緩み、解け、繋ぎ合う
『お疲れ様』
『おぅ、大和。お疲れ』
『…通話に切り替えていい?』
『あー、なら、俺から掛けるわ』
LINEのトーク画面が消え、通話の呼び出し画面に切り替わる。
大和は、3コール分を使って深呼吸をすると、通話を開始した。
心音が、うるさく鳴り響く。
「タカ兄さん、時間を割いてくれてありがとね」
【いいんだよ、気にすんな。それより、話があるんだろ?何だった?】
「……」
【…大和、どうした?】
「………………………………………あのさ」
【おぅ】
大和は開きかけた口を噤んだ。
決断したのだから、言わなければ。
好きな人を待たせてしまっている。早くしないと。…頭では分かっていても、やはり怖くてたまらないのだ。拒絶されることや、幻滅されることが…
【大和。何を俺に話すつもりかは知らないけど、一度落ち着け。俺は、お前に「タカ兄さんなんか嫌いだ」とかさえ言われなければ、大丈夫だからさ】
大和を落ち着かせるように、タカアキが笑いながら言う。
その声音は、いつも通り柔らかくて、温かくて。
出そうになった涙を、必死に飲み込んだ。
「…ごめん、落ち着いた」
【そっか】
「…話したいのは、僕の…ッ」
【ん?】
「………好きな人のこと、なんだ」
【……うん】
「…タカ兄さん、」
【うん、どうした?】
言え。
「僕が好きなのは、タカ兄さん、だよ」
【…………うん、………………え?】
「…ッ」
明らかに動揺している声で「え、嘘だろ?マジか…」と呟いているのが、イヤフォン越しに聞こえる。大和は大和で、「とうとう言ってしまった」と緊張で震える両手を握り込んでいた。
【大和?】
「…」
【やーまーとー】
「……」
【寝たのか?】
「起きてる」
【声震えてる】
「震えてないし」
【返事はしような?】
「ハイ」
【……で】
「?」
【色々と、質問させてほしいんだけど】
「おぅふ」
まだ少し動揺の残る声が、大和の耳に届く。
「き、拒否権は」
【あると思うかい?】
「デスヨネー」
大和は、若干遠い目をしてタカアキの尋m…質問に答えていったのだった。
【なるほどね…奏クンと別れて、割とすぐに俺を好きになってくれたんだ?】
「………………仰る通りです」
【ふーん…………………、大和?どうした?】
「………ッごめん、なさい……ッ」
【えええ何で泣くの!?俺何かした!?】
「違ッ………だっ、て、タカ兄さ、に…迷惑掛けちゃうから…(´;ω;`)ブワッ」
【待て待て待て待て!早とちりするな!】
「でも……ッ!!」
嗚咽は抑えられないし、涙も止まらない。大和は枕に顔を埋めて泣いた。告白の前に我慢した涙が、際限なく溢れてくる。
「大和が自分を好き」、この状況を未だ受け入れられていないタカアキにも、これだけは分かる。
大和の気持ちが、本物であること。
伝えるまでに、相当悩んだであろうこと…
【…あー、大和?とりあえず泣き止んでくれ】
「………グズッ」
大和が落ち着くタイミングを見計らって、タカアキが口を開いた。
【………大和、俺、今信じられないくらい嬉しい】
「…!」
【今までずっと「妹」として見てきてさ、でもいつの間にか大和を一人の女性として見ていて。最初は戸惑ったけど、これはこれで1つの恋愛の形だし、悪くないと思う。大和が泣くほど悩んで、素敵な気持ちをプレゼントしてくれたんだ。…俺も、きちんと返さないとな】
「…え?今、何て…」
頭の整理が追いついていない大和を、今度は意に介さず、タカアキが続けた。
【好きだよ、大和】
「…え!?」
【妹としても、恋愛って意味でも】
「!?!?」
【驚いたか?】
「驚くわ!!!!!!」
声を荒らげる大和の様子に、タカアキが楽しげに笑った。
「何で!?だって…奥さんは!?子供は!?」
【もちろん愛してるよ。それでも、大和に惹かれたんだ…俺も、「いけないことじゃないのか」とか、結構悩んだりしたんだぜ】
「…」
【真っ直ぐで、素直で、困難を乗り越える強さを持った大和は本当に素敵だよ】
「…そんなこと、ない」
【そんなことある。こんな素敵な女の子に想われて、俺も想うことが出来て、幸せだよ】
拒絶されなかった。そのうえ、まさか同じ気持ちだったなんて。
止まっていた涙が、また溢れ出した。
【俺達は恋人にはなれないけどさ】
「……うん」
【それでも、大和のを好きでいていいか?】
「……うん……ッ」
【…だから、泣きすぎだって。目玉溶けるぞ?w】
「タカ兄さんのせいだ僕は悪くない」
【突然のジャイアニズム】
悩んで、泣いて、最後には笑って。
そうやって、少しずつ変わっていく。
太陽に顔を向けて咲く向日葵のように温かい声が、言葉が。
冷えて壊れた心を繋ぎ止めた。
「タカ兄さん、大好きだよ」
【大和が大好きだよ。俺の誇りだ】
2人で笑い合う。
悪くないな、と思えた。
初めまして、橙月です。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
衝動的に書き始めた物なので、脈絡はかなり変だと思います。
少しでも楽しんでいただけたなら、作者冥利に尽きます。
…し、精進します:(っ'ヮ'c):
橙月