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世界の罪に泣きそうな夜だから  作者: まるめるも
3/6

3 誓い

「なあイーデン、お前はやっぱり話すつもりなのか?」

 アシュリーが剣舞を舞っている中、ルークは親友に話しかける。

「ああ、成人になったら話すつもりでいた」

 イーデンは重々しく口を開く。ルークはそれを聞いて俯いた。

 ルークはアシュリーを実の娘のように思っている。

 ルークにはかつて妻がいたが、その間には子供はおらず妻も15年前のイルミナス王国の王都侵略により亡くしていた。それ以来妻を娶ることもなく騎士道に明け暮れていた。

「アシュリーはなんていうかな?」

 イーデンの心中は定かではない。きっとこのまま何事もなくいつもの日常が続けば良いに決まっている。しかし友の決意を止めることはできない。それはイーデンという人間を一番よく知る自分だからこそのことだ。

「あいつの元にはいつもいてやれなかった。だからこそ心からあいつのことを常に考えていた。あいつにも知る権利がある。それは押し付けなのかもしれないことはわかっている。だが、あいつの為に教えなければならないと思っている。俺がいつまでもこの国にいれないことを理解してもらわなくてはならないからな」

(それはエゴだよ、イーデン)

 ルークはそれを口には出さない。確かにこれから起こりうることを理解してもらうには話しておかなければならないことは理解している。しかしそれはアシュリーの意思ではない。一方的に押し付けられる告知でしかない。あの子は優しい子だ、きっと理解したふりをするだろう。幼き頃から親と過ごせない日々を過ごすことによって、彼女は物分かりが良くなりすぎてしまっている。きっと今まで悲しい思いを沢山してきただろう。それを自分で納得することで閉じ込めてしまっている。しかしそれに気づいていないイーデンではないだろう。


「ルーク、お前には感謝している。良き理解者として俺やあいつに接してくれている。お前は立場上この国を離れることはないだろう。だからその時がきたらあいつを頼む」

 そこには哀しさも混ざったなんともいえない空気だった。イーデンの『罪』を私は知っている。だからこそそれを止めることはできない。彼の負った『罪』は計り知れないものだ。私ならその重圧にきっと耐えられないだろう。いつもの明るく皆を楽しませ、誰からも好かれるそんな彼からは想像できない顔をするときがある。今もそれに近い。

 イーデンの戦場での異名は『狂戦士』であった。敵を求め、殺戮を繰り返す。彼の持つ『罰』は彼の優しさからはかけ離れたものだった。だからこそ戦場にて彼は輝く。誰もが憧れ、対立関係にある騎士団ですらイーデンに憧れるものは多くいた。戦士団は主に平民の出で集められた軍隊である。イーデン自身もこの村から傭兵として王国入りした過去がある。だからこそ騎士団と戦士団の間には、王国設立以来からいざこざがあったと聞く。しかしイーデンの持つ英雄としての器が、皆が憧れる存在として騎士団の中でも注目されていた。

 私とて最初からイーデンに対して好意を持っていたわけではない。傭兵という荒くれ者が戦士団に加入したことを昨日のことのように覚えている。もう30年も前のことだ。

 まだあどけなさを残した面持ちとそれに似合わない身体能力、そして誰にへつらうわけでもない生意気な物言い。そして戦士団誰からも好かれていた。まだ当時成人すらしていなかったという。それは異例なことであった。貴族は学園をでて成人したら騎士となる。国の為、王の為に剣となる。一部の上級貴族には免除できる権利があったが私はそれを使わなかった。国のために命を捧げることに何の疑問もなかったからだ。ある日イーデンの部隊と一緒に戦地に赴くことがあった。戦士団は礼儀もなく荒くれ者の集団というのが騎士団の認識だった。国の為ではなく、己のために剣を振るい殺戮を好む集団であると皆が思っていた。

 当時部隊長であった私はイーデンと行動することに反対であった。しかし当時の騎士団長は私を宥め、私にいった。

「これはルークにとって必ず良い経験になる」

 私は納得こそしなかったが説得されたのだ。だからこそイーデンの一足一刀即を見ていた。私には驚きの連続であった。荒くれ者の集団と思っていた戦士団が年下であるイーデンのことを敬い従っていた。そしてイーデンは彼らに必ずいう言葉があった。

