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NICO & VAN (ヴァン視点)  作者: 美音 コトハ
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太古の歴史のお話2

 最終的に魔物の王の元に辿り着いたのは、創造主ただ一人であった。


「今日で全てを終らせよう、魔物の王よ」

「毎度凝りもせずよく来る。命を散らすのが趣味なのか?」

「何とでも言うが良い。私は人間達と共に、心安らかなイザルトを取り戻すのだ! 剣を抜け、魔物の王よ!」


 やれやれと言いたげな魔物の王が目に見えない程の速さで剣を抜く。だが、創造主はその一撃を見事に受け止めた。


「ほぉ、受けたか。だが、甘いな」

「――ぐっ……」


 それはただの抜刀では無かった。創造主の体に次々と赤い線が走って行く。頬に入った線からも血が滴り首を伝っていくのを、魔物の王が楽し気に見つめる。


「綺麗な赤だ。その身を赤で染めるのもまた一興」

「さ、せる、ものかっ! 私が倒れる訳にはいかぬのだ!」


 多くの期待をその肩に負っている創造主が気合と共に剣を弾く。


「これは威勢がいい。少しは俺も楽しめそうだ」


 上段から振り降ろし、下で左右に打ち合い、回転しながら水平に薙ぎ、上段から斜めに斬り下げる。剣に纏わせた魔力の軌跡が僅かに残る事で、打ち合いが行われているのだとようやく分かるほどの速さ。だが、その全てが王によってことごとく受け止められてしまう。仕切り直す事にしたのか、両者が一度距離を取る。


 力がぶつかり合う事でひび割れ円形に凹んでしまった大地を、王が不愉快そうにザリッと爪先で踏みにじる。そして、暫く地面を見つめると興ざめした様子で鼻をフンッと鳴らす。


「威勢の割に大した事はないな。どうした? ここに辿り着くだけで疲れ果てたか?」


 反応の薄い創造主に苛立ったのか、だらりと下げていた剣を魔物の王が激しく打ち込む。創造主が後ろに避けて飛ぶと、そんな僅かな隙間など直ぐに埋めるように近付き、ガキンッと大きな音を立てて剣をぶつける。睨み合いの後、創造主が王を押しやり、後方に大きく飛びながら炎を撃ち出す。


 攻撃の手が緩かったのは、王の油断を誘い、魔法を練り上げる時間を稼ぐ為――。


「ははっ、そんな脆弱な魔法で――――何だと⁉ くっ!」


 五芒星の頂点に位置するように、五つに別れた火の玉の全てから巨大な竜の(あぎと)が飛び出し、中央に位置する王の体を食いちぎろうとする。だが、飢えたようにガチガチと鳴らされた牙は、王が咄嗟に張った脆弱な結界を内から何重にも増やしていった事で、僅かなダメージしか与えられなかった。細かな傷と少し引き裂かれた腕に余裕の笑みを見せ、剣を構えようとする。


「――それで終わりだと思うな。私の命を魔力に変えた渾身の一撃をとくと味わえ!」


 王が襲われている僅かな間に、その命の輝きをも剣に注ぎ込む。直視できない太陽のような輝きを纏わせた最後の一撃を、魔物からの解放を願う全ての者達の希望も込めて、創造主が王の肩から斜めに振り下ろす。それを咄嗟に受けた魔物の王の剣は粉々に砕け散った。


「なっ、馬鹿な⁉ どこにそんな力を隠し、――がっ! ぐわぁぁぁ……――――」


 悲鳴すらも光に食いつくされて、魔物の王の体の輪郭が薄れていく。それでも威力を落とさず急速に光は円状に広がっていく。


 残された魔物も味方も、体の内側にある闇すら一瞬で吹き飛ばすような光に包まれ、時を止めたように立ち尽くす。


 そして、魔法の光が薄れて消え去り、太陽が威風を取り戻した時にしっかりと大地を踏みしめていたのは、勇気ある者達と人間だった。


「……我らが……我らが勝利したのか⁉ ついに我らが?」

「そうだ、見ろ! こんなに綺麗な空なんて見た事があるか? 瘴気が完全に消えたんだ!」


 口々に叫ぶ人間達を縫って、創造主に駆け寄る仲間達。


 そこには、剣を土に突き刺し、天を仰いで涙する石像があった。


「創造主、様……」

「全てを捧げられたのだな……」


 涙する火の国の王、ルフスとその肩に手を置く闇の国の王、ニゲル。


「いや、まだ希望を捨ててはならない。涙は石像の頬の上を流れている。まだ、完全に命の灯は消えていない証拠だ」


 神の言葉に、弾かれたように顔を上げる仲間達。


「……そうだ、俺はまだ諦めない! きっと、創造主様は時を経て復活なされるだろう。その時に見て貰おう。発展したイザルトを、人間の幸せな姿を。この方が最も望んでいた姿を!」


