「彼」は
【タカアキside】
「真っ直ぐ」
これが、大和の第一印象。何に対してもひたむきに取り組む姿は、それこそ俺には眩しくて。透き通って響くような歌声に、引き込まれるほどの演技力。「とんでもない子が妹分になったものだ」と苦笑した。明るく、自分や周りを慕う彼女は、間違いなく温かい存在だ。
そんな彼女の異変は、やはり歌声に出ていた。
搾り出すように紡がれた声は苦しげで、投稿される曲も悲しい雰囲気の曲ばかり…
本能が、「まずい」と訴えた。
いつの間にかLINEにメッセージを打ち込んでいて、自分でも驚いたことを覚えている。
大和の独白は、文字で、声で、彼女の涙が枯れ果てるまで続いた。
大和は優しい。だから、ずっと弱いところを見せないように振る舞ってきたのだろう。泣き方も忘れ、全て飲み込んできたんだ。
あまりにも、不憫だった…
どうしてもっと早く、気付けなかったのか。
悔しくて拳を握りしめたこともあった。
そんな大和も、今では…完全にとは言えないけれど…ちゃんと立ち直っている。
新しく好きな人も出来たらしく、俺も喜んだ。
人を好きになることを恐がっていた大和が、再び誰かに想いを向けられるようになったことが嬉しかった。
…同時に、「羨ましい」と思ってしまう俺自身に気付いてしまった。
俺には、もう大分前に他界している妻と、今も一緒に暮らしている子供がいる。2人のことを愛していない訳がない。とても大切な人達だ。そして、俺と大和の間には、19もの年齢差。
大和は「兄さん」と呼んでくれているが、正直俺はもう中年のおじさんだ。見た目年齢は結構若いらしいけどな。
これが「許されないこと」であるとは、俺自身よく分かっている。
それでも大和に惹かれてしまう自分は、おかしいのだろうか。温かく、真っ直ぐで、本来の芯の強さを取り戻した彼女に……。
悔しいことだけれど、大和はきっと俺を「兄貴分」としてしか見ていない。
……それでも、いい。
大和が慕ってくれるかぎり、俺は彼女を妹として(好きな人としても)守っていくと決めているから。
なぁ、大和。
俺は、皆にこんな風に接している訳じゃないんだ。
「お前だから」なんだよ。
物思いに沈んでいた夜。
俺のスマホが一件のメッセージを受信した。
「…!!」
それは、遠く、年若い想い人からの。
『タカ兄さん、話があるんだ』