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あかね色の黄昏  作者: はおらーん
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第1話 彼女の事情

「高木くん、転勤の準備はどうかね?」


「はい、今引っ越しの準備をしているところです」


課長の問いかけに笑顔で応えながらデスクの片付けをする。こんな若手に転勤を強制するなんて…と思いながら、全国転勤のあるこの会社に入ったことを後悔するのだった。


(あんまり自己主張するタイプじゃないから転勤を押しつけられたのだろうな…)


小さい頃から育ってきた京都の町だったが、会社の意向で大阪の本社に転勤することが決まったのだ。入社4年目にして仕事にも慣れてきたころだったが、結婚もしておらず身軽なあかねに白羽の矢が立ったということらしい。大阪の友達とたくさん飲み会できるな~などとお気楽なことを思いながら退社の準備をするのであった。



高校や大学の同級生が段々と結婚して子供ができる中、あかねはまったく焦る素振りがない。あかね自身はこんな自分には彼氏どころか結婚なんて無理だろうなと昔から思っていた。それは、あかねが小さい時から思い焦がれている夢があるからだ。


(できたらいいな、とは思うけど、実際できるわけないしな…)


帰宅してスマホを開くと、すぐにSNSを開いた。普通なら日常の噂や愚痴、旅行に行った写真なんかがアップされているのだろうが、あかねの開いたSNSは違った。そこには、少なくとも10代後半以降だろうと思われる男女が、思い思いの格好でおむつを履き、おしゃぶりを身に着け自撮りをしている様子が並んでいた。


あかねの生涯かけてやりたい夢というのは、いい年をした大人が、赤ちゃんに扮しておむつを交換されたり、あやしてもらったりするアレだ。それも、あかねの場合は、自分が赤ちゃんになりたいわけではなく、かわいい男の子を赤ちゃんにしてしまいというという願望がある。男女比率で言えば圧倒的に男が多いこの趣味に置いて、年若いあかねにとっては相手なんていくらでも見つかりそうなものだ。


しかし、そこにもあかね独自のこだわりがある。彼女のこだわりは、赤ちゃんに「する」ことなのである。元々健全な男の子を懐柔し、赤ちゃんの沼にはめたいのである。何の前途もないが、すでにグッズは大量にある。もはやバブグッズを買うのが趣味と言っても過言ではない。おむつ類はサイズごとに幼児用、大人用取り揃え、各種乳幼児用のおもちゃ、おしゃぶり、さらにはおまるまで完備してある。一般人が見れば、子育て中のママの荷物にしか見えないだろう。


どうしてこうも拗らせた趣味を持つようになったかというのは、あかね自身思い当たる節がある。それは年の離れた弟の存在だ。あかねには8つも年の離れた弟がいる。8つも離れていると兄弟喧嘩をすることも少なく本当にかわいい存在だった。乳幼児の時は何度もおむつを交換したし、末っ子で甘えん坊だった弟とはたくさん遊んであげた。今は実家で反抗期を迎えているらしいが、ずっとあの時のかわいい弟を求めているのかもしれない。この前実家に帰った時に、ふざけて「ゆーくん、ちっちでてない?」って聞いたら、不貞腐れて自分の部屋にこもってしまった。



今日も若いバブちゃんをSNSで探しながら


「あ~、この子尊い…」

と写真を眺めるのだった。


一通りSNSを堪能したあかねはスマホを閉じ、段ボールの山に目を遣った。ただでさえ女子というのは荷物が多いものだが、それに輪をかけてあかねは読書家でもあった。恋愛、ミステリー、純文学、歴史、なんでも読んだ。そんな本の山々があかねの引っ越し準備の邪魔になっているのだった。


(さすがに一人でこの山を片付けるのは厳しいな…)


便利なもので、最近はなんでもマッチングアプリがある。ちょっとした仕事を頼むにも、マッチングアプリで探すことができるのだ。アプリで便利屋でも探そうと思いなおして再びスマホを開く。アカウント登録をして引っ越しに関する相場などを調べた。あかねの荷物の量からすると一人雇っても3日はかかるだろう。相場は大体2万円ほど。


「友達何人かにお願いして飲みおごるよりは安く済みそうやな!」


早速住所と支払い金額を提示してマッチングアプリに登録した。早ければ数日でバイト君が見つかるらしい。



「あっ、バブグッズどうしよ…」


おむつや洋服など、大量にあるバブグッズを前にして、本当にバイトを呼んでもいいのか思案するあかねであった。


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