1話 ヘタクソでも絵が描きたい!
全ては一つの落書きから始まった。
グニャグニャの手足。
その上に花の顔。
まるでコスモスのような花。
そんな落書きだった。
小さいころから絵を描くのは好きだった。
見せると誰もが笑顔になる。
それは今も同じだ。
ただ、成長するにつれて絵の上手い、下手が判断できるようになり、絵を他人に見せるのはやめた。
自分の絵が下手であることに気付いたからだ。
でも、描くことはやめなかった。
やめられなかった。
頭で思ったことをすぐに紙に叩きつけたいんだ!
その衝動を抑制するほどの自制心はなかった。
だから、授業中でも描きたくなったら、教科書の片隅にでも殴り描いては消していく。
そんな日々を過ごしていた。
文化祭も終え、冬休みまで面白いことがない時期に、いつもの如く頭に浮かんだ。
人が歩いている絵を描きたいと。
しかし、自分の想像通りに人が描けなかった。
そもそも、人自体がちぐはぐで、まるで関節を知らないゾンビみたいだった。
こんなものを描きたいんじゃない!
けれど、こんなものしか描けない僕がいる。
なら、絵を学べばいいと思う人が出てくるだろう。
それはめんどい。
そこまで絵と向き合ってはいない。
今の自分が描ける範囲で描き、満足したいのだ。
この時は、人を諦め、歩く二足歩行を描くことで折り合いをつけた。
そこでパッと思いつくのは動物。
しかし、人が描けなくて他の動物が描けるわけもなく諦めた。
そして、悩みに悩んで窓の向こうの空をポーっと眺めていた時、
閃いた!
植物でいいじゃん!
根っこが足になっていてうにょうにょ動く木ならレースゲームで見たことがある。
あんな感じのを歩かせればいい。
描いてみて思った。
なんか違う。
歩いているけど、こういう歩行を求めてないんだ。
いいところついたと思ったんだけどな。
植物…
はっ!
これだ!
思いのままにシャーペンを走らせる。
描いたのはコスモスの花。
これに葉っぱの手と足をつければ、
できた!
これだ!
これを求めていたんだ!
絵を描いてこんなにも嬉しくなったのは、これが初めてだった。
オノショーによる新作長編「SAKURANBO」始まりました!
楽しく書いていくつもりなので、お付き合いしてくださると幸いです(*´ω`)