「どんなことがあっても必ず生きて帰れ」

 それは騎士団の誓いに反する理解できない言葉。貴族は国のために剣をとり、国のために死ねと教わってきた。すべては民のために戦う騎士団にとって何がなんでも生きて帰れというのは逃げてもいいということに他ならなかった。私は怒りを覚えたことを今では笑い話として話しているが、当時は笑える気がしなかった。

 戦地では優勢が続いた。イーデンの恐ろしいまでの気迫と剣技、敵は逃げる間も無く死んでいった。私の率いる騎士団もその光景に呆然とするしかなかった。一騎当千とはこのことをいうのだろう。血の気の引く思いをしたのを憶えている。しかし戦いが終わった後、彼は戦地にて死んでいった兵を一人残らず顔を見ていた。中にはむごたらしい死に方をした者もいる。そして驚いたことにそれは敵兵に対しても行なっていた。なぜそんなことをするのかと彼に私は問いただした。しかしその顔を見た時、私は絶句した。

 その時、彼は泣いていたのだ。

 幼さの残るその顔は涙で崩れていた。

「俺は自分が許せない。こいつらを救えなかったこと。殺すしかなかったこと。こんなことが正しいとは思えない」

 彼は涙声を混じらせて、まるで決意表明のように悔しさが混じった声でいった。

 その時からだ。私は彼を一人にしてはいけないと感じるようになったのは。

 それからというもの、国に戻っても仕事がないときはイーデンと共に過ごすことが多くなった。今までいったことがないような場末の飲み屋や、魔物の狩り。今まで食べたことがなかった魔物の肉も一緒に食べた。そのとき、「これで一人前だな」と少年のように笑うイーデンの顔は未だに忘れられそうもない。そしていつの日か聞かされた彼の『罪』。

 その壮絶さに私は言葉を失い、彼を抱きしめ泣いていた。この少年に課せられた義務はそれほど壮絶で、そして彼を苦しめ続けているにも関わらず彼は凛として立ち向かっていたからだ。それから私は彼を守り続けなくてはいけないと心に誓ったのだ。それから私が結婚したとき、一緒になって喜んだ。妻は幼馴染の貴族の娘で、生まれた時から結婚することが決まっていたが、イーデンはそれを心から祝福してくれた。そして妻を亡くしたときイーデンは、私以上に泣いていた。そしてルークは俺にまかせろと墓の前で誓っていた。

 きっと私はイーデンに友情以上の感情を持っている。それは恋愛感情とは違う、決して失くすことのない信頼である。だから彼が心に決めたことには口を出すつもりはない。


「あれからもう15年か……」

 独白のようにイーデンは呟く。

「ああ、そうだな。あの時は私も驚いたよ」

 昨日のように思い出す。イーデンがまだ生まれたばかりとしか思えない泣き叫ぶ赤ん坊を抱えて国に帰ってきた。戦火の中、我が軍は激しい攻防戦を繰り広げていた。ここを攻められたら一気に交戦は変わる。そんな中、イーデン率いる戦士団は戦いに明け暮れていた。そんな中、イーデンは国より退避命令がでた。ここでイーデンを失うわけにはいかなかったからだ。彼は悔しさのあまり伝令に対して暴言を吐いたという。それは国への侮辱として伝えられ彼の立場は危うくなった。しかし私が間を取り持ち、死罪は免れた。国としてもここでイーデンを失うのは元も子もないからすんなりと受け入れた。

 そんなとき戦地から戻ったイーデンが抱えていた赤子がアシュリーであった。なんとも美しく見惚れるような赤子であった。彼はいう。

「こいつは俺の子だ」

 話を聞くと戦地にて退陣する際に拾った遺児だという。親だと思われる者の姿もなく、一人取り残され死ぬことを待っているようであったという。きっと彼はその時も泣いたのだろう。この男は実に涙もろい。娘の前では強い父親でいるが、実に脆い。だから私には分かる。

 この決心は、アシュリーが実の子でないと伝えることは彼にとって恐ろしく、そして並ならぬ決心が必要であったことを。

 それもそうだ、自分の赴いた戦地にて拾ったということは、親を自分が殺したかもしれないのだから。

 だけどイーデン、アシュリーはきっと分かってくれるよ。そして感謝するだろう。君は彼女にとって掛け替えのない父親なのだから。


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