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労働哀歌  作者: 錫 蒔隆
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二度めの転職、路線会社

 『ローカル路線バス乗り継ぎの旅』は大好きだが、路線といってもバスではない。路線の運送屋である。路線の運送屋というのをわかりやすく挙げれば、ヤマト運輸や佐川急便といった会社である。自社の拠点間で荷物を往来させる路線を持っていることが、路線会社の条件である。

 私が就職したのはそんなビッグネームの大企業ではなく、もっと零細の中小企業である。一部地域の配達に特化した路線屋である。路線会社にも特色があって、地方の得手不得手がある。ビッグネームは全国を網羅しているが、中小がその地方の配達ではビッグネームに負けないという強みを持っているものである。

 何日で着くのか。午前中に配達できるのか。運賃はどのくらいでできるのか。どんな荷物でも持っていくのか。第一第二の条件はともかく、第三第四の条件をビッグネームはクリアしない。そもそも住みわけがちがう。ヤマトや佐川は主に個人宅への配達を主とし、集配車も小さいトラックだったりする。運転手ひとりが手で持って運べないような荷物は、持っていけない。家具や家電なんかは、専門の業者がいる。

 企業が企業に向けて出荷するような荷物。たとえばお菓子のケース1000ケースだったり、フォークリフトで荷役しなければならない1000キログラムもある工業製品だったり。こういったものを、中小の路線会社が運ぶ。同じ地方に地盤を持つ中小の路線会社のあいだで、パイの奪いあいとなる。争いは同じ次元でしか起こらない。

 なぜ運賃を安くできるのか。引きとった荷物を積んだトラックで、そのまま配達に行くわけではない。集荷したそれぞれのトラックが、帰社して荷物を下ろす。集まった別々の荷物を、同じ箱に積みつけるのだ。私の入った会社では、13メートルのトレーラーシャーシ。この箱を満載にして港へ運び、箱だけ切りはなして海を渡らせる(運行という行程)。海の向こうで向こうのトレーラーヘッドがシャーシを牽き、向こうで荷下ろしをして方面別に分ける。そこから方面別の運行車に積みこんで出発させ、各事業所で荷下ろしをする。そうして向こうの集配ドライバーが朝に仕分けされた荷物を積み、配達に出発する。集荷から配達まで、その荷物は何人もの手に触れることとなる。

 運行車へ荷物を積みこんで、私たちの業務は終了した。ふつうは荷積みに荷下ろしは必須の作業であるが、ここでは荷積みで終わる。下ろしは他人がするのだから、下ろしやすさということをそこまで考慮しない(行きさきの書いてある荷札をできるだけ正面に向けて、下ろして仕分けしやすいようにはするが)。そこで存分に、積みの美しさというものにこだわってしまう。「積み師の世界」というものについては別に章を設け、熱く深く語りたい。


 この会社には七年半在籍した。入社当初は「この職場は天国」と感じた。そのまえがブラックすぎたから。この前後が逆であれば、眼もあてられない。フォークリフトの技能講習と運行管理者の資格を取らせてもらった。大型と牽引の免許も取らせてもらえたのだが、トレーラーに乗る気のなかった私は拒みつづけた。トレーラーの運転は運転手のセンスが出るので、取ったところで上手なトレーラー乗りにはなれないことを確信していた。ただ夢のなかで二度三度、運転したことがあるだけだ。ヘッドとシャーシを繋ぐホースを繋ぎあわせるのを忘れて、あわてふためく内容。そもそも、ホースを繋がないと動かないらしい。

 この会社で、骨を埋める気でいた。ドライバーから事務員兼積み師となり、積み師という仕事にやりがいを感じていた。その毎日は充足していた。だが、状況は変わる。支店長が変わる。社長が変わる。ベテランを大事にしない。展望を塞がれる。結婚してから手取りが下がる。ドライバーにもどされる。事故をこわがる。充足もやる気も喪う。最後の一年ばかりは、無駄な時間だった。もっと早く辞めればよかったと、いまだに後悔している。入社当初が忘れられず、あのよかった日々がもどってくると我慢しつづけたのがよくなかった。

 もしも入社当時の支店長のままで、積み師として日々をすごしていられたのなら。私はいまも、あの会社にいつづけていたはずである。

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