世界の穴と異世界学校
第四話です。
この世界には、たまに空中に穴が開いて異世界からの『何か』が出現する。
それがこの世界の常識なのだ。
リンゴが下に落ちるように、呼吸をしないと死ぬように、原理はわからなくてもそれがこの世界の法則なのだ。
その現象のことをこの世界では『世界の穴』と呼んでいる。
およそ十年に一回の頻度で起こるそれは、この世界に様々な変化をもたらした。
それは、必ずしも良い変化というわけではない。むしろ悪い方が多い。
様々な世界から、様々な技術、様々な文化、そして様々な種族がこの世界に出現した。
それが様々な衝突を生み、様々な戦争を生み、そして様々な死を生み出した。
よって、『世界の穴』は災いの種にしかならないというのが、一般的な考えである。
「君はそれに巻き込まれたのではないかね?」
老人はそう言った。
千優はいったん安心した。自分が死んだわけではなかったからだ。
「つまり、僕はその世界の穴とやらに巻き込まれて異世界に来たってことですか?」
老人は首を縦に振った。
「その認識で構わん。それよりも君の未来についてじゃ」
どういう意味?と視線で伝える千優に老人が答えた。
「今のところ、世界の穴から出現したものを元の世界に戻す方法は見つかっておらん。つまり、君はこの世界で永住することになるじゃろう」
千優は考えた。この世界と自分の生まれた世界のどっちが良いかについてである。
元の世界では少なくとも日本という比較的治安のよい世界に住むことができた。
ただし、あのまま生きていてもきっと勉強づめの毎日だっただろう
――それは嫌だ!と千優は思う。
「あのっこの世界は安全ですか!?」
老人は少し考えてから言った。
「……いや、絶対に安全というわけではない。しかし、身の安全は保障しよう」
続けて老人は言った。
「ワシは学校の校長をやっておってな。そこに入学せんかの?そうすればこの世界での生き方も分かるじゃろう。」
千優は意を決して答えた。
「わかりました。そこに入学します」
老人は満足そうにうなずいた。
「決定じゃの。そんじゃ、ちょっくら眠っとれ。その間に面倒な手続きはワシがやったる」
千優の中で老人の株が上昇した。
そして、老人は急に声を小さくしていった。
「あの~、じゃからドラゴンを放ったのは~、ナ・イ・ショってことで~」
千優の中で老人の株が大暴落した。
「それが狙いかっ!」
「そりゃそうじゃろうが!じゃなきゃなんで君みたいなちんちくりんに構うかヴォケェェ!!!」
「言ったなぁぁ!謝れ!ちょっとだけかっこいいと思っちゃった僕に謝れぇぇ!」
……とにかく、入学することだけは決定した。
だが千優は知らない。
異世界学校には老人とは比べ物にならないたくさんの猛者がいることを。
老人が気を取り直して言った。
「こほんっ、とにかく入学するんじゃな?じゃあ自己紹介をしよう」
「ワシの名前はシモーネ・アッカ―、種族はオーガ、学校で校長をしておる」
老人――シモーネ・アッカ―はそう言って微笑んだ後、「次は君の番じゃよ?」と言った。
「えっと、僕の名前は霞千優、人間で学生です」
そして、千優は国立アジアス学校に入学した。
「……で、ドラゴンの件は~」
「しつこいっ!」
千優「そういえば食費はどうするんです?」
シモーネ「え~っと、……なんか手伝いでもして~」
千優「報告」
シモーネ「ワシに払わさせてください!」
みたいな会話があったりなかったり……。