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労働哀歌  作者: 錫 蒔隆
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測量士助手 時給800円

 いろいろな世界に触れることができる。それは日雇い派遣の役得であった。それは現在から過去を俯瞰して思うことであり、その当時は金のための苦役としか思っていなかった。ただその当時でも、わくわくと心を躍らせたことが一度きり。

 測量士の助手。中学生のころ、なりたい職業として書いたような記憶がある。なぜだかはわからないが、漠然とした憧れがあった。三角儀(正式な名称はわからない)を覗きこんでいる姿が、かっこよく見えたのかもしれない。派遣さきは本業の会社よりも近い。これは行っておくべきだと感じ、時給の安さを気にせずに応募した。例によって、隔週土曜の休みを利用して。


 8時集合の場所は、住宅街のなかの一軒であった。事務所の看板を掲げているわけではない、ただの民家。ここでまちがいないだろうと勇気をふりしぼって、ベルを鳴らす。出てきたのは、四十くらいの男性。

「派遣の者なんですが」

「ああ。待ってましたよ。よろしくおねがいします」

 なかへと案内され、作業着に着かえさせられる。男性が運転する乗用車の助手席に乗り、出発する。

 車中、どういった話をしたのかおぼえていない。仕事内容やふだんなにをしているのかを、話したような記憶がある。

 近隣を3件まわった。業務内容はよくはわからないが、すべて個人宅であった。建てかえのためのうんぬんかんぬん。路面に打ちこまれた鋲のような、座標をさがす。その上に赤白縞のポールを立てて持つ。測量士が三角儀で、それを測量する。

 じつにつまらない、それこそ誰にでもできる仕事であった。時給800円は妥当である。けれどふしぎと、時間の澱みは感じなかった。私の好奇心を刺激するような世界に触れていたからだろう。8時から17時の契約であったが、15時に終わる。賃金は浮いた2時間ぶんももらえる。昼には、コンビニ弁当と茶をおごってもらった。これ一回きりであったが、じつにおいしい仕事であった。


 一飯の 恩義を果たさず きたるわれ さらにはこうして 恩の上塗り

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