き出した。


 ワゴンを所定の位置まで運び、ティーセットを片付けて。それが終わると、屋敷の裏口から外に出る。


 外に出た彼女はまるで闇に紛れるかのように王都へと向かう。闇の中を歩き、彼女が向かった先は王都の東区。


 それは貴族達が住まう屋敷と貴族御用達の高級商店が立ち並ぶ区画。その一画にある裏路地の前で足を止めると、彼女は先が真っ暗で見えない裏路地をジッと見つめた。


 数秒見つめた後に、彼女は裏路地の中へ。


 コツ、コツと靴を鳴らして奥へと進む。


 その裏路地の奥には――血塗れで地面に倒れる男の死体と全身を赤く染めた少女が1人。


「あ~。邪魔者だぁ。やっぱり来たぁ。私の視線、気付いたんだぁ」


 その声に反応したのか、丁度良く月明かりが裏路地へ落ちた。


 声の正体は王城でエルビオを誘惑していた第四王女のマイナだった。ピンクと白のドレスを倒れている男の血で染める。


 それだけではなく、彼女の両手と口周りもベッタリと赤い血で染まっていた。


 ぎょろぎょろと目を見開いた状態でクレアを見る彼女の傍に転がる死体の胸にはポッカリと穴が開いているではないか。


「心臓を食べたのね?」


 無表情のクレアは赤く染まったマイナへ問う。


 質問に対してマイナは歯を剥き出しにして笑った。


「んひ。そうだよ~? こうする理由、貴女も分かるよね?」


 そう言うとマイナの額に2本の角が生え、瞳は真っ赤に染まって瞳孔が縦一本の線に変わる。


「城で邪魔してくれちゃってさ~。私は彼が欲しいの。食べたいの。彼の心臓をね。何でか、わかるよね?」


 んひひ、んひひ、とマイナは赤く染めた口をニタリと歪ませ、下品に笑いながら言葉を続けた。


「貴女も同じでしょ? 気配がさぁ。わかるよ。貴女も魔人でしょ? だから彼の傍にいるんでしょ? 食べちゃいたいから。わかるよ、すごくわかる。だって美味しそうな匂いがぷんぷんするもんね?」


