ナマ足魅惑のマーメイド
西暦1999年。
生まれて初めての恋人は、まるで若手芸人の罰ゲームみたいなプレイを彼女に求める。
たとえば今日は『ナマ足魅惑のマーメイドっていうけれど、じゃあ逆に、足以外全部ナマの逆マーメイドに、人間は欲情するのだろうか』だなんて。
そんなプレイの後、彼女は疲れて眠ってしまった。おかしな夢を見た。気付くと知らない浜辺に立ってた。遠くの海を、船が通りすぎてく。視線を感じた。それは彼女を、いろんな角度で観察してるみたいな視線だった。特に気持ち悪いとか、彼女は感じたりはしなかった
海を見ながら彼女が考えてたのは、永遠とかそういったこと。気が付くと隣に立ってた少年。彼は、彼女にとって初めてじゃない、どこかで彼女が見たことあるような顔で、彼女を見ていた。正確に135秒で、夢は終わった。
目が覚めて「ぎゃあ!」と悲鳴。それは当然だろうと彼女は思う。息子と一緒の布団に、全裸にソックスと魚の被り物だけを身につけた女が寝てるのを見た母親が、気絶するほど驚いたって、何も不思議はない。
どすんと彼の母親が倒れて、その音に、彼も目を覚ます。彼女を見た。彼女も彼を見た。彼はいつも通りの、彼女に恋してる顔だった。同じような顔を、彼以外にも、わりと最近彼女は見たような気がしたのだけど、彼女はまったく思い出せなかった。