表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
労働哀歌  作者: 錫 蒔隆
8/22

自転車メーカーの倉庫 時給900円

 そこはおせちの工場と同じ工業団地にあり、家から近い。祝日を利用しての、8時30分から17時30分の実働8時間。派遣された人数は、私をふくめて二名。

 40フィートの海上コンテナに、ペダルとサドルとハンドルのない自転車が二段に満載されている。これをひたすらにおろす。ひとりが台となった一段めの自転車の上にあがり、二段めに積まれた自転車をおろす。それを下で受けとり、コンテナの外へ転がせてゆく。

 外に出した未完の自転車を、倉庫のなかへ納めてゆく。倉庫に入れるのは、倉庫員の仕事である。たがいちがいに隙間なく並べられた自転車の上にベニヤ板を敷き、土台とする。台としたその上に、自転車をたがいちがいにして隙間なく載せてゆく。二段めの土台がこうして完成し、その上に三段めの自転車を載せる。そうして載せた自転車を崩れぬよう、紐で結束する。派遣された私たちは、その補助をする。どういう理念によって並べられて載せられてゆくのか、まるでわからない。わからないまま下から自転車を抱えあげ、上にいる関西弁の倉庫員にわたす。

 三台の海上コンテナから自転車をおろし、自転車を持ちあげつづけた。なかなかに重労働ではあるが、時間は澱んでいない。もうひとりの派遣はこういった作業に慣れていないらしく、疲れきったようすであった。本業よりも体を酷使するが、引越や家具家電の宅配にくらべたらどうということもなかった。

 ただ15時ごろから、時間が澱みだす。出荷の時間である。倉庫員につきしたがって出荷する自転車を転がしてゆくのだが、これがつらかった。拷問のように、時間が経たない。早く終わらないか終わらないかと、時計を見る。終業時間が待ちどおしい。17時30分のチャイムが鳴り、私は逃げるように家へと遁走したのである。


 自転車に憑かれてもう、三年になる。1万5000円でマウンテンバイクのルック車を買い、それから2万9800円のロードバイクを買った。それから銀座まで行って、7万5000円の斬新なデザインの折りたたみ自転車を買った。マウンテンバイクは売却し、現在保有するのは二台。

 去年の11月、千葉県までつけ麺を食いに行ったのを最後。最近はほとんど、遠出をしていない。膝を痛めてしまってから、友だちをロングライドに誘うのをためらう。友だちは25万のカーボンフレームのロードバイクを買ったが、部屋に飾ったままにしてある。晴れていて早く帰れるであろうという日に、通勤につかっている。7万5000の折りたたみも、ここのところ輪行袋から出していない。生来ものぐさな私は、輪行袋から出してしまう行為をめんどくさがる。ネット小説の世界に触れたことも大きい。こちらのほうに夢中になり、自転車を疎かにしがちである。

 スポーツ自転車が欲しいと思っていた時間が、一年くらいある。一年も購入をためらっていたのは、買っても乗るかどうか不安だったからだ。だが買ってみたら、乗った。かなり乗った。利根運河は制覇した。江戸川も制覇した。ディズニーランドまで行った。利根川はまだ、制覇していない。もっと余暇があれば、と思う。自転車への情熱は、冷めたわけではない。霞ヶ浦も制覇したいし、しまなみ海道も行きたい。四国お遍路も行きたいし、日本一周もいい。それに打ちこめる、恒久的な余暇が欲しいのだ。

 私の自転車熱は、この自転車の倉庫で働いたことに端を発するのかもしれない。いまにして思えば。


 チェレステの 空はひろく どこまでも ジオスブルーの 海へとそそぐ


 ルイガノに キャノンデール トレックと いろいろあれど みな台湾製

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