 フークスの力強い言葉に全員が頷き、固く握手し肩を叩き合う。


「この地を……創造主様を中心に国を再興させよう。ここから全てが始まって行くのだ! 創造主様と共に!」


 フークスが天に拳を突き上げ大音声で叫ぶと、それが次々に伝わっていく。


『創造主様と共に! 創造主様と共に!』


 全ての人達が拳を振り上げ、声を合わせる。響く声は体を熱くし心を滾らせる。その瞬間、全ての者達の心は未来に向けて一つになっていた。


 それを感じ取ったように、新たな涙が創造主の頬をまた一筋伝っていった。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「……終わり」

「ぐすっ、うう、また泣いちゃった。ラストが悲しいやら嬉しいやらで……」

「うむ。一応ハッピーエンドな感じ」


 シン様がお皿洗いを終えて、手をフキフキしながらニコを覗き込む。


「どうしたの? 何か嫌な事があったの?」

「いえ、本を読んでいまして。ぐすっ……」


 涙をハンカチで拭いているニコには鼻紙を渡し、シン様には本を渡す。


「本? ああ、太古の歴史についてか。ちょっと貸してくれる? 僕も久し振りに読んでみたいな」


 シン様が俺の横に座りながら読んでいき、首を傾げる。


「――あれ? これ、僕の知っている本と内容が違う……。これ、どこで手に入れたの?」


「これは白族の村で訓練場に通いだすと貰える本。皆、持ってる」

「そうなんだ。誰が書いたのか分かる?」

「元々、白族の村にあったのを複写しているだけ。誰が書いたかは知らない」


 シン様が首を傾げながらカバーとかを捲るが、作者名などは見付からない。


「シン様の知っている話は、どういうお話なんですか?」


「一般的なのは、遠くに魔物を追いやる事に成功しました。めでたしめでたしみたいな感じだよ。色々とヴァージョンはあるけど、こんなラストを迎えるのは読んだ事が無いよ」


 ずっと、こういう物だと思っていたが、どうやら違ったようだ。


「僕達はこれが普通だと思っていました。あー、でも、太古の話が好きな子は絵本とかを何冊も持っていて、よっぽど好きなんだなぁと思っていたんですけど、内容が微妙に違うからなんですね」


「うん、収集している人も多いんだよ。うーん……気になるなぁ」

「俺がミルンさんに聞いてあげる」

「ありがとう、ヴァンちゃん」


 シン様が俺を抱きかかえて、通信の鏡を一緒に覗き込む。


「ミルンさん、ヴァンです」

「――はい、どうしましたか?」

「訓練場で貰える太古の歴史の本について聞きたいんです」

「何か問題がありましたか?」

「あの本の内容は一般とは違うらしいです。誰が書いたとか分かりますか?」


「ん~、私では詳しい事が分からないので、じっさまや村長に聞いてみます。ちょっと待っていて下さいね」


 ミルンさんが居なくなった鏡をじっと覗きながら待っていると、賑やかな話し声が聞こえてくる。


「――ヴァン、お待たせしました。直接話して貰おうと思って連れて来ましたよ。じっさま、お願いしますね」


 最高齢のじっさまが杖を突きながらゆっくりと鏡に近付いて来る。


「ヴァン、元気かい?」

「ん、元気。じっさまは今日もツヤツヤ毛並み」


「ほっほっほ。しっかり温泉に浸かっているからのぉ。それで、本についてじゃったの。それは代々、白族が大事に受け継いで来たものじゃ。儂もじっさまに聞いた話なんじゃが、どうやら儂らのご先祖様は幾度か太古の歴史の戦いに参加していたらしくてのぉ。その時の心震える戦いの様子を後世に伝えていきたいと願ったそうなのじゃ」


 思わずシン様達と顔を見合わす。白族が戦いに参加していた? 初耳だ。


「それでのぉ、創造主様達が傷付きながら必死に戦っても勝つことの出来ない姿を見て、せめて物語の中では魔物の王を倒し、幸せな未来を掴むという姿を書きたいと強く思ったそうじゃ。そして、書き上げた物語は外に出す事なく、一族が大事に大事に伝えて来たんじゃ」


「何で外に出さなかったの? 一応、ハッピーエンドで終わってるし、強い敵と戦って勝つとか喜ばれると思うけど」


 シン様の問いに、じっさまが口元の毛を撫でながら遠い目をする。俺も年を取ったら、口周りの毛があんなに長く伸びて髭みたいになるのだろうか? 俺も口周りの毛を思わず撫でつつ答えを待つ。


ニコちゃんとヴァンちゃんが読んでいたのは村に独自に伝わっていたものでした。

人気がある話なのでバリエーション豊かで、絵本から分厚い本まであります。寝る時に読んで貰う子も多いです。


次で今日の投稿は終了となります。お読み頂きありがとうございました。

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