自転車メーカーの倉庫 時給900円
そこはおせちの工場と同じ工業団地にあり、家から近い。祝日を利用しての、8時30分から17時30分の実働8時間。派遣された人数は、私をふくめて二名。
40フィートの海上コンテナに、ペダルとサドルとハンドルのない自転車が二段に満載されている。これをひたすらにおろす。ひとりが台となった一段めの自転車の上にあがり、二段めに積まれた自転車をおろす。それを下で受けとり、コンテナの外へ転がせてゆく。
外に出した未完の自転車を、倉庫のなかへ納めてゆく。倉庫に入れるのは、倉庫員の仕事である。たがいちがいに隙間なく並べられた自転車の上にベニヤ板を敷き、土台とする。台としたその上に、自転車をたがいちがいにして隙間なく載せてゆく。二段めの土台がこうして完成し、その上に三段めの自転車を載せる。そうして載せた自転車を崩れぬよう、紐で結束する。派遣された私たちは、その補助をする。どういう理念によって並べられて載せられてゆくのか、まるでわからない。わからないまま下から自転車を抱えあげ、上にいる関西弁の倉庫員にわたす。
三台の海上コンテナから自転車をおろし、自転車を持ちあげつづけた。なかなかに重労働ではあるが、時間は澱んでいない。もうひとりの派遣はこういった作業に慣れていないらしく、疲れきったようすであった。本業よりも体を酷使するが、引越や家具家電の宅配にくらべたらどうということもなかった。
ただ15時ごろから、時間が澱みだす。出荷の時間である。倉庫員につきしたがって出荷する自転車を転がしてゆくのだが、これがつらかった。拷問のように、時間が経たない。早く終わらないか終わらないかと、時計を見る。終業時間が待ちどおしい。17時30分のチャイムが鳴り、私は逃げるように家へと遁走したのである。
自転車に憑かれてもう、三年になる。1万5000円でマウンテンバイクのルック車を買い、それから2万9800円のロードバイクを買った。それから銀座まで行って、7万5000円の斬新なデザインの折りたたみ自転車を買った。マウンテンバイクは売却し、現在保有するのは二台。
去年の11月、千葉県までつけ麺を食いに行ったのを最後。最近はほとんど、遠出をしていない。膝を痛めてしまってから、友だちをロングライドに誘うのをためらう。友だちは25万のカーボンフレームのロードバイクを買ったが、部屋に飾ったままにしてある。晴れていて早く帰れるであろうという日に、通勤につかっている。7万5000の折りたたみも、ここのところ輪行袋から出していない。生来ものぐさな私は、輪行袋から出してしまう行為をめんどくさがる。ネット小説の世界に触れたことも大きい。こちらのほうに夢中になり、自転車を疎かにしがちである。
スポーツ自転車が欲しいと思っていた時間が、一年くらいある。一年も購入をためらっていたのは、買っても乗るかどうか不安だったからだ。だが買ってみたら、乗った。かなり乗った。利根運河は制覇した。江戸川も制覇した。ディズニーランドまで行った。利根川はまだ、制覇していない。もっと余暇があれば、と思う。自転車への情熱は、冷めたわけではない。霞ヶ浦も制覇したいし、しまなみ海道も行きたい。四国お遍路も行きたいし、日本一周もいい。それに打ちこめる、恒久的な余暇が欲しいのだ。
私の自転車熱は、この自転車の倉庫で働いたことに端を発するのかもしれない。いまにして思えば。
チェレステの 空はひろく どこまでも ジオスブルーの 海へとそそぐ
ルイガノに キャノンデール トレックと いろいろあれど みな台湾製




