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労働哀歌  作者: 錫 蒔隆
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就活の惨敗、最初の就職

 スーツを着た大学四年生の私の心は、罅われていた。否定されつづける日々を、マクドナルドのデフレハンバーガーで生きのびる。五十社は受けただろうが、そのすべてから私は否定された。

 私は小説家になりたかったのだ。サラリーマンになりたいわけではなかった。志望動機など訊かれたところで、真摯なこたえなど用意していなかった。労働に希望など持てるはずがない。面接官も、そこを見抜く。並みいるライバルたちのしっかりとした質疑応答、準備不足の私が落とされたのは正当なことであった。

 必死さが足らなかった。未来を知ることができたのなら、大学四年生の私は必死に就活をする。三年生時からもう、就活を開始していただろう。受けてきた五十社すべて、いままでの職場よりもホワイトな会社であるだろうから。小説家になるという夢は棄ててはいないが、現実的にはブラック会社からは脱却したい。ただ未来を知ることができずにホワイト会社に就職し、そこで不満をいだいて辞めてしまう。そうして家から近いというだけの理由で、ブラック会社に就職してしまう。そういう不幸な人間を、ひとりだけ知っている。彼にくらべたら私などは、ホワイト会社を知らないだけ幸福であると考えるべきなのだろう。

 なにを以てブラック会社と認定するか。求人内容と実態がちがっていればもう、ブラックと呼んで差しつかえないだろう。ようやく就職が決まった産廃処理のリサイクル工場は、まさにそれだった。隔週休二日制。年昇給一回。賞与年二回。そのすべてが嘘っぱちだった。休みは日曜日と祝日のみ。昇給も賞与もなし。一年半で辞めたのは、昇給がなかったからである。ボーナスがないのは我慢できた。いまの職場はボーナスがないことを承知で入った。

「ちょっと転々としすぎじゃないかな」

 のちに受けた圧迫面接で、そう言われた。履歴書では、ものごとの本質は見えない。求人とちがう労働契約を交わさせる悪質な会社があるということは、もっと周知されなければならない。労働者はそういった被害に遭っても、忍従を強いられる。職歴の多さは労働者の悪徳と見なされ、犯罪者あつかいされるからだ。


 いろいろと悪口を書いたが、最初の会社をそこまで嫌忌していない。いまでは断絶してしまっているが、人間関係は良好だった。私の上司はバングラディッシュ人だった。日本語は完璧。NHKの「生活笑百科」が好きで、毎週観ていた。バングラディッシュ人に、フォークリフトとトラックの操縦を教わった。

 仕事内容は、リサイクル品の仕分けである。西濃運輸が毎日4t車二台で持ってくる要リサイクル品を、分別してパレットに積んで保管。リサイクルのラインに流す。開梱した段ボールを2tのパッカー車(ゴミ収集のダンゴムシめいたお尻のトラック)に投入して、近所の紙リサイクル屋に持っていく。私は事務職志望として入社したが、気づけばこんな現場仕事に就いていた。学生のころ、こんな仕事をやるようになるとは想像もしなかった。また、そんな自分が厭にならなかった。いまにして思えば、それが不幸の始まりであったのだ。


 もう下手くそな、短歌もどきをこじつけるのは止めにする。

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