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あかね色の黄昏  作者: はおらーん
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第2話 彼の事情

慣れないスーツに身を包み、毎日オフィス街に通っている。まだ社会人でもないのに。


(今週は面接2件か。そろそろ1つくらい内定ほしいわ…)


大学3回生も後半に差し掛かり、院へ行かない学生たちは就活で色めき立っている。大学の構内ではスーツに着られた若者が難しい顔をして情報交換していたり、指導教官にゴマをすっていたりする。そんな中、優希はスケジュール帳とにらめっこをしていた。


(明日は大阪か…また交通費かかるねんな~)


そんなことをぼんやり考えながら、今月の収支を眺めた。京都から大阪への交通費が4回分。決して安くない金額が記される。就職活動とはお金のかかるもので、スーツなどの身だしなみはもちろん、割と痛い出費になるのが交通費であった。


(なんかバイトしないとな…、短時間でラクで儲かるしごとは…)


そう思いながらスマホで検索した。最初は派遣やコンビニなんかも考えたが、派遣は登録がめんどくさいし、シフトで時間が制限されるようなバイトは難しい。最近耳にすることが多くなった、バイトのマッチングサイトを覗くことにした。


「えっと、自転車で行ける範囲で、拘束日数の少ないものはっと」


【一人暮らしの引っ越し手伝い:拘束日数3日(一日4時間程度):給金2万円】



これだ!優希は身長こそ高くないものの、中高とバドミントンと水泳に精を出していたこともあり体力には多少自信があった。今でこそ部屋でこそこそエレキギターを触るバンドマン見習いみたいな生活をしているが、元々はスポーツマンだった。早速応募のメールを送り、返事を待った。




2日後、ピロンとスマホが鳴った。いつもはお祈りメールと迷惑メールしかこないアドレスに、今日は【採用】の文字が見えた。


「内定!?」


とガッツポーズをしようとした矢先、【引っ越しバイトの件】という文字も見えた。どうやらこないだ送ったバイトの申し込みが採用になった件のようだった。


◆3月15日(金)14時~

目的地:京都市伏見区…


マッチングサイトのため、仲介者はほとんどいない。メールでは時間と場所だけ指定され、そのまま現地に行って仕事をするのだ。



仕事当日、優希は普段着ないようなジャージを引っ張り出し、軍手も準備して目的地に向かった。着いた先は一人暮らしには少し大きいと思うようなハイツだった。緊張した面持ちでインターホンを鳴らすと、「はーい」と明るい声が聞こえた。


(え、女性の家?)


相手が採用したとはいえ、一人暮らしの女性の引っ越し手伝いを男がしてもいいのか、と逡巡した。しかしインターホンを鳴らした以上は、今から帰るわけにもいかない。


「こんにちは、山下優希さんですね?」


ドアを開けて出てきたのは綺麗なお姉さんだった。大学で会うような女のコではない、大人の女性だった。作業中だったのかジャージで出迎えてくれた。少しおっとりとしたような穏やかそうな女性だった。


「は、はい!山下です。よろしくお願いします!」

「今回はよろしくお願いします。どうぞ上がってください」


進められるまま部屋にあがると、たくさんの段ボールの山があった。落ち着いた雰囲気にコーヒーの香り。まぎれもなく大人の女性の部屋だと思った。


(けっこうかわいい顔してるな…)


男性とのコミュニケーションに慣れていないわけではないが、ちょっとでも好みの容姿を見るといけない妄想が先行してしまう。ついつい、この子が赤ちゃんみたいになっておむつを当てられたら…と頭の中がいっぱいになるのだった。


「今回お仕事をお願いする高木です。よろしくお願いします」


気を落ち着けて自己紹介をし、仕事のお願いなど諸々を説明した。今回は本の片づけがメインで、段ボールへの梱包と荷運びをお願いした。


「あ、一つだけ注意してほしいんですけど、クローゼットの中は見ないでくださいね。あとキャリーケース類もそのまま置いといてください。ちょっと大事なものなので…」


クローゼットを開けるとそこにはオマルとおむつのパッケージが鎮座している。こんなものをバイトの子に見られるわけにはいかない。あかねはその点だけ厳重に言い含めておいた。しかし、そんな言葉とは裏腹に、心の中に少し迷いがあった。


(おむつとかしゃぶり見たらどんな反応するんだろ…?蔑むのか、もしかしたら興味をもってくれるかも…?いやいや…)



複雑な気持ちで山下君に指示を出すあかねだった。


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