 彼女の姿も、言動も普通ではない。普通の人間とは言い難い。 


 人と同じ形をしながら、人とは違う特徴を持った異形の者。嘗て悪魔と戦っていたと言われている英雄は彼女の姿を見て、何と呼ぶだろうか。


 悪魔と魔人。それは同一の者なのか。


「貴女みたいな半端者と同じにしないで」


 否だ。


 悪魔と魔人はイコールじゃない。


「はぁ? 何言ってんの?」


 否定されたマイナは笑みを止め、眉間に皺を寄せる。彼女はクレアが言った意味を本当に理解できなかった。


 気配が同じ、同種であると。彼女は確かにそう感じている。


「もしかして、嘘ついてる?」


 自分の感覚を信じて疑わない。クレアが嘘をついているのだろう、と。


 否だ。


 それは彼女が半端者であるが故。


 本物を知らないから。僅かに共通する部分以外の特別な部分を感じ取れないから。


「私は貴女とは違うわ」


 無表情のまま、クレアはもう一度そう言った。


 そして、背中から三対六枚の翼を生やす。


「……は? ちょ、ちょっと待って。もしかして、お母様と同じ?」


 マイナはクレアが背中に生やした三対六枚の翼に見覚えがあった。


 彼女の産みの親。魔人王である母親と同じ。


 子供の彼女では到底敵わぬ母と同格の存在が目の前にいるのか、と驚きを露わにするが――


「違う」


 そう、それも違う。


 彼女は魔人というカテゴリには当てはまらない。どっちつかずの半端者とは違う。


「私は――」


 翼を生やしたクレアの体がドロドロと溶けた。人の形を崩して、翼を生やしたドロドロの黒い塊へと変化する。


『チガウ』


 そう、違う。


 彼女は本物だ。


 クレアは、正真正銘、本物の悪魔であった。


「は、え?」 


 ドロドロの黒い塊、異形そのものとなったクレアから黒い触手がマイナへ伸びた。


「ちょ、あっ!?」


 逃げようとするが高速で伸ばされた触手にマイナは捕まってしまう。両腕、両足を拘束されて宙に持ち上げられた。


「ちょっと!? どうする気!?」


 見た事がない存在、それに拘束されるという恐怖。自分がどうなってしまうのか、全く想像できぬ未知への恐怖。


 しかし、彼女にヒントが与えられた。


 黒い塊がガパリと大きな口のように変形したのだ。


「ちょ、ちょっと待ってよ……! 待って! 待ってよ!」


 徐々に開かれた口に体を移動させられ、恐怖と焦りで取り乱したマイナは体を暴れさせて逃れようと試みるが触手が外れる気配はない。


「待って! わかった! 彼は食べないから! 食べないからァ!?」


 必死の懇願にも触手の動きは止まらない。遂にマイナの体が黒い大口へ突っ込まれた。


「待って、まっ――」


 バクリ。


 魔人へと変化した少女の体を丸飲みするように。大きな口がピタリと閉じた。


 マイナを飲み込んだ黒い塊はグズグズと動き出し、再びクレアの姿へと戻る。


 黒い塊だった形跡も、背中から生えていた翼も無くなって。エルビオが愛する女性の姿へと。


 パンパン、とメイド服を叩いて埃を払うと彼女は空を見上げた。


「居るんでしょう?」


 月を隠した雲が浮かぶ夜空にそう告げると、空の闇から三対六枚の翼を生やした魔人が裏路地へと降りて来た。


 喰われたマイナが言っていた、彼女の母親。


 魔人王であると同時にこの国の王妃として暮らしている彼女は、クレアを前に土下座するように地面へ額を擦り付けた。


「申し訳ございません」

 

 そして、誠心誠意の謝罪を行う。


 王城の階段ですれ違った時とは立場が逆転しているが当人同士はしっかりと理解し合っている。


 そうだ。地面に額を擦り付ける王国の王妃も自分の立場というものをちゃんと理解しているのだ。


 この立場が本当は正しいのだと。


 王城では王城のルールに『従ってもらっている』だけであると。


「子供の躾はちゃんとしておかないと。ルールを決めているわよね。だから、貴女達は王家として人を支配する環境を享受しているのよ」


 本物であるクレアは半端者の王妃にそう告げた。


「仰る通りです。大変、申し訳ございません」


 そうだ。この国では、誰が一番偉くて、誰が誰のモノか決まっている。


 特に英雄と呼ばれている家系の人間は。誰のモノであるか、明確にしっかりと決まっている。


「他の力を持つ人間は食べても良いけど、あの特別な血を引く者達は私の物だと決めたでしょう? 貴女達のような有象無象が手にできるほど安いモノじゃないの」


 英雄とは特別な存在だ。この王国では誰もがそう知っている。


 しかし、1つだけ。


 限られた者しか知らぬ事実が隠されていた。


 英雄は悪魔を倒していない。本当は悪魔の伴侶として生贄にされただけだ。


 真実を知る者からすれば悪魔の伴侶となった憐れな生贄を『英雄』と呼ぶにはピッタリと言うだろう。


 今でもベストセラーになっている英雄譚は魔人が騙る王家と悪魔が作り出したルールブック。


 他の地にいる悪魔が彼に手を出さぬよう知らしめる為に、あの英雄譚には悪魔と魔人しか読めぬ文字が巧妙に隠されているのだから。


 この土地は昔から人間が支配する土地じゃない。1人の絶対的な力を持つ悪魔とその下僕である魔人が、巧妙に事実を隠して影から人間を支配している土地だ。


「悪魔と魔人は多少なりとも似た存在だから彼に惹かれるのは理解できるけどね」


 僅かな共通点を持つ存在が故、マイナがエルビオに惹かれる事をクレアは確かに理解できる。


 それでも、と言いながらクレアは自分の口の中に指を入れて小骨を取り出すと王妃が額を擦りつける地面に投げた。


「ルールはルール。次、同じ事をしたら全員殺すから」


「はい。申し訳ございません」


 王妃が額を擦り付ける中、クレアは闇で覆われた王都を歩き出した。 



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 屋敷の裏口から中へと戻ったクレアは音を立てぬよう歩き出し、階段を登って2階にあるエルビオの寝室へと向かった。


