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向日葵の声  作者: 橙月
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逡巡として

【大和side】


時は遡り、3ヵ月前。

将来を誓い合った相手から別れを切り出されたのは、3月の中旬のことだった。


「自分は病弱で、この先何年生きられるのかも、正直分からない。こんな男の為に、将来を失わないでくれ」という言葉を耳にした大和は、必死に食い下がった。


「それでも一緒にいたい。約束したじゃないか」と。


懇願も虚しく、大和は涙を流すことになった。



それから数日後。

元恋人が何人もの女性と関係を結んでいることを、大和は風の噂で知ってしまった。その女性の中には、親友の海咲も含まれていた。彼女が大和の元恋人…奏と交際を始めたのは、彼が大和に別れを切り出したその日だったのだ。


怒りも憎しみも湧かない。ただ、虚しい。


僕は、君のおもちゃだった?

「愛してる」は、結局口先だけの言葉だったのか。


苦しい。苦しい苦しい苦しい。

一体、何を、誰を信じればいいんだよ…!?

誰か助けて。

「誰か」って、誰だろう。


「……………………………たすけ、て」


嗚咽混じりの言葉が届くはずがない。

偶然か、それとも必然か…


大和のスマホは、まるで返事をするかのように、1通のメッセージを受信した。


【大和、大丈夫か?】


兄のように慕う人物からのメッセージ。

奏と別れる前から気にかけてくれていた彼の、シンプルな文面をポカンと見つめ。





泣いた。





汚い感情も言葉も、文字にして、声にしてぶつけた。懺悔、独白、罵詈雑言。感情の溢れるままに吐き出し続ける大和を、彼はーーータカアキは、止めなかった。止められなかった。あまりにも痛々しかったのである。

噛み殺すように泣く大和の、掠れた声が…


落ち着きを取り戻した大和に、タカアキは言った。


「大和。…やっと、泣けたな。良かった。このまま溜め込むんじゃねーかって、心配してたんだぞ?」


責めることも、慰めることも目的としていない言葉が、一気に大和の心を解いたのだった。


それからというもの、大和とタカアキは頻繁に連絡を交わすようになり、大和は知らず知らずのうちにタカアキに対する想いを育てていった。



その日は唐突に訪れた。

早い話が、大和はTwitterでタカアキに話しかけている女性に、嫉妬してしまったのである。


「信じられない」と否定しようとする自分と、「あぁ、そうか」とどこか納得している自分。


大和の心がある意味揺れ始めるのに、時間はかからなかった。


「これからも、タカ兄さんの妹として接したい。だけど……」


自分を救い、温めた声。選んで掛けられた言葉。

それらを独占したいと願うのは、我が儘なのだろうか…


さらに、タカアキは38歳、大和は19歳。

タカアキには子供がいる。亡くなった奥さんの話を聞いたことがある大和には、タカアキがどれほど自分の妻を愛しているか、分かっていた。


…分かっていたのに、どうして。

どうして、「欲しい」と思ってしまうのだろう。


「…どうすればいいんだ…」


育ち続ける想いを、持て余して。



今に至る。

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