校長から見た千優
第五話です。
この世界の学校と千優が住んでいた世界の学校は違う。
その理由はたくさんあるが、中でも違うのは学校の作られた目的である。
この世界は五十年前、様々な種族が互いに争い合っていた。
憎しみが憎しみを生み、戦いが戦いを生み、同じ種族でさえ従わないなら殺す独裁者までたくさんいた。
しかし、ある六つの種族が同盟を結んだ。
その六つの種族の長は毎日のように起こる戦いに疲れていた。
どちらからも反対の声があったが、どうにか説得するか追放をして同盟は締結した。
その六つの種族はいつしかこの世界で最大の勢力となった。
そして、六つの種族の長たちは二度と種族同士の争いが起きないように、あらゆる種族と条約を結んだ。
といっても、憎しみが消えたわけではない。
友を殺された者、兄弟を殺された者、親を殺された者、子供を殺された者。
誰もがほかの種族を恨んでいた。
だからと言って諦める長たちではなかった。
悩んだ結果行ったのは、子供たちに大人の憎しみを引き継がせないようにすることである。
少々物騒な言葉にすると、子供たちを大人から隔離したのである。
他の種族と一緒に生活することで、他の種族の偏見をなくす。
そのために作られたのが学校なのだ。
入学が決定した後、シモーネは言った。
「手続きはワシがやったるから、とにかく寝とれ」
シモーネはそう言って手に持っている杖を振って言った。
「『眠れ』」
急に眠気に襲われた千優は、シモーネが何をしたのか考える暇もなく眠った。
別に魔法まで使う必要はなかったかもしれないが、シモーネの家にはたくさんの重要な紙や危険物がある。
下手に歩き回って大変なことになるより百倍良いだろう。
爆睡している千優をベッドまで運んでシモーネは思った。
――こいつはいったいどんな世界に住んでいたのじゃ?
サラサラの黒髪におだやかな黒い目、百六十センチ程の身長に、ケンカなんてしたことありません!と言うようなほっそりした体つきからして平和な環境で育ったことはわかる。
しかし、右手の中指にあるマメがつぶれた跡、字の書きすぎによって出来たのだと推測できるが、それでも何時間書き続けたらこうなるのかは想像もできない。
そして千優は気付いていなかったが、千優の顔は少し腫れていた。
頬を叩かれたのだろう。
さらに千優の学生服を脱がすと、腹などの目立たないところに何か所も痣があった。
そのことから察するに、千優は何者からの暴行を何度か受けており、腹の痣と顔の腫れはその時付いたのだろう。
そして、いったい何者が千優をこんな風にしたのか?という考えが浮かび、ある一つの答えにたどり着いた。
――もしや親がやったのか?
そう考えれば辻褄が合う。
手にあったマメの跡は、親によって数時間、いや、もしかしたら十時間以上も勉強させられて出来たもの。
そして、顔の腫れや腹の痣は親の体罰によって出来たのだ。
元の世界に帰れないと知っても泣いたりしなかったのは、その世界がそれほど嫌いだったのだろう。
シモーネは手に持っている杖の先端を、千優のケガをしている部分につけて魔法を唱えた。
「……『治癒せよ』」
杖の先端から翡翠色の光が飛び出し、ケガが一瞬で回復した。
――まぁ、起きたらスープでもやるか。
そう考えたシモーネは、入学の手続きをするために部屋から出た。
ちなみに、記憶を忘却させる方法もついでに調べたのは彼だけの秘密である。
早速評価してくれる人がいて、少し喜びの舞を踊っていました。
全裸のまま盗んだバイクで走りだしそうな自分が怖い。