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労働哀歌  作者: 錫 蒔隆
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ブラック・ジョーク

 今話は急遽の番外である。だが、書かずにはおれない。この件を見すごして筆誅を加えなければ、『労働哀歌』の意義は喪われる。ゆえに、書く。


 出がけに、共産党のポスターが貼ってあるのを見つけた。「ブラックな働き方をなくす」と書いてあった。ブラック・ジョークにしては、グロテスクがすぎる。

 選挙が近い。私は特定の支持政党を持たない。選挙はつねに消去法。投票したい候補者などいない。だからいつも、白票を投じている。「投票に行くことに意義がある」とのきれいごと、支持したい候補者がいて羨ましいかぎり。居住地区の参院選における共産党の候補者が、私の前職場にいた鬼配車に瓜ふたつだった。だから向こうは私を知るまいが、一方的に親近感をいだいていた。投票することはなかったが。その選択はどうやら、完全にただしかった。

 「ブラックな働き方をなくす」。たしかに与党自民党は一億総活躍社会なる、老人も休ませないというスローガンを打ちだしている。ブラック会社の創業者を候補者に立てたりと、ブラック国家化を推進しているように見える。旧民主党の支持母体は、労働組合の総元締めである連合。労働組合なんてものは、労働者から組合費を搾りとるだけの存在だ。その組合費で会社とブックありのプロレスをやって、仕事などしない。百害あって一利なし。労働者の敵だ。

 では、日本共産党はどうか? 労働者の味方なのか? そんなことはまったくない。労働者の味方ヅラをしているから、よりタチがわるい。共産党員からいろいろ搾りとっているという噂は耳にするが、実体験としてわからないので割愛する。わかることを書こう。「ブラックな働き方をなくす」。日本共産党に、そんなことを言う資格はない。職員に共産党支持者が多いという生協が、完全なブラック会社だからだ。

 生協がそういう会社だと知るまえに、徒歩一分のところにある生協の配送所の求人に応募した。総額23万円プラス業績給。基本給だけなら手取りで18万ほどにしかならない。祝日は休めないが、土日は完全に休み。その業績給というのがなんなのか。たとえば団地階段五階のコースとか組まされたなら、その階数歩合とかがついたりするのだろうか。とにかく話を訊いてみよう。近所であることだし、軽い気持ちで行ってみたのだ。

 面接してくれた所長は四十代前半くらいだったろう。ずいぶんと若く見えた。

「へえ、運管持ってるんだ」

 私の履歴書を見るなり、所長の歓心を得た。運管とは、運行管理者資格のこと。配車業務に必要なこの資格を、前職場で一浪してまで取らせてもらった。しかも二回めのときは、品川であった事前セミナーの代金まで会社負担であった。そのセミナーのおかげで、私は資格を得た。入ってから四年は、いい会社だったのだ。五年めから支店長と社長が変わって、派遣労働をしなければならぬほどの困窮に追いこまれたが。

 運管のおかげでつかみを得る私は、給料のことをずばりと訊く。業績給というのが、どういう計算なのか。「そのへんにいるひとに生協の勧誘をしたら、その合否にかかわらず1件800円」という、誰が査定できるのかわからない算出法だ。しかも1件800円。根がしょうじきなのかこの所長、訊いていないことをこたえてくれる。

「基本給のなかに、残業50時間ぶんがふくまれているから。51時間を超えたら残業代が発生する」

 その話を聞いて、この会社に入ることはないなと切りかえた。手取りが下がったのは時差出勤によって、労働時間を削られたからだ。骨身まで削りとるようにえぐいやりくちで。ゆえに転職を考えて面接を受けたが、生協の条件はよりひどい。残業を50時間もやれば、手取りで20万にはなるからだ。こうして底辺下流の話をしているのは、恥ずかしい。だが、書かねばなるまい。

「土曜は年三回だけ出勤」

「8時半始業だけど、みんな7時くらいに積みこみに来る(見なし残業にすらカウントされない)」

「配達は60件くらいまわるかな」

「選考には関係ないんだけど、一日だけ無給で配達助手で乗車してもらえるかな」

 所長の口からぽんぽんぽんぽんと、ひどい話が飛びだしてくる。ここまで暗黒面をつつみかくさずに話してくれるのはむしろ、すがすがしい。逆にホワイト企業なのかもしれない。暗黒面をひたかくしにして、いざ入ってみたら話とぜんぜんちがう……そんな詐欺めいたブラック会社が世のなかには存在していて、私もそれに釣られた経験を持つ。その経験が少しだけ、私を賢明にしていた。

「60件っすかあ、ひゃあきっついっすねえ。自分には無理そうです」

「一日乗車は時間取れないっすねえ」

 落ちよう落ちようと必死になった面接もめづらしい。60件まわるにしても、コースによって不公平感が出るのは眼に見えている。新人が楽できるおいしいコースをつけられるわけがない。団地まわりとか横持ちが長い(道が狭くてトラックで近くへ行けない)コースをつけられるのがオチだ。その合間を縫って生協への勧誘など、できるわけがない。

「合否は後日、連絡します」

 これだけ覇気と誠意のなさを見せつけたのだ。採用ということはあるまい。万が一に採用となっても、辞退する。意図したとおり、採用の電話は来なかった。あとで聞いた話だが、妻の実家(団地エレベーターなし)で生協を取っている。ドライバーはちょくちょく変わるそうだ。所長が私をペテンにかけていたら、私がつかいすてにされていたのだ。他人事とは思えず、ぞっとする。所長が善人でよかった。

 あれだけブラックであることを隠さないというのは、ブラックであるという自覚がないからなのだろう。自民党公認候補だった女みたいな名まえの男も、大手アパレル会社の社長もそうなのだろう。ブラック企業と叩かれても、なぜ叩かれるのかを理解しない。真のサイコパスだ。

 「ブラックな働き方をなくす」。自覚のない暗黒というのは、どこまでも残酷だ。自分を疑うことがないから、どんな非道も行使できる。もしも日本共産党が政権を取ったら、戦争は起こさないかもしれない(アメリカがどう出るのかはわからないが)。けれど、自国民を虐殺するような国になるだろう。あのポスターを見て、その思いを強くした。


 赤と黒 まじりまじりて 黒くなり 搾りつくされ 散らかす血反吐

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