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労働哀歌  作者: 錫 蒔隆
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現代的人身売買の美学

 人材派遣会社にとって派遣労働者とは、売りこむべき商品である。何名欲しいという顧客の需要に日々、供給をおこなってゆく。だが派遣会社の社員は、売りこむ商品の知識を欠く。商品の外装は、データによって把握している。性別と年齢。商品の特質を理解していない。有能であるか、無能であるか。社会人として適格かどうか。当日に来なかったり途中で逃げたりする人材もいて、客からのクレームで不適格者である事実を知るのだ。不良品をつかませてしまったことを、客に謝りにゆく。奴隷商というのもたいへんな仕事であることは、容易に想像がつく。

 派遣会社に面接はない。セミナーよろしく会議室に十何人かをすわらせ、人材登録の用紙に記入して印鑑を押す。それで登録完了である。選別はない。来る者を拒まない。私が派遣登録をしたきっかけは、おせち製造二日間の求人広告である。本職の午前休を利用してわざわざ、隣市の駅前にある派遣会社の事務所まで行ったのだ。

 携帯電話のサイトにアクセスするためのIDとパスワードをもらう。仕事の斡旋と決定はすべて、そのサイト上でおこなわれる。サイト上にカレンダーがあり、日付を選択すると斡旋できる仕事の一覧がずらりとならぶ。どこそこで何時から何時、時給○○○円。その現場に必要な道具などが書かれている。その現場に入りたいと思ったら、サイト上から応募する。定員があって、早いもの勝ちである(それを煽るような文言が、サイト上のあちらこちらに見える)。早いもの勝ちで、そこの現場に入れるかどうかが決まる。その合否が、メールで送られてくる。現場の名称と住所、それに労働条件が記された味気ないメール。派遣会社も派遣労働者も煩わしさを回避できる、じつに効率的に構築されたシステムである。

 最初の五回までは試用期間ということで、時給マイナス50円からのスタート。登録五回めから、時給が50円あがる。早いところ時給50円をあげようと、私は躍起になって仕事を入れる。おせち製造二日間のまえに、三回現場に入っている。あの当時の私は生活に追われ、かつかつと貪欲であった。独身であれば、このような苦役に身を投じる必要はなかった。こうして私の一年十ヶ月ちかくにおよぶ、日雇い派遣生活が幕を開けるのである。


 会社には 秘密の仕事 入れてゐる 罪悪はなき スパイのやうに

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