 既に全員が就寝している屋敷の廊下は真っ暗で、時より窓から差し込まれる月明かりだけが廊下を照らす。


 暗い廊下を歩き、エルビオの寝室前に到達するとクレアはノックもせず音を立てぬようドアを開けた。


 寝室の中は廊下と同じく暗い。


 それでもクレアの目にはしっかりとエルビオの顔が見えた。


 静かに寝ている彼に近づくと、ベッドに両手をついて顔を覗き込んだ。


「ああ……」


 すぅすぅ、と規則正しい寝息。いつも通り愛くるしい寝顔。


 子供の頃から変わらぬ愛しい相手の顔を見て、愛おしそうに笑顔を浮かべながら思わず声を漏らしてしまった。


 クレアは見ているだけでは我慢できず、人差し指でエルビオの頬をなぞる。指から伝わる彼の体温を感じ取ると、その体温が自分の中に浸透していくような感覚に陥った。


「私の特別な人……」


 そう、特別な人間。


 悪魔であるクレアにとって、彼は……。いや、最初の彼と同じ血を引く彼等は特別な人間だった。


 悪魔という存在は形が定まっていない。マイナを喰らった姿になる事も、人と同じ姿になる事も、性別でさえ自由自在。


 故に自身の存在が曖昧だ。魔人と違って不老の命を持つ代わりに子を残す事もできない。


 何の為に生きているのだろう。何を成す為に生きているのだろう。気まぐれに世界をかき混ぜて、人間達を恐怖のどん底に落として暇を潰す日々。


 生きる事にすら飽きかけていた頃、彼女は見つけたのだ。


 彼女にとっての特別な存在。特別な力を持つ人間を。自分と『ツガイ』になれる力を持った人間を。


 見つけた瞬間、絶対に自分の物にしようと決めた。


 悪魔が人間のようにツガイを成せれば、何かが変わるんじゃないかと直感的に感じ取ったから。


 特別すぎる力は今日のように他者を惹きつける。


 そうならないよう人を支配していた魔人を更に支配して、他にも存在していた悪魔でさえ喰らって、彼女は1人の人間を自分の物にしたのだ。


 英雄譚に描かれる第三王女とのハッピーエンド。これは悪魔と魔人側から見た光景に過ぎない。


 当時生きていた第三王女を殺し、彼女に成り代わったのは英雄が対価として要求した名誉と権力を与える為でもあった。


 特別な人間を独占したい悪魔、悪魔と共に過ごすという拒否できぬ要求を了承する代わりに輝かしい生活を望んだ特別な人間、絶対強者との関係を強固にしたいのと同時に人間への支配をより強くしたい魔人。


 3者とも少なからず利がある協定だっただろう。 


 先に語った通り、悪魔にとって最初はただの独占欲からだったのかもしれない。最初の特別な人間――英雄となった男も悪魔への愛を持っていなかったのも事実。


 しかし、彼女は変化した。


 特別な人間を物にして共に過ごしていくうちに溺れていった。


 破壊しか生まぬ存在が愛に目覚め、愛に溺れたのだ。


 この気持ちはずっと、ずっと変わらない。そう、500年以上前からずっと。


「終わらせないわ。世界が消えてなくなるまで」


 そうだ。終わらない。ずっと。


 特別な人間との子を産んで、特別な血を引いた子とまた恋愛して子を残す。


 産まれた子に対して、彼女自身が描いたストーリーを現実にして1から愛を育むのだ。


 1つ前は貴族令嬢として姿を変え恋愛をスタートさせた。2つ前は高名な女学者としてだったか。


 今回は趣向を変えてメイドとして存在しているが、これもなかなか楽しい日々を送れている。


 産んだ子の能力も今回はいつもと違った能力へ変えて。それも新鮮味があって大成功だった。


 彼女自身が作り出す恋愛劇は未来永劫、世界が消滅するまで続く。


 クレアという悪魔の異形な愛はずっと変わらず、終わらない。 


「そうよ。貴方は誰にも渡さない。ずっと、ずっと――」


 彼女はそう呟きながらエルビオの手を持って、自分の唇に当てた。


 彼の温もりを感じながら、瞳を潤ませ、うっとりとした表情で呟く。


「貴方には、私の愛だけで良い」


 そうだ、自分の愛だけでいい。それ以外は何も与えさせない。


 彼女はそう呟くと、毎晩の日課を行おうとエルビオの顔に自分の顔を近づける。


「愛してる、私のエルビオ」


 起こさぬよう小さな声で呟くと、エルビオの唇に自分の唇を重ねた。



お盆休みが嬉しくて勢いで書いた。

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イカれた淑女が主人公な連載小説も書いてます。

『婚約破棄されたので全員殺しますわよ ~素敵な結婚を夢見る最強の淑女、2度目の人生~』


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― 新着の感想 ―
[一言] 倫理観だだ崩れの世界観大好き。この人間の認識をはるかに超越した愛情はいいものですね……
[良い点] なかなかのイカレっぷり良いと思います。ただ、単純な遺伝だと”英雄”の家系はどんどん悪魔になっちゃう気も... [気になる点] 500年で6代目は少なすぎると思います。寿命にもよりますが、例…
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