6 夢
村に帰るといつもと変わらない光景が私を少し安心させる。
もし私たちがいない間に魔物に襲われていたらという不安が馬を走らせている間ずっとあったからだ。きっと私はその場に出くわしたとしても何もできない。山にいた上級の魔物がもしこの村を襲っていたらと思うとぞっとしてしまう。
父とルーク様は残って山を探っている。何もなければいいが不安に押しつぶされそうになる。
でも私はいつもの私でなければならない。みんなに悟られてはいけない。私は山で集めた木の実や果物たちを持って自宅へと戻った。
数時間して二人が戻ってきた。
特に怪我の様子もなく何事もなかった様子であった。父の腕の傷も回復しており、ルーク様の『罰』を施したのだろう。
ルーク様の『罰』は怪我を回復させるというもので、私も転んだ時に傷を治してもらったことがある。聞くところによると傷や軽い怪我は直せるが、病気は無理だということ。また、疲労や流れた血液も回復できないので治した後も休息は必要のようだ。ルーク様は自分の力がもっと強力なものであれば救えた命はたくさんあったと悔やんでおられた。
戻ると父はすぐに調理に取り掛かっていた。現地で血抜きは済んでおり、魔物の毛皮を剥いで薬草で毒抜きをする。魔物の肉には少なからず毒があるが解毒の薬草を使って浄化することができる。あとは串刺しにして香草とともに燻すとできあがりである。
「アシュリー、安心しなさい。特に変わったことはなかったよ」
山のことを聞きたいけど何も言えない私に、優しく答えてくれた。
それだけ不安から解消される気がした。
「父さんの傷は大丈夫?」
私はもう塞がっている傷があった腕を見ながらいった。ルーク様は傷を直すことはできるが、毒や病気を治療することはできない。傷が治っているからといって不安がある。
「ああ、この通りだ。何も心配する必要はない」
そう言って父は私がとってきた胡桃を握りつぶして殻ごと粉々にした。せっかく採ってきた食料を無駄にされたことより安心感のほうが上回ったようだ。
「よかった、ほんと無理しないでね。父さんがいなくなったらと思うと気が気じゃないからね」
私は笑いながらいうが、一瞬空気が重くなった気がした。気のせいかな?
私はいつものように剣をとって外にでる。今日は二人が無事に帰ってこれたことへの感謝をこめて踊ることにしよう。
夢を見た。
ずっと赤い空を眺めている。
周りはやたらと騒がしい。
悲鳴とも思える叫び声、でも何を言っているかわからない。
聞いたこともない耳障りな鳴き声が響く。
その声を聞くたびにまるで血液が固まるような感覚に襲われる。
まわりを見回そうとしても体どころか首も目も動かない。
視線はずっと一点に固定されている。
パチパチと燃える音が聞こえる。まわりは火事なのだろうか?
ああ、きっとこの赤い空は夕焼けではなくて燃え盛る炎なのか。
私はきっとこのまま死ぬのだろう。
熱いのに体が冷えていくのがわかる。
諦めかけたとき誰かが私の顔を覗き込んだ
涙が私の顔に落ちてくる。
「・・・・・・・・・」
なにをいっているのか分からない。
でも謝罪しているようなとても悲しい声
なんでそんなに謝るの?
私が許してあげるよ