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向日葵の声  作者: 橙月
3/7

葛藤

【大和side】


『大和、おはよう!今日も大学かな?気をつけて行ってこいよ!』


1通のボイメ。それは、僕の寝ぼけた脳を叩き起こすには十分だった。


あぁ………どーも、皆さんおはようございます。萬 大和です。現在、午前5時10分です。眠いです、すっげぇ眠い。カラオケアプリやら、ラジオアプリやらに手を出している、ちんちくりんな大学生です。

これでも女です…一応。


少し伸びた髪を適当にまとめて、着替えて、教科書が詰まったカバンを背負って、チャリに乗る。朝ごはんは…コンビニで買うか。


「…まさか、タカ兄さんからボイメが来るなんてね…」


殆どサプライズのような出来事。僕だけに向けられた声が、言葉が嬉しくて、緩みそうになる頬を必死に引き締めてペダルを漕ぐ。雨上がりの少しひんやりとした空気が気持ちいい。

僕が兄のように慕っている「タカ兄さん」という人物は、実際に血の繋がりがある訳ではない。カラオケアプリで出会ったフォロワーさんの一人で、関わっていくうちに何となく「兄妹」になっていったのだ。ふざけあったり、苦しい時は相談に乗ってくれたり。他人だけど、赤の他人じゃない。僕にとっては、本当に自慢の「兄」だ。


「兄」…なんだ。

…だから…



『それで悩んでるんだ。もう認めちゃえば?大和は"タカ兄さん"のこと、好きなんでしょ?』

「う…認めたくない…」

『何で』

「変だから」

『はぁ?』


イヤフォンの向こうで、親友の海咲がため息をついた。


『何が変?どこが変?大和も、大和が抱いた気持ちも、変じゃないよ。』

「……タカ兄さん、既婚者だし、子供もいる…オマケに19歳の年の差………僕がしゃしゃり出ていい状況じゃないじゃん…」

『だから?』

「どうすればいいのか分かんないんだよ!!」


人の少ない講義後の学生食堂で、思わず声を荒らげた。チラチラとこちらを怪訝そうに見て去っていく人達。煩くしてごめんなさい。


『大和が辛い時に、"タカ兄さん"は一番最初に大和の異変に気づいた。大和自身から何があったのかは聞いているから、気持ちも何となく分かるけど………そりゃ好きになるって。しょーがないよ』

「……」

『大和の元カレを横取りした私が言えることじゃないけど…さ。私にも、色んな形でバチが当たってる。親友の心を傷つけたバチがね』

「…ッ海咲、それはもういいって…」

『いいんだよ、本当のことなんだから。……大和、私はさ、大和には幸せになってもらいたい。傷つけてしまった分まで』

「……」

『無責任だよね…ごめん』

「そんなことない。話聞いてくれてありがと、海咲」


海咲は、『自分が納得するまで考えてみなよ』と残して通話を切った。複雑に絡み合った間柄であっても、変わらずに接してくれる海咲に僕は感謝していた。


でも、分からない。

身の振り方、関わり方、全部。関係が壊れてしまうくらいなら、黙っていた方が良いのかもしれない。



真っ黒なスマホの画面を見て、僕は小さく嘆息した。

純粋に「兄」として慕う気持ちと、彼を「男性」として慕う気持ちが、僕の中で渦巻いていた。

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